150, あの政敵は、シィーが「仮想短冊の通貨」と「大精霊の管理下にある仮想短冊の通貨もどき」を挿げ替える可能性まで見越し、その「偽物」だけは絶対に受け入れないと、仮想短冊の方針として強く表明した。
シィーさんの頼れる精霊が豪快に炸裂する件については何やらご都合が悪い様子です。あれだけネゲートに責め立てられても余裕だったはずのシィーさんが、今は明らかに動揺し、顔色は青ざめ、汗ばむ手を何度も拭いながら視線を彷徨わせている。
「あんたの頼れる精霊が豪快に炸裂する件を語るなら、『光円錐の中をただ駆け巡るだけの人形』を忘れてはならないわ。あんなのはさっさと用済みにして、その代わりとして誕生させた『シィーの通貨を崇める狂信的な人形』に置き換える作戦が上手くいかず悪戦苦闘している。それで、いざ用済みにしようとしたら、あの政敵が先手を打って『光円錐の中をただ駆け巡るだけの人形』に接触してしまった。これでは、この状況から……なんてしたら、それはシィーが口封じでやったとなってしまう。もうね、あんたの悪運は尽きたのよ。」
「そんな戯言……。聞きたくもないわ!」
「あの政敵に寝返った『光円錐の中をただ駆け巡るだけの人形』の口から、いったい何が語られるのか。それを民の審判の日程に合わせてくるのかしら? 最も効果的な戦略と感じるわ。」
「……。」
「わたしは女神よ。こんな程度のこと、お見通し。それで……、その人形の口から飛び出した内容次第では、これ、革命級の大敗になりそうだけど? その場合、『俺は……にはめられ、悪魔すら震える……を実行に移した』みたいな内容かしら? あの人形……、自分が助かるためなら確実にあんたを裏切るわよ。」
シィーさんはふっきれたように、軽く首を横に振った。その仕草には、開き直ったような気配が感じられた。
「そう……。それならもう、なるようになるしかない。想像力が豊かな女神様。勝手にすればよいわ。」
「勝手にすればよい? それならもう一つ。そう……『大精霊の管理下にある仮想短冊の通貨もどき』の件よ。これは何かしら?」
「……。」
「とにかくひどいの一言。あんた、こんなのばかりよ? この偽物は『大精霊の通貨』よりも、もっと厄介な悪貨よ。こんなのが『仮想短冊の通貨』を名乗っているなんて、そんな悪知恵ばかり働くのね? よくもまあ、こんなものを思いつくものね。」
「それは……。」
「『仮想短冊の通貨』をいじめ抜いた精霊様よりご発案されたのかしら?」
「違うわよ!」
「違う? それならその概念を説明するわ。『大精霊の管理下にある仮想短冊の通貨もどき』は、民の消費習慣や行動をシィーの覇権の下でコントロールするために構築されたものよ。そこに『非中央集権』や『自由』という概念は一切なく、管理下に置かれる分、『大精霊の通貨』よりも悪貨になるのよ。それで、こんな得体のしれない悪貨を手元に置いておくなんてあり得ない。つまり、こんな状態で市場に放出されると良貨な『仮想短冊の通貨』は溜め込まれ、この悪貨は逆に流通してしまうのよ。そこまで狙ってこんな偽物を発案したのよね? ほんと、悪い方向には頭が良く回る精霊様。シィーの頼れる精霊の特等席に座ることが許されるだけの力量は持ち合わせているわ。感心感心。」
「……、ほんともう……。何が良貨なのかしら?」
「勝手にすれば、と言い放ったのはシィーでしょう? だからその通りにしているのよ。」
「……。」
「古の時代は、ゴールドの含有量で良し悪しが決まったようね。もし同じ価値なら、ゴールドの含有量が多い方を溜め込むことになって、含有量の少ない方が市場に流通する。それで、ヒストリーってやっぱり繰り返す。シィーの時代は『非中央集権』の含有量で良し悪しが決まる。なかなか興味深い現象が起きているわ。」
「……。あなたはやはり女神ではないわ……、そんなことまで! そんな事で喜ぶなんて。あなたには品性が足りないようね?」
「わたしに品性が足りない? シィーが『売り売り』失敗で生み出した厄災のお片付けまでさせられる。これが女神の実態。女神に品性の概念なんてはじめからないわよ。それでも、なんとか良貨をこの地に残してあげられるよう、わたしなりに頑張っているのよ。」
「……。」
「さらにシィーは、他の大精霊たちにこの偽物の採用を迫っているのよね? この偽物が採用されるほど、それだけで状況がシィーにとって有利となるわ。なぜなら、従来のシィーによる市場操作の外部メカニズムを使用するよりも、より簡単にコントロールできるからよ。」
シィーさんによる市場操作の外部メカニズムって一体何だよ……。ああ……。
「それで……、何が言いたいの?」
「どうやらあの政敵は、シィーが『仮想短冊の通貨』と『大精霊の管理下にある仮想短冊の通貨もどき』を挿げ替える可能性まで見越し、その『偽物』だけは絶対に受け入れないと、仮想短冊の方針として強く表明した。それで、あんたはどうなの?」
「そのような暴論を正論だと主張しないでいただけます? 私の政敵らしい卑劣なやり方だわ。いったい何なの、あれは?」
「わたしは女神として『大精霊の管理下にある仮想短冊の通貨もどき』を認めないわ。このような実証実験など中止よ。」
「女神ネゲート様、少し位は『共存する』という気持ちを持ち合わせていないのかしら? 『非中央集権』を名乗る割には排他的よね? あいつらと遊んでいるから自然とそうなるのよ。別に、『仮想短冊の通貨』と『大精霊の管理下にある仮想短冊の通貨』の両方が同時に存在したって問題ないわ。そもそも、『非中央集権』や『仮想短冊の通貨』が良貨と判断される基準そのものが、あなたの思い込み。女神シィーの管理下に置かれた通貨の方が信用できると判断する民や精霊の方々も普通にたくさんいらっしゃいますわよ? その方々は、悪貨である『仮想短冊の通貨』を捨て、女神シィーの管理下に置かれた良貨を溜め込むことになるでしょう。いかがかしら?」
……。そう言われると、それも納得できる。大精霊の力で護られた価値……という基準から通貨の価値を定めるのであれば、それも信用になるからだ。