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177, 「推論」って本当は半世紀先に実現する見通しのものだった。それが……勝手に女神を名乗るどこかの大精霊が「推論」に夢中になった結果、この時代に「推論」が舞い降りてしまったのよ。

 朝からぎゃーぎゃーと騒ぎ立てるネゲートの声が響き渡り、いつもの光景が戻ってきました。


「もう! 今回ばかりはシィーには酷い目に遭わされた。傷がまだズキズキと痛む。思い返すだけで、涙が止まらないわ!」

「……。その傷が完治するまで、シィーさんによる最高のおもてなし……治療を受けるべきだったのでは? そんな体で歩き回って大丈夫なのかよ?」


 まあ……、そんなことになったのもシィーさんが原因なのだから、難しい話なのでしょう。


「なによあんた……? こんな程度、首元付近をやられたあのときに比べたら、大したことはないわよ。」

「あのときは……、そうだったな。」


 そういや……。あのあと、ネゲートはどのように過ごしてきたのだろうか。その記憶だけは戻っていない。それとも、その記憶自体がないのだろうか。気になってはいるが、その過程にはきっと女神コンジュゲート様の消滅が絡むだろうから、触れることが難しいです。


「もう。シィーのおもてなしなんて期待できるのかしら? そうね……『甘いもの』はただ大きいだけで大雑把な甘さが続くだけだった。わたしは小さくて繊細な『甘いもの』が好物なのよ。あんな所、お願いされたってさっさと出ていくわよ。」


 まあ、こんなやつですが、戻ってきて一安心です。ところで、ネゲートがシィーさんの手によって捕らわれたことは、瞬く間にマッピングなどを通じて全域に拡散しました。


 その理由とされた大逆の罪に対しては疑問の声が溢れかえり、抗議の声が各地で勃発しました。その声の大きさは凄まじく、民や精霊の怒りが身近に感じられるほどでした。特に女神シィーという存在は、自分の立場が危うくなると、そのような大胆な行動に出やすいという問題が大きなコミュニティで提起されるほどでした。


 あのままネゲートが捕らわれたままだったら……どうなっていたことやら。考えただけでぞっとします。


「それで……、あの神々が用意したその『甘いもの』は口に運ぶのかい?」

「そう、これこれ。この繊細な味を求めているのよ……。甘さしか感じないドロッとしたペースト状みたいのが続くだけのシィーの『甘いもの』は、この繊細さを見習うべきよ。もう……、あんなのがシィーの地域の伝統的な『甘いもの』なんて、びっくりだわ。」

「俺から言わせると、朝からそんな『甘いもの』とは……だよ。」

「あのね、この傷が完治するまでのプチ贅沢よ。とにかく……、一部の精霊が『テンソルチェーン』での強い需要が見込まれる『単精度』の噂を聞きつけたのか、その製造の予約を大量に入れ始めたらしいわ。『倍精度』は全て予約で埋まっている状況の中で、ここにきて『単精度』までそんな状況になるなんてね。」

「えっ? もう予約なの……?」

「そうよ。こういうのは早い者勝ち。さすがは『推論』ね……。わたしはみくびっていたわ。『推論』って本当は半世紀先に実現する見通しのものだった。それが……勝手に女神を名乗るどこかの大精霊が『推論』に夢中になった結果、この時代に『推論』が舞い降りてしまったのよ。半世紀も時代を飛び越えてしまうなんて……『推論の素』になる『倍精度』や『単精度』が奪い合いになるのもうなずけるわ。」

「半世紀先って! そんな先のものを、今の時代に……?」

「うん。『推論』を専門とする精霊や神官が口を揃えてそう発言しながらも、驚きを隠せずにいたわ。本当の話よ。」


 半世紀先ってさ……。半世紀も前倒しにしたら、そこに宿る価値は……。ああ……。十年先でも強烈な材料なのにさ……。


「そんなにも強烈なものだったのか……。」

「あら? つまり状況次第では『付与魔法』と呼んでも拡大解釈にはならないわ。魔法みたいなもの、それが『推論』には宿っていた。そして、その『推論』を支える形で生産性として作用する『単精度』をチェーンに導入する試みをフィーが組み立てたのね。さすがはフィーだわ、最高の論理と最適な時期に『チェーン』を投入してくるとは……、抜かりなしね。」


 「推論」の時代が始まろうとしている。その扉の入り口には、ネゲートも立っている。……、やっとの思いで、なんとかまとまるでしょうか。そう願いたいところです。抜かりはありません。

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