151, また速報よ。あら、あいつらの一味が拘束されたようで、物騒ですわ。それでは女神ネゲート様、チェーンに生じる「誤差ベクトル」と「同位体となったトランザクション」について考察してみましょう。
シィーさんに良貨と悪貨について問われ、ネゲートは返答に詰まっていた。そこに……、狙ったタイミングとしか考えられない速報が入りました。
「女神ネゲート様。お答えに迷われているさなか申し上げにくいのですが、また、マッピングで速報ですわ。」
「……マッピング?」
「そうよ。早く確認しなさい。」
俺もシィーさんから指定された速報を眺めていました。それは……、マッピングで連絡を取り合う仕組みを提供していた精霊が、シィーさんと親密な大精霊の手によって拘束されたという内容でした。ネゲートは非常に驚いた様子で、その場で硬直していました。それから、ゆっくりとシィーさんに視線を向けると、驚きの混じった声で呟き始めました。
「なによこれ……。」
「あら、あいつらの一味が拘束されたようで、物騒ですわ。」
「シィー! こんな事が許されるとでも……?」
「女神ネゲート様。なぜ、そこで私が出てくるのよ?」
「なぜって、そのままよ? あんたと親密な大精霊が仕掛けたとなるから、そうなるわよ?」
「そう。そんな憶測、いつまで続ける気なの? 私の通貨を悪貨と呼んだり、『推論』の時代の幕開けを否定する、はたからみても信じられない女神様になっているわよ?」
「……。」
「あなたは『時代を創る女神』という存在を何だと考えているのかしら? この地の全権を持つのが『時代を創る女神』よ。その責任として、新しい時代を創設する義務があるのよ。」
……。どうやら拘束された精霊は「仮想短冊の通貨」と大きな関係を持つようですね。それで……、こんなに簡単に? ……、これが「時代を創る大精霊」、ではなく「時代を創る女神」の持つ力なのか……。シィーさんのために黙って動く者が、この地には大勢存在するということです。
「今すぐの釈放を女神として要求するわ。いい加減にしなさい!」
「女神ネゲート様、拘束したのは私ではないわよ? あの大精霊のやったことに口を挟む権限など、私にはないわ。あら、残念ね。」
「……、もう、あんたって! どうしていつも、こうなの? 『豪快な件』といい、ふざけているの?」
「あんな……なチェーンで私の通貨を悪貨と叫んだ罪は重いわよ? 私、そういうの嫌いなの。おわかりかしら?」
……。結局、こうなってしまうのか。そうだよな……、「豪快な件」を簡単に仕掛けられる立場だ。これ位、いとも簡単だよな。
「……、わたしが手を引かないと、拘束は解かないつもりね?」
「さあ、どうかしら。そもそも拘束された理由は他にもあるわ。そうね……、まだ未報道で新鮮な追加情報として『仮想短冊の通貨』で被害が多発する『コピートレード』絡みの仕手情報がたっぷり存在したというのはいかがかしら? 女神ネゲート様、あなたはゆるいのだから本当に気を付けないと……、もう。あのマッピングの特徴は、一定時間が経過すると情報が跡形もなく消え、追跡が完全に不可能になる点よね? それで、このような『コピートレード』が絡む仕手情報には本当に最適で相性抜群だったようね。それで、このようなスキャムについてさえ、女神ネゲート様はある程度は仕方がないとまで、お考えなのかしら? 『コピートレード』なんて放っておくから、こうなるのよ。」
「ううん……、それは問題よ。」
「あら、やっと意見が一致したわね? 私はこの問題を知ってからすぐに調査を着手し、結局、このような形になっただけよ。それでね、その仕手情報については会員制になっていて、会費を取った上でさらにはめこむという、二重の恐ろしいスキャムと化していたわ。そんな乱立を対策せずに放置し、無垢な民があいつらの食い物にされていく。それでは、文句はつけられないわよ? 実際、わずか数週間でこのスキャムが急速に拡散し、若い民の被害が相次いだのよ。あなたは女神として、そこまで考えて行動しなさい。『仮想短冊の通貨』に限らず、これは大問題よ?」
「シィーさん……、それって、会費を積むほど早く仕手情報が得られるという仕組みになっていませんか?」
「あら、女神の担い手様、大当たりよ。仕手情報の提供時間によって会費が変わるのよ。それで、みんなはめこまれる。『コピートレード』で操作し、そのような結果に陥るようにあらかじめ仕組まれているのよ。」
「つまり、高い会費を胴元に支払えば早い段階で仕手情報が提供され、先に安く仕込める。そこに『コピートレード』による相乗効果によって大儲けにつながると謳う、だね?」
「そうよ。それで、一定時間が経過すればその痕跡は跡形もなく消えてしまう。スキャムにとって、最高の環境となっているわね。」
それ、仕手にすらなっていない。儲かるのは胴元のみ。しかも痕跡は消え、残らない。あーあ、でした。
「これはまずいぞ……、ネゲートさん。」
「な、なによ……? それくらい、わかっているわよ。」
「もう。あなたはゆるいけど、『時代を創る女神』である私に向かってあれだけ反撃してくるその魂には感動すら覚えるわ。他の精霊や大精霊、さらにはあの神々すら、私に対しては……するばかりでとてもつまらないのよ。とはいえ、あの政敵は論外よ。それで……、そう、その精神は、あなたの姉譲りよね?」
「……、そこでわたしの姉を引き合いに出すのかしら?」
「そうよ。なぜなら、私は心配しているのよ。このままだと、同じ結果に帰着するわよ?」
「同じ結果に帰着って……。」
「このままだとそうなると、強く伝えたいのよ。もうね、このようなスキャムの発生や『誤差ベクトル』の問題が片付かない現状まま先に進めると考えていたら、それはとんでもないわよ? 進めるにしても、このような問題点を全てクリーンにしてからよ。いいわね? 私の『仮想短冊の通貨』に対する方針は、そのような妥協点でまとまる見通しになるわ。」
これについて、ネゲートからの反論は特になかった。
「それでは女神ネゲート様、チェーンに生じる『誤差ベクトル』と『同位体となったトランザクション』について考察してみましょう。よろしいかしら?」
「……、それも『推論』による力よね?」
「そうよ。私って、討論するほどボロが出て、民の審判まで持たずに大敗するという評価もあるようね? でも、それを『推論』の力によって克服したわ。今は大精霊シィーではなく『女神シィー』よ。」
「……。」
シィーさんは完全に「推論」の力に頼りきりだ。俺すら心配になってきたよ……。