224, シィーの忌まわしき遺物でしかない「推論」など、もはや見向きする価値もない! その分の燃料を採掘に回せ。パワープラントごと、すべてだ! そのフルパワーがあれば、量子なんかに負けるわけがねぇ!
あれから、多くの経験を積ませていただきました。フィーさんとネゲートが「量子ビット」の件で忙しく、その余波が俺に降りかかったというだけの話です。たまには役に立たないと申し訳ない……そう思えば、ちょうど良い。……って、なるわけないだろ!
あー、きついってもんじゃない。ネゲートの分だけならまだしも、まさかフィーさんの分まで……。そもそもフィーさんって……。頼れる精霊がいるから大丈夫だと言っていたけどさ、政なんて俺にできるわけがない。結局、あの神々がそのほとんどを取り仕切ることになってしまい……しかも、なんだか少し嬉しそうだった気がする。
そういや、急にネゲートの様子がおとなしくなった。「量子ビット」の件で駆け回っていたから疲れたのか、それとも何かあったのか……。深い事情はわからないが、そっとしておくことにしよう。
ああ、でもな……採掘の件が、なんかまだ暴れている感じがした。やはり「量子ビット」が急に出てきたのが原因かなと、俺なりに感じている。あの出方は、ネゲート自身も予想していなかったようで、隠し持っていたのかもしれない。その手の分野ではよくある話で、いわゆる秘密主義の塊から、ふいに何かが急に出てくるんだよな。すごくわかる。
それで採掘の精霊だって、急にこんな状況になって、なぜか吹っ切れたような感じがあった。球根栽培とかだったのかな……。いや、さすがに球根には、俺でもちょっと笑っちゃったけど。ただ、採掘を継続するには「量子ビット」に耐えられる耐性を宿さなくてはならない。その耐性がなければ、ある日突然「量子ビット」によってチェーンの採掘に侵入され、そのまま独占され……という仕組みは、俺でも理解できた。ただ、その耐性については、あのフィーさんですら悪戦苦闘している様子だから、相当難しいんだろうな。それでも、策は打つつもりらしいが……。
それで、また何か起きたみたいですね。ああ……これは、すごいな。ネゲートの様子を見れば、一目でわかった。でも、前みたいにぎゃーぎゃー騒がなくなった。そこは良くなったな。
「その顔……、何かあったとしか思えないんだけど?」
「うん……。これをみて。」
ネゲートからマッピング経由で送られてきた速報とやらをチェックすると……その見出しには……。「シィーの忌まわしき遺物でしかない『推論』など、もはや見向きする価値もない! その分の燃料を採掘に回せ。パワープラントごと、すべてだ! そのフルパワーがあれば、量子なんかに負けるわけがねぇ!」……とありました。シィーさんはあんな形で降りたから、そうなってしまうのも無理はないのかな。それはともかく、もう……これは、驚きだった。
「これは……。」
「うう……。そんなことをしたところで、『量子ビット』には焼け石に水だってわかってるのに……。」
ネゲートは理論を重視する女神様ですから、こういう事態には不慣れなんでしょう。ならば、教えてあげましょう。
「いいか、この現象はな、負けるとわかっているのに信用全力したくなる、あの追い込まれた心理が、そうさせるんだよ。そこに理論なんてない。そう、そこにあるのは……ただ、とにかく押し通せ、という衝動だけだ。」
「……。なんでそこで信用全力が出てくるのよ?」
「そんなの、ただの例えだよ。いいか、こうなったら、無理矢理にでも知恵を絞るしかない。あの球根の件からしても、どうせ採掘の機材なんかを沢山抱え込んでいるんだろう。」
「……。」
「パワープラントごとよこせなんて言うからには、途方もない量だぞ、おそらく。」
「そうね。それなら……。でも、『古典ビット』で難易度調整がしっかり効いたうえで、『量子ビット』を追い出しながら、第三者による検証が簡単にできる仕組みの構築って、もうね、条件が複雑に絡みすぎてて難しいのよね……。でも、頑張ってみるわ。」
本当に、少し前ならぎゃーぎゃー騒いでいたネゲートが、しっかりしてきたぞ。そこは期待してもいいのかもしれない。でも、このままではまずいな……。頑張るしかないです。