162, あら? 特に抵抗もされず、あっさりと女神ネゲートを捕らえることができたようね。私の通貨を壊そうと謀を企てた腐った女神には、それ相当のお仕置きが必要ね。
私は「時代を創る女神」……女神シィーよ。これから絶対的な「推論」の時代を創り上げ、女神シィーによる覇権を固める重要な役割を担っている。そうよ……、私の通貨がこの地の絶対であり、それ以外は考えられない。それを、この「推論」の時代で証明さえすれば……。
「ご機嫌麗しゅうございます、女神シィー様。」
「あら、おはよう。それでは、準備はよろしいかしら? 本日より女神シィーとしての躍進が始まるわ。」
「女神シィー様、私のような者をこのような好機に誘ってくださり、ありがたき幸せに存じます。そのご様子だと『推論』の稼働状況は順調で、何よりでございます。」
「うん、問題ないわ。順調にその出力は五割に達し、他を圧倒する『倍精度』や『単精度』が美しいのよ。」
「女神シィー様、さようでございます。他の追随を許さない『推論』こそが、女神シィー様の『推論』でございます。『倍精度』を華麗にこなしながら、主力である『単精度』も『推論』に最適化された構造で的確に素早く処理します。」
そうよ。それこそが私の力の源よ。私は「推論」で「時代を創る女神」という権力の座を手に入れたわ。この力こそ……「大精霊の正義」から「女神の正義」への転換点になるわ。
ところで……地の大精霊がこの仕組みを模倣したって、せいぜい利用できるのは出来の悪い「単精度」またはそれ以下。それこそが女神シィーの「推論」との決定的な違いであり、圧倒的なアドバンテージでもある。その地点で、私……女神シィーが勝ったも同然なのは、明白よね?
「それに加え、あなたの聡明な『マジックショー』が素晴らしかった。あれで私の相場は再浮上し、接戦に持ち込めて勝てたのよ。」
「女神シィー様。そのような勿体無いお言葉を……。」
接戦に持ち込めなければ危うかったわ。あれらをまとめても、差を付けられたのでは勝てなかったのよ。
「すばらしいわ……。ところで、ねぇ? 私の右腕となったご感想はいかがかしら?」
あの時、造反が相次ぐ中で、私を唯一擁護してくださった方よ。そのような恩は絶対に忘れないわ。
「女神シィー様、ありがたき幸せに存じます。あなたの右腕として、全身全霊を尽くす限りでございます。」
「まあ……、もう。そんなにかしこまらなくていいのよ。私の右腕になったという事は、この地で絶大な権力を持ったに等しいのよ。つまり、私に刃を向けること以外は、何をしても許されるのよ。」
「女神シィー様……。そのような力を……、私のような者に……。」
「そうよ。その力は本当に絶大で、そうね……私が可愛がっている大精霊フィーと同等と言えば、わかりやすいかしら?」
「女神シィー様、それは……!」
私は微笑みを浮かべながら、この方に「力の絶対さ」を示したわ。
「あら? それでは早速、何か行使したい力はあるのかしら?」
「……、ありがたき幸せに存じます、女神シィー様。それでは一つ、よろしいでしょうか?」
「うん、何かしら?」
「女神シィー様。実は……『量子ビット』の件が忘れられません。あの時、女神シィー様のご期待に応えられなかった事実はありますが、どうしても諦めたくはないのでございます。」
「あら? なーんだ、そんな些細な事。わかったわ。あなたが希望する予算を確実に割り当てることで『量子ビット』の研究を再開できるように、すぐに手配しましょう。これでよろしいかしら?」
「女神シィー様、ありがたき幸せに存じます。」
「そうね……。特に『量子ビットの炸裂』については、しっかりと研究を進めておきましょうか。地の大精霊がそんな力を先に手に入れたらまずいわね。それは、先に私が手にすべき力。そうよね?」
「量子ビットの炸裂」という概念、すっかり忘れていたわ。このような概念はラムダが特に好む傾向にあるから、こちらでも入念に準備を進めておく必要があるわね。そう、このような分野で「倍精度」が活躍し、その「推論」が圧倒的な力を発揮する。「推論」の時代にふさわしい研究になるのかしら?
「女神シィー様、さようでございます。」
「それで……その辺で雑談するようなお気軽な精霊まで、あなたを噂していたわ。大出世だってね。ふふ。特に、私を一度裏切った精霊は、あなたを羨望の眼差しでみつめている事でしょう。裏切りが続くあの絶望的な状況下で、私を支えてくれたのはあなただけよ。」
「女神シィー様……。」
……。それから「推論」の収益について話が弾んだわ。特に「大精霊の推論」と「女神の推論」が大切で、今の私の相場を支えるには、このような超越に近い推論を育てながら、部分準備に宿る泡の状態を維持する必要があるからよ。絶対に、その泡を弾けさせてはならない。「推論」から得られる莫大な収益に期待しながら、その力で飛躍するのよ!
そしていよいよ本題へと進むわ。そう……大逆を犯した女神ネゲートの状況よ。
「さーて、そろそろ本題よ。女神ネゲートの状況はいかがかしら? もともと風の大精霊だけあって、一体、この地のどこをふらついているのか。その情報が欲しいわ。」
「女神シィー様。そちらも順調でございまして、実は、女神ネゲートを捕らえることに成功しました。」
えっ? ……、状況を把握次第、私が女神ネゲートを捕らえに向かうはずだったのよ。なぜなら、女神ネゲートは風の大精霊から女神になった存在ゆえに、その身に宿す力は強大で、もし反抗でもされたら精霊では太刀打ちできないからよ。
「ちょっと、よろしいかしら? 女神ネゲートをいとも簡単に捕らえることができたのかしら?」
「女神シィー様、さようでございます。とある『この地の主要な大精霊』より女神ネゲートに関する情報を入手し、その現場に向かったところ、どうやら反抗する気配が一切感じらず、そのまま捕らえることができました。」
……、今は気にしないでおくけど、さすがにちょっと不気味ね。
「そう……。それで、どうやって拘束したのかしら? 相手は風よ。簡単に逃げちゃうわよ?」
「女神シィー様。そこはご安心いただきたく存じます。仮に逃げた場合、女神ネゲートだけの問題では済まなくなると釘を刺しておきました。それだけで、今はおとなしくしています。」
つまり、言葉巧みに女神ネゲートを操ったのね。さすがだわ……。この能力こそが私の右腕よ。さあ……、あの政敵と腐った女神が激しく後悔する瞬間が近づいてきましたわ。……。さて、どうしましょうか。特に、私の通貨を壊そうと謀を企てた腐った女神には、それ相当のお仕置きが必要ね。
この華やかな「推論」の時代の幕開けに、腐った女神がこの地に置いていった「仮想短冊の通貨」なんて、どうしましょうか? また、私のやり方に不満を持ち、どこかのゆるゆるな信徒が騒ぐのでしょう。でも、私は勝った。どんなに汚れた手段を用いたとしても、勝てばいいのよ。ふふ。こんなのは、腐った女神と一緒に真性特異点へと沈めてしまいましょう。