175, わたしと姉様に託された運命は異なるものでしたが、それらが結びついて大きな力……「テンソルチェーン」となったのです。「推論」と「チェーン」で、明るい未来へ羽ばたきましょう。
それから、構造の違いを効率良く吸収しながらチェーンをどうやってテンソルに切り替えるのか、そのような話が続きました。ただ、過度な心配は不要で、唯一の問題は「単精度」と「ハッシュ」のナンス……、いわゆる「難易度」のバランスが重要になる、とのことでした。その難易度調整については「縮約テンソル」と「推論」で完璧に調整するとフィーさんが自信たっぷりに話していたので余裕でしょう。それは、その「縮約」に対してある論理を乗せると「ハッシュ」側の正解と噛み合う集合がみつかり、その集合の特性をなす曲線から「単精度」側の正解の範囲を見極めてから、「推論」の論理に組み込まれているリカレントと非常に小さな非局所性の確率を表す分布から予測不可能な候補をその範囲内で出していき、報酬獲得の正解条件を満たすナンスが答えとなる、でした。
さらに、唐突に「ハッシュ」から「単精度」への移行はできません。経済的な影響が出ないように少しずつソフトランディングのようなやり方で移行する、という方針でした。どうやら、採掘に対する報酬が減らされるタイミングで古いハッシュ演算装置が用済みになっていく仕組みらしく、そのようなタイミングで「単精度」へ移行を一気に促す方法を採用することで、ハッシュを提供していた精霊は高価なハッシュ演算装置を無駄にすることなくスムーズに「単精度」に移行することができるという完璧な仕組みに仕上がっていました。心配には及びません。
それで……常軌を逸した需要を生み出すであろう「単精度」演算装置の製造工場について盛り上がってしまいました。そういや、工場の誘致って……大きなカネが動くのでしょう。ああ……、これ以上は邪推になってしまうので、やめました。ははは……。なぜならこれは、「単精度」をチェーンに提供すると報酬が得られる仕組みゆえに、「単精度」演算装置を買い込む者が多く出そうです。だって、「推論」を活用しながら、その「推論」の力をチェーンを通して得るのならついでに報酬まで得られますからね。報酬を得ながら「推論」の力を利用できるなんて……、ここが「テンソルチェーン」のブレイクスルーですね。そして、そこまで考え抜くところが……フィーさんでした。
ともあれ、これでネゲートを救い出せそうです。シィーさんも、この内容なら納得するはずです。
「わたしと姉様に託された運命は異なるものでしたが、それらが結びついて大きな力……『テンソルチェーン』となったのです。『推論』と『チェーン』で、明るい未来へ羽ばたきましょう。」
「フィー様、何なりとご遠慮なくお申し付けください。」
「それでは……、このまま女神シィー様のもとへ向かいます。その場で必ず説得し、女神ネゲート様を救い出してみせるのです。」
チェーンが絡むとやる気がないように感じられたあの神々ですが、今回はやる気に満ちたようで良かったですよ。それでは、ネゲートの無事を祈ります。




