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209, およそ五十秒……。いいえ、この方法だと採掘の性質が量子の式に自然に馴染み、「一ミリ秒以下」で解けるため、このままでは、採掘しかない「仮想短冊の通貨」は切り離すしか……。

 ……。暗い表情でわたしを出迎えたフィー。その顔を見た瞬間、不安が胸の奥でさらに膨れ上がっていくのを感じた。でも……、すべてを受け入れる覚悟くらい、すでにあるわよ。


「ネゲート……。その、なのです。」

「あら、いつもの仲でしょう? だから、しっかり、はっきり伝えてちょうだい。わたしって、そういう性格なのよ。」


 すると、フィーは重い口を開き始めた。その内容は、やっぱり……「量子ビットによる採掘」の件か。どうやらシィーから伝わっていたようね。たしかにチェーンにとって脅威ではあるけれど、およそ五十秒ほどはかかるの。それなら「コヒーレンス時間」内には収まりきらない。その可能性が高いとわかって、わたしは少しだけ安心していたのよ。


 しかし、その思惑は、最悪の形で裏切られることとなった。


「ネゲート……。その方法では非常に効率が悪いのです。」

「非常に効率が悪いって……。これ以外に、何か良い方法があるのかしら?」


 そこは……「時間と空間の大精霊」を名乗るだけある、フィーだった。


「はい、なのです。チェーンの採掘に限っては……、『量子ビット』による一般的な演算方法を思い浮かべてはならないのです。その一般的な方法だと、たしかに……、およそ五十秒ほどになるのです。ところが、なのです。」

「……。」


 フィーは、空中に指先を滑らせながら、次々と量子の式を描いていく。その一つ一つを目で追いながら読み取った瞬間、わたしは……絶句した。


「なによ……。そんな方法が……。」

「はい、なのです。およそ五十秒……。いいえ、この方法だと採掘の性質が量子の式に自然に馴染み、『一ミリ秒以下』で解けるため、このままでは、採掘しかない『仮想短冊の通貨』は切り離すしか……。」


 ……。これこそが、数の叡智の本当の怖さ……。およそ五十秒ほどが、僅かに思考を変えるだけで、瞬く間に一ミリ秒以下になるなんてね……。


「……。」

「紙を折り続ければ、僅かな回数で月まで届く……。そんな有名な逸話とは反対のことが起きてしまったのです。これは、急激に縮んでいく現象なのです……。」

「そうね……。さらには『一ミリ秒以下』になったということは……。どんな『量子ビット』であっても『コヒーレンス時間』内に収まってしまうわ……。つまり、量子状態を保ったまま、観測直前まで、量子的な演算ができるということね……。」

「はい、なのです。量子の演算については、このような工夫を用いたアルゴリズムが大事になるのです。」

「そうだ、そうよ。それなら、『量子ゲート』のエラー率はどうかしら? そこまで考慮した場合、本当に採掘できるのかしら……?」

「ネゲート……、わたしの量子の式をよく考えてみるのです。本当に、この採掘だけは『特殊』な演算であって、それこそ、エラー率が高めな『十のマイナス三乗』であっても、採掘に必要となる目的の解を外してしまう確率は極めて小さな値、すなわち『ほぼゼロ』なのです。つまり、『現行の量子ビット』で十分に演算可能な範囲内、なのですよ。」

「……。そうね、そうよね……。」


 「量子ビット」のエラー率が高めであっても、採掘に限っては、目的の解を取得できるなんてね……。よって、「現行の量子ビット」でも実行が可能だなんて……。


「フィー、正直に話して。その対策に残された時間は、果たしてどれほどあるのかしら?」

「はい、なのです。あとは、演算に必要となる『量子ビット』の数さえ揃えば……、敵は確実にチェーン崩壊を仕掛けてくるとみているのです。もう……、そんなに時間は残されていないのです。急ぐのです。こんな『量子ビット』なんかに採掘なんてされたら……、そのチェーンのトランザクションは完全に崩壊し、壊されてしまうのですよ。」


 そんなこと、百も承知よ。でも……どうしたらいいのかしら……。そう、悩んでいたその時……目の前にコンジュ姉が現れたの。えっ? なんで? どうしてこんなタイミングで……?

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