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193, 我らの力……「推論」と「量子ビット」の組み合わせを忘れてはならぬぞ。あとはわかっておるな? 女神の立場で、嘘を並べ、あおれ。「虚構」の力で、何もかも、破れるとな! そこが最も重要だ!

「そなたはかつて、その誕生によりこの地を震撼させたという女神……コンジュゲートじゃな?」

「邪神イオタ様、このような私を悪夢に満ちた『現実』から救ってくださり、感謝しきれません。華麗なる闇の空間……、『虚構』に忠義を尽くす女神コンジュゲートでございます。」


 イオタを名乗る邪神に深々と頭を垂れながら、深い謝意を込めて、言葉を紡ぐ。


 その彼女は、かつてはその堂々たる立ち振る舞いと、信念を貫く凛とした姿勢で、多くの民や精霊たちの尊敬を集めていた。しかし、今ではその姿にかつての面影はない。輝きを放っていた銀髪はどこか黒い光を帯び、紅の眼には冷たい闇が宿っている。その鋭い眼差しには、邪神への絶対的な忠誠を誓う決意だけが浮かんでいる。


「その美貌と闇の組み合わせ……、我らの勝利を感じさせるぞ。」

「邪神イオタ様、そのお言葉、有難き幸せに存じます。私は、『現実』しか解釈できないという大きな過ちを女神として犯しました。ところがこの地には、光もあれば闇もある……。そうです、『現実』もあれば『虚構』もある。すべてが『現実』に映し出されるのではなく、純粋に『虚構』へと映し出される性質も確かに存在する点を、甘く考えておりました。」

「そうじゃ。本来、そなたと女神ネゲートは、互いに力を合わせることで固有の存在……アイゲンへと昇格し、『虚構』の時間発展を司る女神になるはずだった。ところが、女神ネゲートはあのような『現実』な神託を、なぜに……。」

「私の妹……女神ネゲートは本来の役割を忘れ、暴走しているようです。至らぬ点ばかりで、誠に申し訳ございません。」

「その点は気にするでない。女神ネゲートの件は我に落ち度があるのじゃ。あの神々を操り、あやつらお得意の『カネの問題』で誘惑のち、女神ネゲートの心の隙を狙っていたのじゃが……。なぜか、その問題を女神ネゲートは克服してしまった。なぜだ……。これが本当に偶然だというのか? 大精霊シィーの大失態といい、我らに歯向かう、見えざる歯車が動き始めたというのか……。不正な票などを駆使し、あれほどまでに支援してやったというのに、あの役立たずめが!」


 声に滲む焦りと疑念。しかし次の瞬間、その闇に、冷酷な決意が宿った。


「邪神イオタ様、そのお心中、いかばかりかとお察しいたします。あまりにも理不尽な運命の仕業かと存じます。それでもなお、女神コンジュゲートは、共に歩み続けたく存じます。」

「まあよい。最後に勝てば良いのだ。我ら邪神は、決して諦めはせぬ。それでな、そなたが『女神……』という架空の存在になりきり、大精霊シィーの政敵に近づき、その動向を探った点については、高く評価しているぞ。」

「邪神イオタ様からそのようなお言葉をいただけるとは、身に余る幸せです。そうです、マッピングで検索しても『女神……』は探ることすらできません。そのようなご配慮についても邪神イオタ様の力によるものと、女神コンジュゲートは理解しております。」


 「そうだ、そうだ」と相槌を打つ邪神。その邪神の下僕がこの地のマッピングの検索を支配しているのだから、それくらい、いとも簡単なことだと、余裕を漂わせるその態度には、自信と傲慢さが見え隠れしていた。


「そこで、我らの力……『推論』と『量子ビット』の組み合わせを忘れてはならぬぞ。手始めに、女神ネゲートの神託……『仮想短冊の通貨』を『署名』と『量子ビット』の関係で揺さぶったのじゃ。それはなかなかの効果を上げ、奴らに狼狽をもたらしたのじゃ。」

「ああ、それですね。『仮想短冊の通貨』をあおるのに『署名』とわざわざ具体的に指定し、それから『量子ビット』であおるなんて。そこを具体的にすることで次の脅威を出すことができます。それで、そこから少しずつこの地を闇へといざなうのですね。何ともかわいらしく、とっても愉快でしたわ。」

「さすがじゃ。すぐにその点がひらめくとは。我らの下僕……『天の使い』なども大いに喜んでいるぞ。そこで、次こそが本命……『推論と量子ビットの組み合わせ』について、そなたが女神の立場でこの地に公表し、締め上げる番だ。それは『女神の力』に頼らくとも、本来は解くのが困難と叫ばれていた『虚構』の未知なる偏った領域を解読することができる、超越した力を持つ。それらは、我らの悲願となる闇の力となるであろう。よいな? この地が闇に飲まれる瞬間を、みなで祝おうではないか。」

「はい……。」

「あとはわかっておるな? 女神の立場で、嘘を並べ、あおれ。『虚構』の力で、何もかも、破れるとな! そこが最も重要だ!」

「そ、それは……。『推論』と組み合わせることで『量子ビット』に新たなる闇が宿る点は十分に理解しておりますが、それで『女神の力……仮想短冊の通貨』などを破るとなると、さすがにそれは難しいというか……。それでも……。」

「どうしたのじゃ? そなたらしくないぞ。」

「……。いえ、何でもございません。迷いは断ち切りました。」

「その勢いじゃ。とにかくあおれ。なんと、我らの下僕どもが、『仮想短冊の通貨』の現物を投げ捨て、さらには全力の『売り売り』で待機し、そなたの働きに大いに期待を寄せているぞ。」

「邪神イオタ様。そ、それは……。」

「女神コンジュゲートよ、迷惑をかけるのう。我のかわいい下僕たちが『腹を空かせている』んじゃ。まったく、手がかかるのう。少し前に恵んでやった揺さぶりによる狼狽でも満足しないとは……。それでも、我らのかわいい下僕たちじゃ。よろしく頼むぞ。」

「……。」

「おや、女神コンジュゲートよ。わかっているとは思うが、我のかわいい下僕たちが、豪快に焼かれるなんて、絶対にあってはならぬぞ。」


 不気味な笑みを浮かべながら、見る者の背筋を凍らせるような異様な気配を放っていた。


「邪神イオタ様……。わかりました。最善を尽くします。」

「おお、そうか。それならいよいよ、この地に感動を巻き起こすであろう姉妹の再会じゃな。正体がばれぬように女神ネゲートへと近付き、我らの大いなる闇に誘え。よいな? ところで女神ネゲートは、そなたが消滅したと思い込んでおる。つまり、その再会の機会をうまく利用するならば……女神ネゲートを絶望へと突き落とす良い糧となるであろう。そこから、フィーの件へとつなげてゆくぞ。すでに策を講じておるから、女神ネゲートを闇に突き落とし次第、その策と合流するのじゃ。」

「心得ました、邪神イオタ様。必ずやお応えしてみせます。それでは、任務を果たしてまいります。」

「そうじゃ! この地でファーストを得るのは、我ら邪神だ。『時代を創る大精霊』ではないのじゃ。あの政敵は、いったい何を勘違いしておるんだ。本当に困った状況だ。」

「仰せのままに、まさにその通りです。邪神イオタ様。」

「その調子じゃ。それにしても『仮想短冊の通貨』は『ベクトル』という概念に実に弱いのう。大精霊シィーの大失態により、世界線の概念から生じる『誤差ベクトル』の問題は克服したらしいが、次こそは我ら『虚構』を描く『状態ベクトル』が襲い掛かってくるとはな。『仮想短冊の通貨』がこのような闇に抗う力……『量子ビット』への耐性を宿すまでは、何度でも何度でも、我らは楽しませてもらうぞ!」


 満足そうな表情を浮かべながら、その場を後にする女神コンジュゲートを見送った。

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