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149, 俺は一応元トレーダーですから、「仮想短冊の通貨」であっても必ずチャートの分析をします。そしたら、急騰前のミームにはわかりやすい共通点があった。

 市場は私が決める。そう言い切ったシィーさん。


「私は『時代を創る大精霊』から昇格した次の時代の女神よ。その私が、この地最大の市場を決める。何か間違っているのかしら?」

「ここまでやらかしておいて、まだ女神を名乗れるとはね? あんな……ペンペン草も生えないような経済対策で?」

「……、まだ……、私に文句があるの?」

「そうね……、そうだそうだ。シィーが勝利した暁には、『仮想短冊の通貨』をいじめ抜いたその功績を大いに認め、頼れる精霊の特等席に座らせてあげる。こんな約束を、ある精霊とシィーが交わしていたという噂が流れているわ。そうなの?」

「また、そんな噂を……。」

「その表情から察するに、この噂は本当のようね? つまり、あの『豪快な件』はいじめ抜かれた結果。ステーブルが嫌で仕掛けた罠だった。そこに裏では『仮想短冊の通貨は近いうち禁止』で大いに盛り上がっていた点を加えると、シィーが『仮想短冊の通貨』を快く迎える可能性なんて『ゼロ』だということよ。それが本心でしょう。だったら、未だに出していない『仮想短冊の通貨』の方針にそう示しなさい。これ以上の嘘は良くないわ。それなら、あの政敵は『仮想短冊の通貨でファーストを目指す』に対し、シィーの『仮想短冊の通貨は近いうち禁止』という、明確に対立したシンプルな方針で民に信を問うことができる。いかがかしら? それでもシィーが勝つのなら、それは民の支持ゆえに、わたしも諦めるわ。」

「……。」

「何も言い返せないの? そうよね。やる気もないのに若い民の票欲しさで余計な工作をしたら、本気で怒るからね。」

「なに……、勝手に話を進め、納得しているのよ? あなただって『豪快な件』のとき、仮想短冊が奪われる性質に不満を持っていたはずよ? そこで私は目を覚ましてくれたと解釈したのに……なのに……、どうして!」

「それは、あの『豪快な件』に便乗して暴れていた『倫理観など欠片もない者』を退治していただけよ。そうね……、今だと『コピートレード』かしら。このようなスキャムは姿かたちを変え、新たなるスキャムとして襲い掛かってくる。それ位、わたしだって理解しているわよ。」


 コピートレード? 何か不穏な響きがするトレードです。どうせサクラのトレーダーが仕掛けたトレードをコピーして稼げるとか、そういった情けないスキャムな内容でしょう。そんなお任せで億を取れるほど相場は甘くないです。もちろんミームでさえ、こちらは頑張れば億を取れるとはいえ、地道に調べ上げる努力は必要なはず。それで、最後は取られないこと。つまり勝ち逃げする。……。


 ところで俺は「女神の担い手」です。そんでもってネゲートに乗せられる形で俺のミームまであります。その影響から……若い民の方々より急騰しそうなミームをしつこく聞かれる機会が急増しています。まあ、ネゲートを経由してそれらしい情報は入りますよ。それで……俺は一応元トレーダーですから、「仮想短冊の通貨」であっても必ずチャートの分析をします。そしたら、急騰前のミームにはわかりやすい共通点があった。


 どうやら現在値から百倍近くの値までの「売り板」をすべて掌握できるミームを安く買い集め、それらをうまく動かして誘導している、すべてそんなチャートになっていました。そして、ふと訪れる買い上がりによってチャートが壊されないように必ず「売り板にフタ」がしてあり、とてもわかりやすい。それで、現在値の百倍からさらに百倍にさせる、という手法です。もちろん、それを仕掛けた仕手筋もビジネスですから、その間で利確し、次のミームに向かう。そんな流れになっています。そして、仕手筋が抜けた後もしっかり値を維持できるかはそのミーム次第。これが「仮想短冊の通貨」です。良い意味で、そこは「自己責任」としてみな割り切っていて、この仕組みから銘柄ではあり得ないような急騰がある、でした。


 それで、シィーさん側につく「市場の精霊」は、この仕組みが面白くないのでしょう。でもさ……「売り売り」で円環の市場などをたっぷりと荒らしているよね? よって、この仕組みに対して文句を言える立場ではないでしょう……。少なくとも俺はそう感じるよ。


 さて、そのシィーさんは何と反論するのでしょうか。……。なんだか俺の方を蔑むような目で見てくるんですが……。


「そう、それなら私の答えはただ一つよ。インフレの退治を確認し、利率を下げ、『推論』の時代を迎えること。それは確実に起きると判断しているからこそ、私は女神に昇格したのよ。ただ、それだけの話。私は『推論』の時代のためなら全てを受け入れる覚悟があるわ。あなたとは、そこが違うのよ。仮想短冊なんて……。」


 その「推論」の時代とは、「女神の推論」によりシィーさんは自我を失う事につながります。つまり、全てを受け入れる覚悟があるとは、それはすなわち……。いったい何をする気なんだよ、シィーさん。


 ちなみに、俺は「推論」自体は否定しません。便利に活用するだけならプラスですから。ただし「中身をオープンにする」ことが本当に大事だと感じます。そこが閉ざされていると「推論」による乗っ取りが発生してしまいますから。


「その繰り返しばかり。……。わたしにとってシィーは大切な大精霊。この地で『常識の枠を超えた新しい領域への挑戦』を平然とやってのけるのは、間違いなくシィーしかいない。そう解釈していたのに……、今のあんたは何よ? お願いだから、これ以上、失望させないで……。」

「そっちこそ、私に何度も言わせないで。『インフレは退治され、強い通貨と確信できた』と、すでにそう宣言したでしょう。それが女神シィーの存在意義よ。強い通貨と確信できたので利率を下げる。すると値はすぐに上がり、そこから民を支える経済の基盤が生まれるのよ。」

「そんな戯言で、さらにあんたの支持者が離れていくのよ。それで、民の子供たちまでもが政敵の名を口にする状況のようね? 親が苦しんでいるのを見て、自然とそうなるのよ。では、その価値が上がった分はどこに消えるのか。そうよ、民の生活の糧になるのではなく、あんたの頼れる精霊がどっかで豪快に炸裂する分として全部消費されるのよね? これ以上、この地を壊さないで。もう、やだ。」


 ……。そういやラムダの件は依然として解決されていなかった。シィーさんの頼れる精霊が豪快に炸裂して十分な戦果を挙げていると、マッピングで大きく報道されています。これでは……、「錆びついた工場……奴隷労働」「返せない借金」、そして「シィーさんの頼れる精霊が豪快に炸裂」までもが揃ってしまった。信じられん……。ここまで酷いのは、なかなかないぞ。さらに、そこに「仮想短冊の通貨は近いうち禁止」まで加わったとしたら、もはや勝負すら必要ない状況ですね。

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