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182, 素晴らしいアイデアがあり、まず「推論」は非決定性で同一の入力に対して常に同じ結果を返すとは限らないのですが、チェーンのあの部分に推論を宿すと非常に強力な「量子ビット」への耐性となるのです。

 シィーさんが期待する「テンソルチェーン」の構築が始まりました。普段は儚げなフィーさんが、生き生きとしている姿に心を奪われる。


「フィー様、このような『推論』のモデルはいかがでしょうか?」

「いいえ、なのです。『テンソルチェーン』はこの先、数百年は活用されるものとなるのです。よって、この段階で非線形性な特徴空間を持つ情報のクラスタリングを導入すべき、なのです。」

「フィー様、かしこまりました。」


 ミィーがフィーさんに「推論」のモデルを提案し、その場で却下されたようですね。それから、俺に向かってきた。


「ちょっと?」

「なんだ?」

「あのね、邪魔!」

「俺に八つ当たりか? まあ、気持ちはわかる。フィーさんは手強いぞ?」

「違います。フィー様に何度も提案することで、洗練され、より最良な『テンソルチェーン向けの推論』モデルを構築することができます。」

「なるほど。すでに何度も弾かれているわけか。まあ、頑張れよ!」

「もう……! なぜ女神ネゲート様は、よりにもよってこんな奴を……。」

「あのな、あえて言おう。『女神の担い手』には、俺でなくてはならない、揺るぎない理由があるからだ。」

「……、それを自分で言っちゃいます?」

「言うさ。」


 そんな他愛ない話をしていると、急に雰囲気が張り詰めた。なんだろう? ……、どうやらネゲートが見学に訪れ、場に緊張が走ったようです。


「女神ネゲート様、このたびはこのような場にお越しいただき、誠にありがとうございます。」

「順調に進んでいるようで何よりですわ。みな、わたしの復活と『ミーム』を心待ちにしているのよ。」

「女神ネゲート様、このような貴重な機会を賜り、誠にありがたく存じます。」

「わたしは女神よ。民、精霊、大精霊の幸せを常に願う気持ちが、チェーンの神託に宿っているのよ。」

「女神ネゲート様、ありがたき幸せに存じます。」


 ああ、そういうことね。ネゲートが調子に乗りやすい原因がわかりました。普段から、そんな勢いで周りに持ち上げられていたら、あんな性格になってしまうのも無理はありません。


 そこで、ネゲートに手を振ってみたところ、おっ、気が付いたようで、こちらに歩み寄りながら話しかけてきました。


「あら、そちらの方は……。……。」

「女神ネゲート様、ご機嫌麗しゅうございます。」

「……、ちょっと、あんた……。」


 俺だと気が付いた瞬間、ネゲートの頬が真っ赤に染まり、目をそらすのが見えました。


「女神ネゲート様。初めて、女神らしいご振る舞いを拝謁いたしました。」

「な、なによ……。」

「女神ネゲート様、やるべきときにだけ決めてくだされば、それで十分でございます。」

「……。そうよ。わたしは女神よ。常に創造神様への祈りを捧げ、民、精霊、大精霊の幸せを願っています。」

「女神ネゲート様。常に祈りを捧げるとは? それはソファの上で寝転がりながら捧げるものなのでしょうか?」

「……。そうくるのね? あとで覚悟しておきなさい。」


 そう言って、まるで逃げるように俺から距離を取り、フィーさんと何やら親しげに話し込んでいる。ちょっと様子を伺うとしますか。


「そうね……、さすがに数百年先の未来まで見据えるのなら、ここで『量子ビット』への耐性は組み込むべきね。」

「はい、なのです。そこで素晴らしいアイデアがあり、まず『推論』は非決定性で同一の入力に対して常に同じ結果を返すとは限らないのですが、チェーンのあの部分に推論を宿すと非常に強力な『量子ビット』への耐性となるのです。」

「……。テンソルの多態性と縮約を美しく活用したフィーらしい手法のようね?」

「はい、なのです。さらに、鍵の線形性を活用した集約も活用するのですよ。叡智の集結が、ここに現れたのです。」

「つまり、『精霊の推論』で指摘されていた問題個所はすべて解決の見通しが立ち、さらに、非常に強力な『量子ビット』への耐性を獲得する。まとめると、こんな感じかしら?」

「はい、なのです。」


 フィーさんがとても楽しそうです。はい……、順調で何よりです。その内容はいつもいつも……ですが、素晴らしい出来栄えになること間違いなしですね。期待がますます高まります。

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