185, 現実に映し出された瞬間にふと思い浮かんだ……「大精霊の通貨の寿命」についてよ。それに……カネの件で? わたしに何か用なのかしら、フィー?
ちょっと寄り道したけど、現実に映し出されて元の空間……この地に戻ってきたわ。どのみち大精霊や女神が操るあの空間は、いくら滞在してもこの地を刻む時間が進まないから寄り道や長居も自由にできる。
ただ……それなりの力を消費するため長くは滞在したくないという微妙な空間でもあるわ。それでもなぜか、わたしが大精霊の頃は居心地が良かったのよ。つまり、女神を必要とする困難な時代は「新しい概念」への移行期間でもあるから、わたし自身の変化が無意識にあの空間へと波及しているようね。
あら? その「新しい概念」とは……、わたしが神託としてまとめ上げた「仮想短冊の通貨」よ。ただし、それだけでは不安定。そこで、「推論」の概念がチェーンのエネルギー障壁を超えて融合しようとしてる。よって、それなりの力の消費の原因はこの不安定さにあって、そこから生じる非確実性さが原因で、それらが女神に対するリスク……試練となっているわね。
このような事情から、その滞在は報告と移動の時だけに限る。ゆっくりするのならソファの上で寝転がるのが「わたしが幸せを感じる貴重な時間」なのよ。
さて、現実に映し出された瞬間にふと思い浮かんだ……「大精霊の通貨の寿命」についてよ。この寿命については「解析的なモデル」への観察が最も参考になりそうだわ。
えっと、「解析的なモデル」とは、その解析的な性質「安定性と一意性」から、長期間にわたって維持される可能性が高く、解析的であることで長い年月が経ってもモデルの出力や挙動が変わることなく、安定して予測可能な結果を提供できるゆえに、理論的には数百年の寿命も視野に入る性質を帯びている。それで、特に重要となる性質は「一意性」よ。つまり、「マジックショー」などに頼らず一意の決定性を常に保つことができ、入力と出力に他の相関がなく確実に決まっている安全性を確保できてることを示唆していて、このようなモデルを参考に創られたのがチェーンの仕組みだと、わたしはみているのよ。そして「推論」を融合して完成する。
その対義として「解析的ではない非決定論的なモデル」が「大精霊の通貨」になるわ。これは……、説明なんて不要でそのままよね。「大精霊の気分次第」や「裏で回り続けるカネの作用」というとても厄介な成分が強い相関として働くのよ。つまり、民が大精霊の通貨の為替で負け続ける原因は、この強い相関が原因よ。そう簡単には勝てるわけがないので、強い相関の逆を直感で突けないようなら今すぐにでもこのような為替からは手を引くべきね。そして、そんな事を繰り返していたある日、気が付いたらどの成分が重要なのか不明となって縮約ができなくなり、後はどうなったのか……それは現実を直視すべきね。縮約の方向性が定まらなくなる場合、それは計量が曖昧となり、テンソルの基底や成分をうまく対応付けられなくなっていることを示しているわ。この曖昧さは計量が壊れ始めている、つまり「大精霊の通貨」が期待される構造や一貫性を失っている状態とも考えられるのよ。もう……。
「その様子だと……報告だったのですか?」
ふと、フィーに話しかけられる。
「そうよ。……、やっぱりわかるんだ?」
「はい、なのです。わたしも……、時代の状況次第で女神に選ばれるため……。」
「そうね。」
「そこで……、ネゲートに一つお願いがあるのです。」
「あら、珍しい。何かしら?」
久々にフィーとこんな感じで話せたわ。それでお願いとは何かしらね?
「わたしは……、逃げてばかりだったのです。それは、わたしが逃げた結果で生じるネガティブな相関をネゲートに押し付けていただけ、なのです。」
「な、なによ急に? わたしは女神ゆえに、そのような汚い面にも積極的に触れる必要があるのよ。」
「いいえ、なのです。わたしはこの地域一帯を任されているにも関わらず、また、逃げようとしているのです。」
「逃げる?」
「はい、なのです。でも、今回は逃げないのです。あれだけは絶対に許せない……、大精霊として毅然と振舞うと心に決めたのです。なぜなら、これにはカネが絡むのです。」
「……、フィー? それはどういうことなのかしら?」
カネの件で……?
「……。姉様にネゲートの解放をお願いするため、わたしから出向いたあの日のことなのです。あの神々は、ネゲートの身を案じていると考えていたのですが、その考えは非常に甘く、ネゲートが解放され帰還するまでの間、大きなカネが動く工場誘致の話に華を咲かせていたと伺ったのです。この気持ちが……、やり場のない怒りなのですね。女神ネゲート様の御身よりもカネ……だったなんて。」
「……。」
フィーがここまで怒るなんて……。それにしても、わたしって案外心配されていなかったのね。ちょっとショックだわ。
「こんな状況では、ネゲートが待ち望んでいるチェーンに対する扱いの改善についても未だ『雑貨』扱いのまま、なのですよ。これについては、いかがでしょうか?」
「……、そうなるわね。なんか、わたしも頭にきたわ。」
「はい、なのです。」
「そこで、なのです。その者たちには、わたしの推薦を出さないことに決めたのです。」
「ちょっと……。『フィーの推薦』を出さないって……。もうそれ、近い時期に開かれる民の審判で落ちろと言っているようなものよ?」
「はい、なのです。それが、わたしが大精霊としての解なのです。女神ネゲート様の御身を案ずる心も持たぬ者たちが、民のための政をどのように取り計らうのでしょうか? 気づけば、この問いに対する解を出してしまったのですよ。」
「安価な労働力」で抗議が多発しているシィーの次は……、フィーで大荒れとなるのが確定ね。これも、新しい時代の幕開けを予感させるものだと前向きに捉えましょう。