197, 女神コンジュゲートよ。あれから腹が満たされぬと、我の下僕どもが騒いでおったぞ。一体、何が起きておるのだ? 焼かれるなど、決して許されるものではないぞ?
女神コンジュゲートは、あの神々より与えられた一室に閉じこもり、そこでマッピングに散りばめられた無数の暗黒から、鍵となる邪な闇の列……「量子ビット」を慎重に生成していく。それはやがて非局所的に「大過去」へと到達し、その経路上で相手の持つ鍵と同時にもつれながら、一体化する。そして、観測による「崩壊……コラプス」を経ることで「非局所性な同一の鍵」を交換した。
さて、女神コンジュゲートが「非局所性な同一の鍵」を交換したその相手とは……、そう……、邪神イオタである。その目的は「セキュアな通信」であった。
「邪神イオタ様……。女神コンジュゲートでございます。」
「ほほう。これこそが我ら闇の力……『量子ビット』を活用した『量子によるセキュアな通信』であるな。」
「邪神イオタ様、さようでございます。女神ネゲートによる傍受を確実に防ぐためには、これしか手段がありません。慎重に『量子ビット』を生成し、しっかり検証しました。」
「なかなか、おぬしも闇に染まってきたのう。まさに、『量子ビット』で、何もかも、実現できる。我らの力にカネを投じた者たちは、『量子ビット』によって、何もかも実現でき、その闇の力で『女神の力……仮想短冊の通貨』すら、我ら『量子ビット』が短冊に融合することで、我らの支配下に『仮想短冊の通貨』を置くことができると大いに喜んでおったぞ。がはは!」
その瞬間、女神コンジュゲートは微かに曇る表情を浮かべた。
「なんじゃ、その浮かない顔は? そうじゃな、この通信自体は『古典ビット』によるもの、と言いたいのじゃな?」
「邪神イオタ様、それは……、その……。」
「女神コンジュゲートよ、そこは気にするでない。『虚構』を活用した『量子ビット』自体による情報の通信は実現不可能なんじゃ。なぜなら、そこには『大過去』特有の状態……、すなわち時間の概念がなく『非局所性』だからじゃ。それゆえに、この我らすら、通信自体については仕方なく『現実』に映し出される『古典ビット』を利用しているのじゃぞ。『量子ビット』の出番は、始めに『非局所性な同一の鍵』を交換する……、そこまでじゃ。」
「邪神イオタ様……。その状況で、この通信を『量子によるセキュアな通信』と呼んでしまうのは……。」
「女神コンジュゲートよ。前にも告げておるぞ。女神の立場で、嘘を並べ、あおれ。『虚構』の力で、何もかも、破れるとな! そこが最も重要だと。我らの力にカネを投じている者たちが失望しないよう、心がけることじゃ!」
「……。」
「それともそなたは、あのような『現実』に戻りたいと申すのか?」
「いいえ! そ、それだけは……。邪神イオタ様……。……、わかりました。」
「そうじゃ。ところで、感動の再会とやら、いかがだったのじゃ?」
「はい……。」
それを問われ、女神コンジュゲートの表情がわずかに緩む。どのような形であれ、妹である女神ネゲートと再会できたという事実は変わらないのだから。
「そうじゃろう? 嬉しかったのじゃな。それならば、さっさと闇に引きずり込んでしまえ!」
「邪神イオタ様、それは理解しております。ですが……。」
「女神コンジュゲートよ。あれから腹が満たされぬと、我の下僕どもが騒いでおったぞ。一体、何が起きておるのだ? 焼かれるなど、決して許されるものではないぞ?」
「……。それは……。」
その返答に詰まっていると……。妹の声が、戸越しに響いた。
「おや? どうやら女神ネゲートが近くにいるのだな? まあよい。今日はここまでだ。わしはそなたを信頼しておる。そのことを忘れるでないぞ。必ずや、女神ネゲートを闇に落とし、この地で我ら闇の時代を『虚構』で築き上げる。よいな?」
「邪神イオタ様……。このたびはご配慮を賜り、誠にありがとうございます……。」
それを最後に、通信は途切れた。その直後、妹の声に耳を傾ける。
「コンジュ姉! もうっ! そんなところに閉じこもって、一体何をしているのよ?」
苦悩の色を浮かべたまま、そっと、妹を迎え入れた。