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176, フィー……、あなたは私と一緒に「テンソルチェーン」で時代を創りたい、そう願い出るのね?

 あら……。突然、私のかわいいフィーが真剣な眼差しで私のもとを訪ねてきたのよ。そこで、フィーが好む「甘いもの」で簡単にもてなそうとしたわ。ところが様子がおかしいのよ。「甘いもの」には目もくれず、どうやら私に何か直談判するつもりらしい。


「女神シィー様、わたしの大切な親友でもある女神ネゲート様の件について、お願いがあるのです。」

「フィー? そんなにかしこまらなくていいのよ。あなたは特別な存在なんだから。いつ私に会いに来ても、あなたは貴賓待遇よ。」

「姉様……、それでは、いつも通りに接するのです。」

「そうよ。あなたは特別な存在として、いつまでも、私のかわいいフィーであり続けることが最も大切よ。」

「……。はい、なのです。」

「あれ……? ちょっと返事が弱いわよ?」

「……。そうなのですか……。」

「私は『推論』の力で絶好調よ。まったく問題ないわ。私は『強くて当たり前』の存在。そうよね?」

「……、はい、なのです。」

「もう……。私のかわいいフィーなら、私が利率を強気で下げたのなら、あとの対応はわかっているわよね?」

「それは……。……、はい、なのです。」

「そうよ。あなたは特別な存在として、いつまでも、私のかわいいフィーであり続けることが最も大切よ。」

「……、……。はい、なのです。」


 私のかわいいフィーは、かわいいままでいいのよ。余計なことは考えず、今まで通りに行動すればいいの。


「それでは、いつもの挨拶を済ませたところで……。要件とは何かしら?」

「姉様、その要件とは……。女神ネゲート様の解放なのです。」

「ちょっと……、解放って……。私がそれに無条件で応じると本気で考えているのかしら?」


 フィーはいったい何を私に要求しているのか、ちゃんと理解しているのかしら? よりにもよって大逆を犯した女神ネゲートの解放を私に要求するなんて……ちっともかわいくないわね。そうね……、大きく譲歩しても、面会までが限界よ。


「……、いいえ、なのです。女神ネゲート様の解放を条件として、姉様が必ず納得する材料を構築してきたのです。」

「私が必ず納得する材料って? それは何かしら?」


 ……。フィーは私に、その材料についてきめ細かく話し始めた。その概要は……、私の「推論」の力を支える「単精度」が「チェーン」に深く関わってくる、そんな理論だった。


「つまり、『チェーン』と『推論』を組み合わせて、チェーンが新しい機構へ生まれ変わるのかしら?」

「はい、なのです。これで、残高が奪われることのない堅牢性と、『単精度』による生産性を兼ね備えた『テンソルチェーン』へと進化するのです。姉様……、この仕組みなら、『単精度』に対する強烈な需要によって姉様の市場を十分に支えることができるのですよ。」

「今……、精霊向けの『倍精度』すら、その強烈な需要によって供給が間に合わない状況よ。そこに『単精度』の強烈な需要が到来するとなると……。」

「姉様。大量の『単精度』を稼働させるとなると、他にも大量の『演算用古典ビット』や『記憶装置』などが絶対に必要となるのですよ? なぜなら、それらは精霊ではなく数多の民が『推論』の力と採掘の報酬を目当てに個別に『単精度』を稼働させることになるからです。姉様……この話には、絶対に乗るべきなのです。」


 ……。フィー……、あなたはそうまでして、「単精度」で私の期待に応えたいのかしら?


「それを、女神ネゲート様を解放する条件にしたい、そういうことね?」

「はい、なのです。」


 私だって……。その話によって本当に「単精度」の強烈な需要をこのタイミングで生じさせることができるのなら、その話……迷わず乗るわ。私の「推論」はこのタイミングが本当に重要で、まさにこの瞬間に、多くの工場を並べることができれば、明るい兆しが見えてくるのよ。それでも、それでも、それでも……、念のためよ。裏がないかどうかの確認は必要よね。


「フィー? それは本当に私の『推論』の力を必要としているのかしら? もし違うのなら、私の懐に飛び込みたい一心で、『推論』の力を当たり障りのないようにチェーンへ適合させただけ。そうよね?」

「いいえ、なのです。わたしは演算に深く関わる『時間と空間の大精霊』なのですよ? そのような大精霊が『単精度』の論理で、その要となる『推論』に対して偽りを並べることなど、絶対にあり得ないのです。」


 ……。……。私はどうかしていた。こんなにもかわいいフィーを疑うなんて……。私が創造神様に嫌われた本当の理由は、このあたりかしらね……。そう……、今この瞬間、それを理解したわ。


「フィー……、あなたは私と一緒に『テンソルチェーン』で時代を創りたい、そう願い出るのね?」

「はい、なのです。」


 その後、淡々と交渉が進み……、結局フィーは私の悪い面については、一切触れてこなかった。それでも……、安価な労働力とか……、何とかすべきよね? もう、やるしかないわ。どのみち後ろを振り向いたところで、どうなるのかわからない。フィーとずっと一緒に進むしかない。そして今、まさに時代が大きく動こうとしている。

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