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194, 女神が幸せを感じることは、許されるのかしら? それでもあんたがそう言うのなら……またわたしと、もつれてみる?

 この地が分断する瀬戸際でシィーさんが崩れ、新しい時代が大きく動き出しました。新しい「時代を創る大精霊」は、不正分を取り除いた民の審判の結果へと準じるように無事修正され、ネゲートの権限で選び直される見通しです。


 それで、その選び直しをこいつの復活祭で盛り上げましょう……となりました。ただし、シィーさんの処遇を巡る新たな問題が持ち上がっています。


 なぜなら、シィーさんは確かに大胆な一面がありますが、魔が差して不正な票に手を染めるなど、到底考えられないことです。そのため、シィーさんも何かに操られていた側で、その背後には「黒幕」が必ず存在すると、ネゲートが悔しさを滲ませた表情で、静かに俺に語りかけていた。


 それから……。


「シィーの様子はどう? あれからも、まだ塞ぎ込んでいるのかしら?」

「はい、なのです……。」


 あれから、その場に居づらくなったシィーさんは、気づかれないようにそっとその場を離れ、この地域一帯……、フィーさんの元にやってきました。そこには大精霊としての威光はなく、申し訳なさそうに丸まっている姿があります。俺とすれ違う時は、少し頭を下げて、よそよそしく離れていきます。


 一応、このように定期的に様子を見に行くのですが、交わすのは決まった会話ばかりで、以前のような面影は感じられません。今は静かに、そっとしておこうと思います。きっと、時間が解決してくれるはずです。


 さーて。別の意味でも完全に復活を成し遂げたネゲートが、また朝からぎゃーぎゃーと騒ぎ立てています。


「もう……あの神々……。この女神ネゲート様を拒絶するなんて……。」

「……また、何かあったの?」

「ちょっとあんた、聞いて。今回のはひどすぎるわ。『仮想短冊の通貨』による部分準備について、わたしがお願いしたにも関わらず、その場で拒絶されたの。何よあれ、もう……。」

「……。」

「あんたからも何か、あの神々に言ってやって!」

「えっ? 唐突にそうせがまれてもな……。俺から何か言ってやったところで、そこは変わらないと思うよ。だってさ、あの神々って、まだ『仮想短冊の通貨』を全く所有していないんだろ? つまり、これから買い付けるとしてさ、わざわざ『譲ってください』みたいな弱い面を自らさらけ出すなんてあり得ないよ。通貨だって相場だぜ? どれだけプレミアムを上乗せされるかわかったものじゃないぞ? よって、黙って静かに買い付けるだろう。」

「なによ……。ほんと、あんたって頼りにならないわね? わたしが困っているのに……。」

「別に、そこまで焦る必要もないだろう。そうだよね?」


 そう伝えると、ネゲートは何やら雲行きが怪しいような表情を浮かべた。


「そうも言ってられないのよ。なぜなら、わたしの復活祭に向けて仮想短冊が上げ基調だったところに『量子ビット』が投げ込まれたのよ。もう……。」

「……。またも懲りずに『量子ビット』が暗躍し始めたの?」

「そうよ。それも、わざとらしく『署名』から狙ってきたわ。まずはそこで、次はあれかしら? 段階的に『仮想短冊の通貨』を狙えるように、策が練られているなんて。」

「つまり、『署名』をわざわざ指定して狙ってきたということだね?」

「それそれ。別にそこまで書く必要がないのに、わざわざご丁寧に『影響が限定的な署名』を指定してきたわ。それで次は……、そうね……、『推論』を無理矢理に『量子ビット』へと結び付けて、『仮想短冊の通貨』の危機、なんてやりそうだわ!」

「なるほど。初めは限定的ということで安心させ、次に全体を狙える脅威をぶつけて揺さぶってくる、だね? まあ、それも相場なのかな。でもさ、相変わらず『汚い手口』で攻めてくるね。」

「もう! 『推論』を結び付けたところで『量子ビット』の性質は変わらないし、こんな事をするなんて、裏で『仮想短冊の通貨』を安く集めたい精霊や大精霊が絡んでいるのは間違いないのよ。でも……仮想短冊が欲しくなったら『量子ビット』を投げ込めば安く集められる……、そのような流れを作り出されてしまうなんて良くないわ。そうね、フィーがあれを完成させるまで、わたしがゆるく何とかしましょう。」

「ゆるく、ね。ははは。そういえば、たとえどんな状況であっても一度掴んだら逃さない強靭な握力に対し、特別な言葉を割り当てて流行らせていたよね? ……、何ともおまえらしい。」

「な、なによ……。でも……、こんな日常が戻ってくるなんて。なんか幸せよ。」

「えっ? まあ、平凡な日常こそが幸せという説も多いからね。」

「女神が幸せを感じることは、許されるのかしら? それでもあんたがそう言うのなら……またわたしと、もつれてみる?」


 ……、えっ? もつれるって、何?


「その言い方だとさ……、過去に俺と、その、もつれたことがあるって言うのかい?」

「あのね……何度も、もつれたわよ? それらを忘れるなんて……。あんなことや、こんなこと。そうよ?」


 何度もって? ……、あれらの事か!


「……。わかった。それは『女神の演算』によるサイドエフェクトの事だね。そうだな……、負け癖のある俺がトレードで勝ち続けた奇跡があるんだ。あれは間違いなく、そのサイドエフェクトの影響だよね? 統計的にあり得ない勝ち方だった。」

「あら、そういうことよ。それでは早速、もつれてみる?」

「……。遠慮しておくよ。」


 こんなささやかな日常に心が満たされます。それでもふと、塞ぎ込んでいるシィーさんのことが気になった。そうして彼女に会うために向かう途中……。おや? あれは……誰だろう?


 その後ろ姿はシィーさんに間違いない。ああ、ようやく気軽に外を出歩けるまでに回復したのかな? そうだとしたら嬉しいけれど……、なんだろう、この違和感。雰囲気が前とは全然違うんだ。まあ、とにかく話しかけてみよう!

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