212, 精査の結果、「量子ビットによって、採掘の仕組みの心臓部であるチェーン難易度調整が簡単に破られてしまう」という結論に至ったわ。
ああ……、創造神様、女神ネゲートです。わたしの主君は、創造神様です。
それで……。コンジュ姉の主君は邪神イオタだった。つまり、わたしが薄々感じていた黒幕……それは邪神だったのね。突きつけられた現実に抗いながら、「量子ビットによる採掘……採掘の仕組みに対する重大な脆弱性」に対抗する手段を探し続けているのよ。
それから、フィーが見つけ出したこの脆弱性を精査したわ。やっぱり、チェーン難易度調整が「量子ビット」に対してまったく作用しないのが原因で、「量子ビットによって、採掘の仕組みの心臓部であるチェーン難易度調整が簡単に破られてしまう」という結論に至ったわ。
あと……。採掘だけは、その演算の性質から、エラー率が十のマイナス三乗くらいでも問題ないという点が痛いわね。もしこれが鍵や署名を破るとなった場合、要求されるエラー率は十のマイナス十五乗は必要で、それなら……、時間的にはかなり余裕があったんじゃない?
チェーン難易度調整が破られると、「量子ビット」の力によって無秩序に取引の情報がチェーンに刻まれてしまい、「量子ビット」の気分次第に誰もが抗えなくなってしまうの。例えば……、「量子ビット」の力で、一週間分の全取引を瞬時に無効にしてやろう。こんなことができてしまうのよ! もう、大混乱では済まないわ……。
なぜそんなことが「量子ビット」で可能となってしまうのか……。それは、最も長いチェーンを真とする性質があるからよ。それで、その性質を逆手に取った、よくある手法……まず準備として、「量子ビット」の力を用いて非公開の場所で無秩序な取引の情報を大量にチェーンに刻んでおき、そのチェーンを最も長くしておくの。そんなこと、本来ならチェーン難易度調整によって不可能だったはず。それで、そのチェーンを公開されてしまうと、最も長いチェーンが真という性質から、そこに刻まれている無秩序な取引の情報で全体が上書きされてしまい、狙われた期間中の全取引が「瞬時に無効」となってしまうのよ。
つまり、「量子ビット」による採掘は、それ、もはや採掘とは呼べず……、そう……、そうね、アタックと呼ぶのが適切となったわ。
「古典ビット」に対しては、チェーン難易度調整として完璧に作用した採掘の仕組み。ところが「量子ビット」には一切通用しなかった。かみ砕くと、こんな感じかしら。
もちろん……、批判はしっかり受け止めるわ。実はあれから、ある大精霊が部分準備として買い付ける予定があったんだけど、こうした事情を考えて、いったん見送ることにしたのよ。その結果、わたしの判断に対してコミュニティから多くの批判が寄せられたわ。
とにかく、今は対策よ。できれば、この採掘の仕組みに「量子ビット」に対する耐性を付与したい。ところが……今回は心臓部に対する脆弱性なので、その部分を大きく変更することは許されないの。よって、急いで導入できそうな有効な策としては、そうね……、「量子ビット」への耐性を持たせたステーキングの実装、それしかないわ。とにかく、採掘以外の仕組みをチェーンに実装し、いつでも切り替えられるように準備しておく必要があるのよ。
……。「量子ビット」を抱える闇の勢力が、いったいどんな水準で採掘のチェーン難易度調整を破ってくるのか? もちろん、それを可能とするフィーが見つけ出したこの仕組み……「量子ビット」による採掘アルゴリズムは秘密にしてあるわ。なぜなら、闇の勢力は、チェーンに対して「そのうち、鍵と署名を破ってやるよ」って、毎回のように暴れてるからね。ほんとにもう……。