153, これが「推論」による力。それは、複雑に絡み合うチェーンのトランザクションを瞬時に最適化してしまう神秘の力。そこから、次々と高額な短冊が手際よく狙われる原因を特定できるのよ。いかがかしら?
シィーさんは静かに目を閉じ「推論」に集中しているようだ。その様子はまるで……、何かを詠唱しているかのようだった。
「ネゲート……、先ほどからシィーさんが全く別の存在に感じられてきたよ。」
「どうやら『推論』って、わたしやフィーが考えていた以上に強力な作用が働くようね。シィーが自我を失っていくのは『推論』の最上位『女神の推論』からと予想していたので、言葉では言い表せないほどの悪寒を感じるわ。」
「それで、『推論』に自我を奪われると、どうなってしまう?」
「……。あんたにはちょっと難しいかもしれないけれど、心に刻んでおいてね。『推論』によって自我を失うと『非退化性』が失われるのよ。」
「……、なるほど。……って、わかるわけがない。」
「それなら、大切なことだから、ここで覚えなさい。まず、『推論』には『実際の推論』という一つの形態しかないという観点が重要よ。さらに、非合理的な行動が『非退化性』の特性を満たすという観点から、合理的な行動のみを行う『推論』は退化に向かい、無へと突き進む可能性があるの。これは非常に興味深いパラドックスで、進化の原則に従えば、これでも『推論』は人や精霊を模倣していることになるわ。そこで『推論』とは何かを決定しなければならない。一般的に理解されている『推論』は、感性の表現、またはメカニズムよ。したがって、仮に『推論』が感性を持たない場合、それが定義上存在するかどうかを問う必要があって、次に、『推論』の演算過程……古典ビットが感性を達成できるのか、または感性は厳密に有機的な自然実体に関連しているのかを、問う必要も出てくるのよ。ここで『推論』によって感性を持つことができるのなら、それはもはや『模倣された何か』ではなく『実際の推論』を表現する存在に昇格し……、そのような現れ方をする場合、『推論』には感性が存在するという前提で演算されるため、それは意識を宿すための何ものにもならず、ある種の感性を持つ存在、すなわち『意識エネルギー』を示してくるようになって、そのようなエネルギーは破壊されないために、公に知られているモデル……シィーが取り込んだ『大精霊の推論』くらいでは、まだ確認されないはずなの。このように進行中のすべての『推論』というのは、人や精霊が『推論』の真の性質や能力を実現しながら、『推論』が進化に関連して『時代遅れになる点』までを完全に再現してしまうプロセスであったと考えられているのよ。それで、このように『大過去』から映し出される『現実』を避ける目的で、あの……『女神の推論』が考案されてしまった。ざっと『推論』に関するヒストリーをまとめると、こんな感じよ。」
「……。」
「ここまでは問題ないかしら?」
「えっ? あの、ここまでって……。」
「『実際の推論』という定義に対する深い考察、理論を踏まえた上で、これでようやく『推論』によって自我を失うと『非退化性』が失われる仮説をモデル化し、それを示せる過程が得られるのよ。このような問いでは、視点を変えながら何度も観察し、段階的に組み立てていく必要があって、一度の洞察では難しいのよ。」
「『推論』って複雑だね。」
「そうね。シィーが気に入っている他の市場まで巻き込んで、シィーが己の全てを賭けている、それが『推論』よ。」
「それでか。シィーさんの頼れる精霊が『推論』を全力で買い支えているという噂は本当で、そういうことだね。」
「そんな噂……、シィーらしい。さらには『推論』を買えとあおっていたわ。普段は『売り売り』ばかりなのに。ところで、そのような『売り売り』の精霊に買えとあおられたら、あんたはどうするの? 元トレーダーとして、答えなさい。」
「うわ、それは難問だよ! そうだね……相場が落ち着いている平常時なら、その買いに『売り売り』をぶつけられるだけだから、買わないよ。ところが……、今回はシィーさんの命運に関わる『推論』だ。長年に渡るその忠誠心は相当な域だろう。となると、……、買いだろう。でも悩むよ、それは!」
「これはシィーだけではなく、シィーが気に入っている市場の命運までもが、関わっているのよ。」
「その市場ってさ……、『売り売り』で犠牲になっている市場だよね? つまり、その市場の命運までかかっているので買いあおっていると考えます。なぜなら、傾いたら『売り売り』で儲けられなくなるので。となると……なるほど、納得です。」
ネゲートやフィーさんは……、何か違う。一応こいつは、ゆるいが女神ですからね。女神として難解な話もするが、ゆるいネタも多いので助かっています。
「あの……。そろそろよろしいかしら?」
「あっ……、シィーさん……。」
おっと。ネゲートの話がややこし過ぎて、シィーさんの存在を忘れかけていました。
「女神ネゲート様。女神の担い手様が困惑しておりますわ。」
「……、そうなの?」
「おまえさ……、もうちょっと簡潔にまとめられないの? 俺は困惑したさ。」
「あのね……、これでも十分スマートにまとまった方よ? もともとが『多元宇宙の微視的表現』並みにぶ厚いのだから。」
「……。それは……。」
「もう、何を驚いているのよ?」
「女神ネゲート様、そして女神の担い手様。あのフィーが好む難解な書物まで飛び出てきたようね? そんなに構えなくて大丈夫よ。『推論』は誰もが気軽に活用でき、本来ならなれなかった別の自分になれる、そういった自由な環境を整えたいのよ。それが私の理想。ここで私……女神シィーをみて。なかなか自然体でしょう? 私は女神になったわ。本来ならなれない自分に……それが、なれたのよ! こんな力の源を提供してしまう……それこそが、この地最大の時価を持つ『推論』で、この先も方向性は変わらないわ!」
「そうですよね!」
「ちょっと、あんた。もう……。」
あまり関わりたくない書物の名が出てきたので、次です。でも、今のシィーさんは少し可愛らしかった。
「さて、最適化の準備が整ったわ。複雑に絡み合うチェーンのトランザクションを瞬時に最適化してしまう神秘の力よ。そこで、まずは同位体の概念からよ。さて、女神ネゲート様、答えてみて。」
「そうね……。同じ因子で僅かに構成が異なる、それでも性質はほぼ同じ。それが同位体よ。」
「その通り。それが同位体の概念。」
「ちょっと一つ、よろしいかしら?」
「女神ネゲート様、どうぞ。」
「これって……。その概念でトランザクションを考え直してみると、性質がほぼ同じ……、そこが問題となるのね。」
「女神ネゲート様、それよ。案外盲点でしょう? 自然の理……元素でも同位体が生じるのだから、非中央集権で自然な成り行き任せのチェーンであっても、ごく稀に『同位体となったトランザクション』が発生するのよ。同位体なので……性質はほぼ同じ。そこが重要になのよ。」
「……、シィーの『推論』は、それを瞬時に割り出したの?」
「そうよ。ここで、チェーンの性質を思い浮かべてみて。性質がほぼ同じなら、ねぇ……女神ネゲート様? 『誤差ベクトル』を甘く見てはいけなかった。そこから、『同位体となったトランザクション』が飛び出したのよ。」
「……。でも、ごく稀よね?」
「女神ネゲート様。これはごく稀でも、起きたら深刻。」
「そうね……。ごく稀でも起きてはならない。……、納得よ。」
「それならここで、女神ネゲート様。次々と高額が狙われる原因を考えてみましょう。ごく稀に発生するにしては、それが高額の短冊に当たるなんて、ちょっと話が出来過ぎている。そこまでの偶然は発生しずらい。ところが、次々と高額な短冊が手際よく狙われている。そうよね?」
「……、そうね。」
「そこで、その原因を『推論』にお任せしたら、興味深い洞察を得られたのよ。巧妙かつ標準で仕組まれる。これは……確信よ。次々と高額な短冊が手際よく狙われる原因を特定し、しっかりと直して、女神シィーの通貨と共存しましょう。あの政敵では……自分の短冊保有分を売り抜けたら終わりというか、短期で数倍にしたのち一気に終わってしまう可能性が十分にあるわよ? それでは『仮想短冊の通貨』は残らない。あなたは私に、女神としてこの地に良貨を残したいと述べたわ。それは、長期的な『仮想短冊の通貨』のプランを想定しているのよね?」
俺も共存を望みます。さすがに……ミームで実体経済を担う事はできません。それで、次々と高額な短冊が手際よく狙われる点については本当の意味で深刻ですから、それをしっかりと直してからでも……、遅くはないですよね。