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157, わたしが何も知らないとでも? 約半数の民が「返せない借金」で苦しんでいる。絶対的な腐敗がない状況でシィーが勝つ可能性について言えば、その見込みと確率は非常に低く、無音で取るに足らないほどよ。

 ネゲートの提案に、シィーさんはその場を曖昧にして逃げようと何度も試みました。しかし、その態度に苛立ちを覚えたのか、ネゲートがさらに追及する姿勢を崩しませんでした。


「シィー、そろそろ答えたらどうなの? 『光円錐の中をただ駆け巡るだけの人形』は狡猾で、すでにあの政敵との接触を試みていたわ。どうやら、そのような方向性では頭がよく回るようね。その様子は、シィーにとって何が最も弱みになるのかを最大限に考えながら行動している数々の策に現れているわ。その証拠に、最近はその行動が過激化し、シィーを脅すような大胆な試みまで始めているわ。あの人形はシィーに対して『シィーなど俺様の行動次第でどうにでもなる。今後も大精霊を続けたいのなら、そうだな……さっさとありったけのカネと頼れる精霊を俺様によこせ!』と脅しているようなものね。」

「……。」

「それ……、『推論』で遊んでいる場合ではない。一刻も早く解決しないとさらにエスカレートして……。大精霊同士の衝突なんかに発展したら、大変だよ。」

「それよ。ほんと……、いい加減にしなさいよ!」


 こんなのを放置して「推論」なんてやっている場合なのかよ、シィーさん……。その前に解決すべきことでしょう、こんな大惨事。もうね……、こんな事は言いたくないけどさ、若い民の票なんてほぼ全て失うのは確実な情勢だよ。それでこの様子では……、他にもまだまだあるのだろう。


「私は『時代を創る大精霊』から『時代を創る女神』に昇格した存在よ。そんな脅しになんて……。」

「そう。だったら、あの人形の裏切り……暴露に耐えられる見通しはあるのかしら? そんなプランなど想定外で、考えただけでもゾッとする。そんな状況よね?」

「それは……。」

「ほら、みなさい。あの人形はそこまで察知して行動しているのよ。すばらしい嗅覚ね、そこだけは褒めてあげる。それで、その内容次第では……ね?」

「そうならないように……。」

「なによ?」

「そうならないように、あなたは女神として行動すべきだったでしょう! 私が『推論』ばかりって? それならあなただって『仮想短冊の通貨』ばかりよね? その隙に、あの人形は事態を悪い方向へと進めたのよ? これでも私がすべて悪いの?」


 シィーさんは開き直ったのかな? ネゲートに責任を押し付けようと、詭弁を繰り返すようになりました。


「シィー。わたしだって初めの頃は……、地の大精霊についてはわたしの姉の件もあるので、シィーが確実に止めてくれることを願っていたわ。ところが、事態は収まるどころか、ますます悪化しているわ。さらに、それに便乗する形でシィーが無我夢中で『頼れる精霊』を大量投入したあたりから、何かがおかしいと思い始めたわ。それで、そのニュアンスを含めて問い質した結果がこれなの?」

「だったら、何が言いたいのよ?」

「あの人形はね、何のためらいもなくあんたを裏切る。それはヒストリーが証明しているわ。それから、ずっと遊べるだけのカネと身の安全を手に入れ、あとは終始、奇妙にヘラヘラと笑っているだけ。血が流れただけあって悲惨な終わり方よ、こんなの……。」

「……、違うわ。これは『大精霊の正義』よ。強くて当たり前の概念で護られる私の民ならわかってくれるはず。」

「シィーの民? 皆が『返せない借金』で苦しんでいるさなか、そんな余裕なんて微塵たりもないわよ? それでも脅されたら、その通りに従うのでしょう。それしか残された道はない。」

「女神ネゲート様。そのような極端な事例を挙げないでいただきたいわ。どんなに健全な政であっても、一定水準の貧困層は生じてしまうものよ? もちろん、これは『伝統的な取引および資本主義』における弊害ゆえに、その対策についてもしっかり述べているわ。そのような理由からも、私が優勢なのよ?」


 シィーさんは、ずっと「優勢」という言葉を繰り返しています。その焦りは、景気の良い映像ばかりをマッピングで常に放映することで「大不況」という事実をひたすら隠し通していることからも現れていますよね。よって、そこには差し迫る危機、つまり真っ先に傾くであろう商業用の土地などが危ないと、俺は考えます。おそらく相当な額を貸し付けていることでしょう。シィーさんがやたらと「優勢」「絶好調」などを繰り返しているのは、そんなのが、もし減損でもし始めたら……。今は考えないことにします。でも、そんなやばいのは最後の瞬間まで隠し通すだろう。


「健全な政? 『伝統的な取引および資本主義』における弊害? いったい何の冗談かしら?」

「女神ネゲート様、冷やかしはやめてね。私なりに頑張ってきた結果よ。」

「そう。その頑張ってきた結果、『約半数』の民が『返せない借金』で苦しんでいる。そうね?」


 ……、約半数って!? 「返せない借金」なんて一部でも深刻な問題なのに、民の半数近くがその状況って……。これがインフレと「大精霊の通貨」の価値低下によるダブルパンチの威力か……。


「そんな言い方……。」

「なによ? 少しは反論でも述べたらどうなの? あんたはいつもそう。あらかじめ質疑応答をまとめたカンニング……短冊が手元にないと何も答えられない。そんな感じかしら? それで『推論』に頼り始めたのかしら?」

「……、それは一時的な状況よ。『大精霊の正義』による代償かしら? それでも正義を貫くことが大事よ。あなたはわからなくても、女神の担い手様ならきっと……。」


 それで俺に話を振るんかい。


「俺に、何か用ですか?」

「あなたは『大精霊の正義』について、理解があるとみているのよ。」

「それは何の理解を俺に求めているのですか? 俺はすでに、そんな状況で、どうやって勝つのさ? そういった疑問で溢れていますよ。」

「……。」


 俺の気持ちを正直に伝えました。これでは勝てる訳がない。あの雇用の件から、他の指標だってさ……、ですよね? いかにして投資家を手のひらの上で転がすのか、もはや、それしか考えていない。こんな状況に投資なんてあり得ません。短期で遊ぶだけに徹する、もはやそれだけの価値しかないですね。相手は必死にもがき苦しんでいますから、その心理を逆手に取って、騙し上げや暴落などのタイミングを容易に計る事ができます。つまり、これ以上の誤魔化しは難しい『重要な指標』が来るタイミングで、その前は騙し上げ、その後は暴落です。なぜなら暴落前に上げておかないと、その暴落が大きな負で波及し、ぎりぎりで持ちこたえていた大型銘柄で減損が生じてしまうと、ドミノ倒しのように一気に伝播し、他も崩れてしまいますから。


 それにしても民の半数近くが「返せない借金」まみれで、シィーさんは「推論」から何を得ようとしていたのか。時価が膨らんでいたので、どこまで上がりそうなあの勢いの中、それを支えていた精霊らは「返せない借金」の事実を知っていたでしょうから、間違いなく売り抜けていそうです。ははは。結局、どこの相場も似たようなもんか。


「大精霊シィー、少しは『現実』を受け入れなさい。これ以上逃げ回るのは『大過去』への冒涜よ。絶対的な腐敗がない状況でシィーが勝つ可能性について言えば、その見込みと確率は非常に低く、無音で取るに足らないほどよ。」

「女神ネゲート様、絶対的な腐敗がない状況って、それって……!?」

「まだ、しらを切り通すつもり? お話にならないわ。そういえば……、一部の民にカネをばらまいていた事がばれて、大騒動に発展しているようね? 何かしら、これは?」


 ……。まだ、何か出てくるの? そもそも絶対的な腐敗がない状況って……。確かに……、これでは腐りきっているよ。そんな中で、民の審判が行われるので……、そういうことか。

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