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156, 「推論」の時代ってさ、己の力ではなく「付与魔法」でチートする時代の幕開けだよね? 剣に補助属性を付与しまくって俺様強い、それっておまえの力ではなく剣の力だよなと突っ込まれ、虚しさに包まれる。

 しゃがみ込んだシィーさんは小さな声で俺に何かを尋ねるようにつぶやいています。でも……俺だって、シィーさんが「推論」に取り込まれていく姿をこれ以上はみたくないです。


 そもそも「推論」って何だ? ああ、ネゲートが好む難解な解釈ではなく、大雑把でいいんだ。……。そう悩んでいるうちに……、シィーさんが立ち上がりました。


「……、女神ネゲート様。『推論』の力は、シィーではないと?」

「そうよ。あなたは大精霊シィーであって、女神ではない。女神シィーの概念は『推論』によって構築されたまったく別の存在よ。」

「……。それでも……。」

「それでも、何? そもそも『推論』はすべて古典ビットよ。つまり……すべてが『ナンド』の論理で構築されているとも言える。それで、あんたはその『ナンド』で構築された存在になりたいの? もういい加減にして、目を覚ましなさい。」


 「ナンド」? ……、初耳だ。


「ネゲート……、『ナンド』って?」

「……、もう。すべてが真実のときだけ、それは偽りだと発する論理の事を『ナンド』と呼び、古典ビットはこの論理のみで構築することが可能なのよ。信じ難いかもしれないけど、これは本当の話よ。」

「すべてが真実のときだけ偽りと発するって……。あまりにも出来すぎた話は、偽りだと考える論理のようだね?」

「そうよ。誰かさんが市場に流している経済の指標、なんてね。冗談よ。」

「女神ネゲート様……、その誰かって、誰のことを指しているのかしら?」

「マッピングで大不況であることが間違っても映し出されないように苦労している大精霊様のことを指すわ。」

「……、それはシィーだと言いたいのかしら? 私は絶好調よ。そう……、『時代を創る大精霊』として絶好調。景況感の後退は見られず、私の手腕が完璧だと自負しているわ。これのどこがいけないのかしら?」

「完璧だと自負? シィーの経済を支える地域一帯のマッピングに対して、シィーが大不況であることを悟られないように景気が良さそうな映像のみを毎日流し続けていると、広く噂になっているわよ? それに触発され、信用できる『大精霊の通貨』を売ってまで『シィーのきずな』を買い付けるなんて、それは常軌を逸しているわ。そう考えると、その目論見は成功しているのかしら。どうなの?」

「ネゲート、大不況って? 景気が良さそうな映像のみを毎日流し続けているって? まあ、雇用を誤魔化した位だ……。」


 「錆びついた工場……奴隷労働」「返せない借金」「シィーさんの頼れる精霊が豪快に炸裂」「仮想短冊の通貨は近いうち禁止」、ここに……「大不況」まで加わるのか。民の間で「返せない借金」が蔓延しているようでは、「大不況」を否定できる材料がありません。


「そんな噂、誰が流しているのよ! そんなのを信じてしまう程、あなたは、そんなに浅はかな女神様だったのかしら?」

「わたしは女神よ、あんたとは違ってね? 自分が優勢だと常に吹聴していないと精神が保てない、そのような揶揄もあったわ。ひっそりと支持に関する調査を行い、その凄惨な結果に対する焦りが滲み出ているのよ。」

「……。わたしは『推論』の時代を創る女神シィーよ。私にしかできないからこそ、あの時価。それが絶好調の証よ。全体の時価だって右肩上がり。どこが大不況なのよ?」

「それは部分準備の膨らみが日に日に増して値だけが上がっている状況でしょう。計量が壊れると、そのような動きになるのね。壮大な実験でもしているのかしら?」

「……。違うわ。『推論』の凄さを理解せず、よくもそこまで……。」


 「推論」の凄さ? ああ、凄さね……。


「シィーさん、俺の意見も聞いてくれ。」

「女神の担い手様まで……、何かしら?」

「シィーさんが掲げる『推論』の時代ってさ、己の力ではなく『付与魔法』でチートする時代の幕開けだよね? 剣に補助属性を付与しまくって俺様強い、それっておまえの力ではなく剣の力だよなと突っ込まれ、虚しさに包まれる。」

「えっ……。」

「そういうのって、ファンタジーで……に召喚され、特別な証として女神様より授かるチート……、だったはず。それを現実でやるなんてな。あーそうだ、『推論』だと堅苦しいから『付与魔法』にしましょう、その呼び名。」

「あ……、あなたは何を提案しているの?」


 俺の横で……ネゲートは笑いをこらえています。


「もう……シィー、この瞬間、『付与魔法』で決まったわ。」

「……、あなたまで!?」

「女神の担い手様は、女神の最終判断を見極める立場よ。そのお方が『推論』だと堅苦しいから『付与魔法』にしましょうと、ご提案よ。つまり女神であるわたしであっても、これは覆せない。もちろん大精霊シィーであっても、よ。」

「……。」


 こんなのまで俺の意見が通るとは。……、悪くないね、これ。


「それなら俺は『付与魔法』で負けないトレーダーでも目指そうかな。」

「『推論』と、今すぐに修正して!」

「もう決まったの。諦めなさい。」

「そんな……。」

「シィー、『付与魔法』で逆転を狙っているようだけど、そんな事よりも『光円錐の中をただ駆け巡るだけの人形』の件をこのまま放置したら……、大精霊としての生命が絶たれるわ。つまり今、炸裂を止めるしかない。その人形の口から飛び出した内容次第では、これ、革命級の大敗よ。よって今、炸裂を止めれば……その人形はシィーを裏切る必要がなくなるので、かろうじて首の皮一枚はつながるはず。『付与魔法』なんかで遊んでいる場合ではないのよ? 『光円錐の中をただ駆け巡るだけの人形』と話し合って止めるべきよ。もう……。」


 それって、「シィーさんの頼れる精霊が豪快に炸裂」の件ですね。その人形が政敵の手へと渡る前に、炸裂を止めるべきというネゲートからの提案でした。

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