187, 今すぐに、全地域に広がってしまった私への抗議活動を何とかしなさい! 嘘ばっかりって……ちょっと待ってよ! こっちだって、どれだけ大変かわかってる?
私のかわいいフィーは、今頃、何を思い浮かべているのかしら……。私の「推論」の力と、フィーの「チェーン」の融合は、順調に進んでいるのかしら?
それに対して私は今、この場で泣き崩れたいほどの深刻な状況に直面しているのよ。諦めが悪過ぎるあの政敵を中心に、私への強い抗議が全地域に広がってしまったわ。どうなっているのよ……、こんなの……。
はじめのうちは十程度の限定された地域で私に対する強い抗議が始まった。よりにもよって女神である私に対して「お別れしたい」と告げてきたわ。それが、私への強い不信が浮き彫りになったと報道され、抗議が次々と別の地域に飛び火してしまったのよ。それで、気が付いたら全地域に広がってしまうなんて……。
そこであの方を急遽呼び出して、今後の対策を練ることにしたわ。もう……、小さな抗議の段階で、女神として強い態度に出るべきだった。初期の段階で抑え込み、意味を持たない抗議に挿げ替えて当事者同士を争わせる……統治の基本だったわ。
ああ……、価値を持たない戯れ事で民同士を競争させることで、精霊や大精霊に従順な民を育て上げる。こんな基本事項を忘れてしまうなんて、女神として失格だわ……。これなら高度な教育も不要で安上がりだし……。
「女神シィー様、ご機嫌麗しゅうございます。」
「……、状況はどう?」
「女神シィー様、状況は芳しくなく、日を追うごとに悪化してきております。」
「何か良い手立てはないのかしら?」
「女神シィー様……。抗議活動が急激に全地域へ拡大した原因は、間違いなく『安価な労働力』にございます。」
「……、そこなの? 私は、私なりに労働力を民に提供したつもりよ。批判される覚えなんてないわ!」
「女神シィー様、まずは落ち着いてください。それについては……。」
「それってなに? 『安価な労働力』は成功よ! マジックショーに頼らず雇用の統計を出せるようになったし、物価に対する指数も問題ないのよ。どうして!」
「女神シィー様、実は……。きずなの利率が上がり始めました。」
「そんなのはわかっているわ。常に確認しているからよ。それでも、安全な範囲内のはずよ。」
「女神シィー様……。誠に申し上げにくいのですが、このようなきずなの上がり方は……、抗議が全地域へ拡大したことによる、投資家による強い不安の表れでもございます。さらには、女神シィー様には一切従えないという地域がいくつか出現しております。このため、すぐさま手を打つべき悪い状況でございます。」
……。私に、従えないって……。女神の意向に背くわけ?
「それは非常事態よ! こうなったら最終手段よ……。『女神の正義』で強制的に……。」
「女神シィー様、それだけは絶対に避けてください! その正義に各地域を従わせる強制力など存在しません。さらにそれを大きく報じられると確実に暴動へと発展し、さらなる窮地へと追い込まれます。ところが放置もままなりません。このままだと内戦が避けられない情勢です。」
「そんな……。」
……。
「女神シィー様、その影響でシィー様の通貨も売られ、その価値がゴールドや『仮想短冊の通貨』に向かっております。」
「……。インフレは、どうなってしまうのよ? インフレは!」
「女神シィー様。恐れ多くも、私よりお願いを申し上げる次第にございます。ここで暴動に発展した場合、もはや……すべての手立てを失います。そのためシィー様の肝いりであられる『安価な労働力』を今すぐにでも取りやめるしかない状況です。なぜなら、激しい抗議活動の影響でしょうか……末端に位置する民にすら、『安価な労働力』を積極的に取り入れた精霊に対する優遇措置の件を知ってしまい、暴徒化しており、手に負えない状況となっております。」
なぜ、そのような末端に位置する民が……。本来なら黙って「安価な労働力」に従事すべき立場でしょう!
「冗談じゃないわ。『安価な労働力』で財政を立て直すのよ!」
「女神シィー様……、やはりそれでは、この時代を任された若い民の犠牲となってしまいます。」
「ねぇ、どうしたの? あなたらしくないわ! いつもなら、ここで完璧な解決策を提示できるはずよ? 今すぐに、全地域に広がってしまった私への抗議活動を何とかしなさい!」
「女神シィー様……、誠に申し訳ございません! 『安価な労働力』に対してだけは、女神シィー様が民に約束された『ベースアップ』が守られていないとの猛抗議が根底にございます。実際、『安価な労働力』の影響により、その時よりも手取りが大幅に下がっている民が大多数を占めており、あの女神は『嘘ばっかり並べている』などの揶揄が多い傾向にございます。」
「嘘ばっかりって……ちょっと待ってよ! こっちだって、どれだけ大変かわかってる? 人形への継続的な支援だって必要なのよ!」
「女神シィー様。それでも、『安価な労働力』だけは諦めざるを得ないと判断しております。」
何よ……。今は平常時ではないのよ? 少しくらい我慢しなさいよ……。