190, もう、すべてが終わったのね。全ての制御を失い、行き先もわからないまま宇宙を漂う、真っ赤な警告灯に包まれた揺れる船に運命を委ねる気分って、こんな感じかしら?
私が「自由と楽観」を標榜とする「時代を創る女神」として任されたこの地域一帯は、間もなく分断するわ。いったん崩れ始めると、案外あっさりと壊れてしまうものなのね。もはや、焦りすら感じないわ。
あれから事態は急速に悪化の一途を辿り、「大精霊の承諾を得ないまま勝手に移り住んだ民」と「大精霊の承諾を得て正式に移り住んだ民」の間で大規模な争いが勃発してしまったわ。暴徒が別の暴徒をあおり始め、もう……誰にも止められない。
さらに、悪いことが続いたわ。私の傘によって護られている大精霊の地域一帯に対しては「女神シィーは絶好調」で押し通してと強くお願いしたのに、一部の裏切りが「あれは実態が伴わない絶好調で、実際には『大不況』だ。いったい、どんな政をしたんだ? やはり人形なんかに手を出したのが軽率だったのでは?」という、信じ難い報道を流したのよ。その影響で少しずつ上昇していく……、私のきずなの利率。それはまるで、私を消滅へと導くカウントダウンのようだったわ。そして、決して超えてはならない水準を……。
あの政敵は……、本当に人形の件を止められるのかしら? ……。あれは……だったのよ? 安易に開けてはならなかった……よ? それでも、本当に止められるの? ……。どうして、ただの精霊だった人形が、あの域まで狂えるの! そんなこと、考えもしなかったわ。
もう、打つ手はないわ。開き直ったら、少しは気が楽になった。このまま終わりを見届けるだけなら、最後に私は何をすればいいのかしら?
もう、すべてが終わったのね。全ての制御を失い、行き先もわからないまま宇宙を漂う、真っ赤な警告灯に包まれた揺れる船に運命を委ねる気分って、こんな感じかしら?
もう、涙は枯れた。最後を迎えるというのは、こんなにも孤独なものなのね。……やっとわかったわ。私は孤独で、女神ネゲート様は孤高だった。同じ立場にいながら、そんな大きな違いがあったことを、散る間際にようやく理解する。
えっ……、同じ立場って? 一体何を言っているのかしら。私なんて、この窮地を乗り切るには「安価な労働力」を蔓延させて若い民から搾取し続けることで解決できると本気で思っていたのよ。
それに対して女神ネゲート様は「仮想短冊の通貨」で解決する神託を下賜され、その神託を命がけで護り抜いたわ。私なんて、たまたま「大過去」から大精霊として拾われただけの存在で、そんなのに期待されてもね……。ううん、それはただの言い訳よ。ただの悪い女として、終焉の時を迎えるだけなんだから。
そこで、あの方には逃げてとお願いしたの。でも、最後に大事な役割があると言い残して、この場を離れてしまったのよ。嫌な予感がする。私を助けるために無茶なことをしていなければいいけど……。
その瞬間だった。この空間に、何かが大きく始まるような衝撃が走る。この胸騒ぎ……間違いないわ。これが私の消滅の瞬間なのね。いよいよ消滅を覚悟し、私は静かに目を閉じた。最後に、せめてフィーの笑顔を見たかったわ。しばらく静寂の時が流れ、恐る恐る目を開けると、目の前に立っていたのは……。