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146, 雇用が「マジックショー」だったと、公に晒された。だから言ったでしょう、『光るアイデア』をわたしに託し、一から出直せと。こんな茶番、みんなで腹を抱え大笑いよ。

 自信に満ち溢れるネゲートに警戒し始めたのであろう。シィーさんが一歩、後ずさりする。


「ちょっとね……。すでに、あなたには勝てる隙すら無い状況よ? もう……強がるのはやめなさい。」

「だったら何? 簡単に諦めるような者が、女神なんて引き受けないから。そこ、理解してる?」

「私を反省させるですって……。できるものなら、やってみなさいよ! あなたは私の市場を暴落させた酷い女神、投資家の皆様方は、みんなそう解釈しているわよ? 女神ネゲート様はゆるゆるだってね?」


 ゆるゆる呼ばわりされ、どんな反応をするのかと思いきや……。余裕の笑みを浮かべています。


「あんなに膨れていたなんてね? シィーの部分準備。ほんと、ひどい有様で吐きそう。例えると、水で薄めていただく甘い飲み物のほとんどが水だった、という状況よ。あれでは、通常のゆるゆるな対処ではすでに手遅れ。そこで、荒治療を選択……安全な『女神の通貨』となるべく選ばれた『仮想短冊の通貨』を部分準備に割り当てるのよ。ただ、それだけの話。ただし、仄めかしただけであのような暴落に至った点はわたしも反省しているのよ。」

「……。だったら、何? あと、『女神の通貨』って……。変な定義はやめなさい!」

「あら? シィーの部分準備が破裂する前に治療が必要だったと言いたいのよ。そこ、理解されているの? それで、もし破裂したらどうなるのか、そこも理解されているのよね?」

「……。」


 うつむいたまま、口をつぐむシィーさん……。辺り一面に緊張感が漂います。


「それでもシィーって、こんなにも絶妙なタイミングでわたしに喧嘩を売りに来るのだから、憎めないのよね。」

「何よ……。絶妙なタイミングって……?」

「あら……、マッピングで何やら速報が流れているわ。えっと、何かしら?」


 マッピング? ……、俺も慌てて参照します。


「これって……。ネゲート、ちょっと、これは……。」


 俺すら思わず叫んでしまった、とんでもない速報が流れてきました。それは、シィーさんが雇用を誤魔化していたという内容です。雇用はトレードする上で非常に重要な指標です。それを……誤魔化した? それに加え、「錆びついた工場……奴隷労働」の件だってある。いったい何をしていたんでしょうか、シィーさんは……。


「……。」

「さて、シィー。何かしら、この雇用は? 答えなさい。」

「どうしてこんなのが、このタイミングで……。どうなっているの……。……。」


 動揺を隠しきれないシィーさん。どうやら、俺に助けを求めるような儚げな視線を向けてきました。


「ねぇ、シィー。雇用がフェイクだったなんて。そうよね……。」

「……、そうではないわ。」

「そうではない? それでは、どんな言い訳を並べるのかしら?」

「冗談じゃないわ……! あの精霊……。なんで、どうして私をここまで……。こんなタイミングで! もう!」

「あら? そんなのは簡単な話。普段からシィーへの忠誠が薄い精霊たちに直接、わたしはこう囁いた。『女神ネゲートに寝返るか、それとも大精霊シィーに最後まで尽くすのか。今、ここで決めなさい』とね。そしたら……、ね? マッピングでは『何とかシィー様』一色で染まってはいるけど、『大過去』から映し出された慈悲なき『現実』からは逃げられない。クレジットの利率や延滞率なんて、すでに危険水準を突破。このまま何も手を打たなければ膨らみ続けた部分準備が破裂し経済破綻よ。こんな現象を説明するのに式など不要、直感で十分。すでにこの現象、民の間では『返せない借金』と囁かれているわ。そして、そんな状況に追いやったのは大精霊シィーだと……。今さらどの口で何を対策するんだ、という不満もあったわ。」


 ネゲートって、そういう根回しを得意とする大精霊だった。「この地の主要な大精霊」として迎えられた時も、すぐに溶け込んでいったからね。それでか……、その根回しも含めて忙しかったようですね。そのあたりは非常に有能な女神様です。


「おい、ネゲート。これってさ、仕事を掛け持ちしないと返せないから、その掛け持ち分で雇用を水増ししたのかな?」

「あら? あんたにしては、なかなか鋭い勘ね? その可能性は十分に考えられるわ。よくもまあ、そんな『マジックショー』を考え付くなんてね。呆れて何も言えない。」

「……。」

「『マジックショー』による指標操作の怖さは、生活が苦しくて仕事の掛け持ちを増やすほど、水増し分が大きくなって雇用が輝き始めてしまうという壊れた論理にあるわ。つまり『民の生活が苦しいほど経済絶好調な指標になる』という恐ろしさよ。そうよね、シィー? いい加減……、黙っていないで何か答えなさい! だから言ったでしょう、『光るアイデア』をわたしに託し、一から出直せと。」


 シィーさんが重い口を開く。その口から、何が語られるのか。


「私は……投資家を守ったのよ。そう。私は悪くないわ。」

「あら? その投資家たちは今後をどう判断するかしら? どうせあのシィーは勝ちたい一心から最後に思い切り部分準備を膨らませるだろう、つまりまだいける、まだまだ……、まだまだ、そう、これからシィーに絶対服従な精霊様の大きな買いがあるはず、ここからが大いなる勝負だ……。こんな感じよね? こんな茶番、みんなで腹を抱え大笑い。いかがかしら?」

「……。」


 うわ……。それ、高く舞い上がった新興銘柄の末期ではないか。ははは、それに信用全力で撃沈。何度もあった。


「そこまでして、私の部分準備に入り込みたいわけ、あの『仮想短冊の通貨』は? ふざけないでね? 『大精霊の推論』で、その危険性が指摘されているのよ。仮想短冊の価値の出所から考えて、その目的は……、私から覇権を奪う事。私が何も知らないと勘違いしているなんて。女神ネゲート様?」

「シィー? それ、本気で言っているの? どうやら『大精霊の推論』も誤った回答はするようね。」

「ちょっと、今の発言は許せない……。私の『大精霊の推論』は万能よ。冗談じゃないわ!」


 ……、シィーさんは推論に上手く取り込まれてる感じがしました。自分の意思や意見が減っている、そんな感じです。


「あら? だって、もしこのまま放置すれば部分準備が破裂して経済破綻するのだから、シィーから覇権を奪うのが目的なら『何もしない』が正解よ。はい、論破。」

「……!?」


 ……。


「いかがかしら? 天までそびえ立つ高い塔の頂きにある特等席から、深海の奥底まで一気に突き落とされた気分は? 少し前まで、わたしと『仮想短冊の通貨』を全力でつぶせると喜んでいた、そんな気がするのよ。」

「この……腐った女神! こんな程度で私に影響があるとでも? 『精霊の推論』『大精霊の推論』『女神の推論』は、過去に類を見ないほどに稼げるのよ? あなたは見通しが甘すぎる。だからあんなとんでもない通貨に……。私は、推論の稼ぎで十分に潤い、問題ないの。わかったかしら?」

「わたしが甘い? 甘いのはシィー、あんたよ。こんな程度で反省する大精霊が『時代を創る大精霊』なんて引き受けるわけがない。よって、こんなのは『前菜』よ。」

「……、前菜って……?」


 ああ……、それって……。

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