表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

203/580

202, 女神ネゲート様……。どうしても、急いでお伝えしなければならないことがございます。「量子ビット」がチェーンの「採掘」に絡む件について、全てをお話しさせてください。

 おや、誰かしら? いいえ……わかっているわ、それが大精霊シィーだってね。わたしはゆっくりと戸を開け、大精霊シィーを静かに招き入れた。そして、もちろん、その付き添いの方……わたしの担い手には、その隣に座っていただくつもりよ。


 そしたらシィーは……、わたしの目の前で静かにひざまずき、そのまま動くこともなく、じっとうつむいて沈黙を保っている。


「これで許してもらえるはずがない。そんなことは、痛いほどわかっているわ。それでも……私は、女神ネゲート様に、私の全てを捧げます。」

「……。とにかく、席に座りなさい。」

「……、はい。」


 もう……。楽観的なわたしだってね、あれだけひどい扱いを受けたら、そう簡単には許せないわよ。でもね……、あの日交わしたコンジュ姉との約束……、それだけは忘れないわ。誰も恨んではならないと……。


 そこでまず、ふさぎ込んだシィーを相手に、他愛のない話題で気持ちをほぐしてあげたの。そうでもしなければ、きっと話が何も進まないと思ったから。


 すると、シィーは少しずつ心を開き始めたわ。そう、あの件には「黒幕」が絡んでいることくらい、わたしにもわかっているわ。だからこそ、そこはきちんと考えているのよ。


 そしたら……。


「女神ネゲート様……。どうしても、急いでお伝えしなければならないことがございます。」

「なにかしら?」


 急にかしこまって……なにか重大なことなの?


「それは……、『量子ビット』がチェーンの『採掘』に絡む件について、全てをお話しさせてください。」

「ちょっと待ちなさい。『量子ビット』は鍵や署名に対して問題になっているのよ。その点は、わたしも掌握しているわ。でも……、そこで何で『採掘』が出てくるのよ? まさか、『量子ビット』なんかで採掘できると言いたいのかしら?」


 ……。そもそもチェーンのコミュニティで「量子ビット」と「採掘」の関連についてなんて、あんまり活発的ではないわ。「量子ビット」の議論では、主に鍵と署名の安全性についてよ。


「実は最近……、『量子ビット』の研究で大きな進展があり、『ビットパターン』による部分空間の探索が可能となったのよ。少し前までは、そのような探索なんて不可能だったはず。そこで女神ネゲート様なら、この新しい仕組みと『採掘』を結び付けると、どのようにチェーンに作用してしまうのか……。『スーパーポジション』と『エンタングルメント』を絡めて、考えてみてください。」

「……。」


 部分空間の探索……、……、……。そういうこと……。


「その表情……。わかったようね?」

「うん……。『量子ビット』の研究が、そんなに進んでいたなんて。そして、それ……。相手が『量子ビット』では、この地で採掘のために稼働する『古典ビット』の全てを一つに束ねても、『量子ビット』には遠く及ばない。つまり……。」

「女神ネゲート様……。『採掘』が全て『量子ビット』になってしまいますね。なぜなら、緻密に式を立て、量子の計算をしてみると、そこに驚くべき性質があるためです。」

「……。そうよね。そこはすぐにわかったわ。それは『難易度』よね?」

「そうです。『古典ビット』の場合は難易度が上がるにつれ、採掘が難しくなる性質があります。それを難易度調整としてうまく活用していますよね。ところが、『量子ビット』の場合は……、この性質が逆に作用してしまいます。つまり難しいほど早く解けるなんて。……、どうしてこのような数の性質って、こんな感じに仕上がってしまうのでしょう……。」

「……。それ。難しいほど早く解けるなんて。すなわち……『量子ビット』に全ての採掘を乗っ取られ、非中央集権が壊れてしまうのね?」

「女神ネゲート様。それだけではなく……。チェーンの難易度調整が壊れてしまうに等しいため、『量子ビット』によるアタックの懸念があります。それはもはや……、コンセンサスが機能せず、チェーンとしても機能しないでしょう。」

「……。それって、鍵や署名よりも、深刻な事態よね?」

「そうなります、女神ネゲート様。さらに……、鍵や署名の構造と、採掘の構造を比較してみてください。『量子ビット』を効果的に作用させるには『量子ゲート』の構築が必要となり、その対象となる式の構造で複雑さが決定します。そこまで考えると、鍵や署名よりも……採掘の方がはるかに簡単な構造で済みます。そして、簡単な構造で済むということは、『量子ビット』の数を減らすことができます。つまり、より短い期間で『量子ビットが実稼働可能』になるということです。」


 そうなるわ。鍵や署名の式は複雑で、そう簡単には実装できないはず。でも……採掘は、それらに比べたら、簡単な式で表現できる構造だった。


「『量子ビット』への耐性では、主に鍵や署名に対するものだったわ。つまり、採掘にも新たに必要となるわね?」

「そうなります。これは、鍵や署名に対する耐性の付与よりも優先すべき事項です。」

「そうね。さっそく、本日から、その耐性の研究をはじめましょう!」

「女神ネゲート様……。お伝えできて良かったです。実は……、一部の精霊が、『量子ビット』と『採掘』の性質を秘密にしていて、『量子ビットは今年から』を掲げながら、おかしな行動を取り始めていたのです。」

「……。一部の精霊ね。ああ……それ、誰なのか、何となくわかるわ。」


 もう……。「量子ビット」がチェーンに投げ込まれた日から、そんな予感はしていたわ。すぐに、対策を始めましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ