179, 結局……、ネゲートに押し切られる形で、女神の復活を祝うの祭りの開催が決まりました。テーマは「推論」と「テンソルチェーン」です。
「女神の素材」は想像以上に様々な分野で活用され、どうやら政の事情にも深く食い込んでいるようですね。
「その『女神の素材』ってさ、やっぱり……地の大精霊はそれを喉から手が出るほど欲しがっているよね?」
「あら? その欲求は、そんなものではないわよ。たとえ血が流れても強奪してこい、といったどう猛さが感じられ、心の奥底から湧き続ける抑えきれない欲望の塊に、理性を奪われていると言っても過言ではない状況だったわ。」
「……。おまえさ……、そんな素材をこの地に託してしまったのか?」
「わたしは女神よ。それで、女神として必要と判断したから、この地に託したのよ。そこに政が関わってくる理由なんて一切ないわ。これを別の見方から例えると、あんたは女神の担い手として、なぜこの時代を生きているのか? その理由を答えなさいと問われたところで、何もわからないはずよ。それと一緒なのよ。」
「……、なるほど。」
そう言われてしまうと……、納得しました。でも……、カネが絡んでいた気もするが、そこには触れません。
「地の大精霊は、この素材を保有する地域一帯を頼れる精霊で囲ったりとか、よくあるみたいね。」
「……、それってまずい状況ではないのか?」
「そうね……。でも……わたしは女神と同時に風の大精霊でもあるのよ。よって、どうしてもフィーやシィーのような『自由と楽観』を重視する大精霊の地域一帯に寄り添う形となるわ。地の大精霊だと、そのあたりの制約や縛りはとてもきついわよ? 基本的に当たり障りのない表現しか許されない……そんな環境に、わたしは耐えられそうにないわ。」
「それで、風の大精霊で最も強い影響力を持つシィーさんが、自然と『女神の素材』を仕切るようになったわけか。」
「そういうことよ。シィーは、他の風の大精霊の所有物は自分のものだと考えているから。もう、そこは止められないわ。」
「……。風の大精霊の所有物は、シィーさんの所有物。それね。」
「ほんとそれ。気が付いたらシィーの所有物になっている場合が多いのよ。もう……。」
「つまり、シィーさんをファーストに置き、そこから上手に収益を引き出すような流れになっているのかな?」
「なかなかの洞察力ね? その通りよ。でも今回の『推論』の収益は桁違いゆえに、シィーから上手に収益を引き出すだけでもその恩恵は凄まじいわ。それで……、地の大精霊はその光景にブツブツと文句を言い始めているようね。」
「やっぱり、そうなんだ。」
「結局、この地でうまく立ち回るにはその流れに乗ることが最重要だった。ところが、そう……、わたしとフィーは大きな失敗をした。その大事な概念を忘れ『チェーン』の承認に突っ走った点よ。そこで『推論』をテンソルの形でチェーンに取り込む『テンソルチェーン』というフィーのアイデアにより、シィーと仲直りできたわ。」
「できれば、女神ネゲート様が『テンソルチェーン』のようなアイデアを出すべきだったかな、とも感じる。」
「な、なによ……。そこで、そうなるわけ? もう……。」
それからさらに話が弾み、「女神の素材」に宿る他の驚異的な性質の話題にもなりました。驚異的な反射率だけでもこの時代の常識を塗り替えるような性質なのに、各耐性……特に耐熱性、耐圧性、耐摩耗性、耐振動性ならびに耐衝撃性についても他に代わるものが一切ないという驚愕な性質を持ちながら、外部の状況に応じて適切な硬度に変化できる柔軟性までも兼ね備えていました。
もともと「女神の素材」は「無尽蔵なエネルギー」を生み出すために託された究極の素材です。よって今後、シィーさんが「女神の素材」を手放すことだけは絶対にあり得ない。それだけは間違いないでしょう。
「あのね……、シィーは手放すどころか、監視の目を強化しているわ。特に、地の大精霊への流出などに対してよ。」
「だろうね……。」
「それで、そのことが不定期に報じられると相場にも影響が出るため、それが唯一のリスクとなっているわ。」
「……。現物で握っている分には何の問題ないが、俺の短期な過去……信用全力には厳しい。そんな相場だね。」
「少しは自分自身を客観的に分析できるようになったみたいね。感心したわ。」
「それを、ネゲートにだけは言われたくないよ。」
「あら? それなら、女神の復活を祝うの祭りの開催は決まりよね?」
「……、俺の心が折れるまで粘るようだね?」
「当然よ。はやくしなさい。」
結局……、ネゲートに押し切られる形で、女神の復活を祝うの祭りの開催が決まりました。テーマは「推論」と「テンソルチェーン」です。「推論」ではシィーさんが華やかに壇上に立ち、「テンソルチェーン」はネゲートがわかりやすく説明する、豪華なイベントになる見通しとなりました。




