145, ネゲートと「仮想短冊の通貨」を本気でつぶす気って……。それはダメだよ、シィーさん……。
ネゲートと「誤差ベクトル」の話から始まり、「時間」に触れて壊れたチェーンの存在を知りました。そのチェーンを考察すれば、チェーンは「時間」に弱い性質があることがわかるはず。……。えっと、俺はノータッチの立場です。このあたりの詳しい考察は全て女神ネゲート様にお任せしています。ははは。
「『時間』に触れて壊れたチェーンは結構あるみたいね。それなら、実装が最も容易なチェーンを取り上げてみましょう。」
ネゲートが首をかしげながら、考察する事例を選んでいます。
「実装が最も容易? どうせ、俺にはどれも一緒だよ。」
「えっ、そうなの?」
「あのな……。どれを取り上げたって、俺にはわからないという意味だよ。」
「もう……。実装が最も容易なチェーンは簡単よ。これくらい、女神の担い手として理解しなさい。」
「はーい。」
「それとも、どうせなら複雑なチェーンにチャレンジしてみる? そうね……、マルチレイヤーが随所に絡んでくるチェーンに対し、原因が確実に掴めていないイエローが点灯しているらしいわ。その原因は……、おそらく『時間』が絡む『誤差ベクトル』で間違いなさそうよ。本来なら『大過去』から『現実』に映し出される非局所性の確率は限りなくゼロに近く現実には決して現れないゆえにセキュアとされていた事象が、非常に低いが稀に現れてしまう非局所性の確率へと『誤差ベクトル』によって変換されてしまう興味深い現象かしら。この事象が現れるとね、チェーンが『誤差ベクトル』の除去や再計算などに追われ、そこで止まってしまうのよ。それでね、その止まる期間が短いのなら問題ないけど……それが長期に及ぶと、トランザクションが長期に渡り停止するため、そのチェーンは崩壊したと解釈されてしまうわね。それでも、起きる確率は非常に低いうえに、その影響で止まる期間も短いのなら実用上は問題ないとされる。ところが、『誤差ベクトル』は……『少し傷付いた短冊によるトランザクション』などによってその蓄積量をコントロールできるのよ。つまり、自然に任せているのなら実用上は問題ないが、何食わぬ顔で仮想短冊を奪っていく『倫理観など欠片もない者』が溢れんばかりのこの相場では何をされるかわからない。よって、それを対策できる『光るアイデア』を常に必要としている。ざっと並べると、こんな感じよ。」
「女神ネゲート様……、最近、フィーさんの方向性に向かっていないか?」
「な、なによそれ?」
「ほら。意識せずにフィーさんの方向に向かっている。ということで、調子に乗りやすい性格と一緒に、それも直しましょう。ということで、マルチレイヤーなどそんなのは後々。実装が最も容易なチェーンから考えてみましょう。」
まったく……、油断も隙も無いです。今、止めないと……、どうなっていたやら。
「もう……、わかったわよ。それなら実装が最も容易なチェーンから考察していきましょう。それは……、変更因子をベースとした『ステーキング』の実装になっているのよ。」
「……。」
「ちょっと、これで限界? どうなの?」
「……、気にせず続けて。」
「あら、そうね。それなら続きよ。この壊れたチェーンには変更因子に『時間』の作用を結び付け、定期的に訪れる特定の日のみ『ステーキング』の割合が増加する仕組みが実装されていたようね。」
「わかってきたぞ。『ステーキング』の割合が増加するだと? 『ステーキング』とは、手持ちの持ち分に応じて枚数が増加する仕組み、だったよね。なるほど、その特定の日が訪れるたび、その日はいただける報酬が増加したという事だね?」
「そうよ。そんなユニークな要素があるだけで、コミュニティは盛り上がるのよ。ところが……そのチェーンは壊れた。」
「それで、そうか! その壊れた原因が『誤差ベクトル』となる。そうだね。」
……。さげすんだ目で俺を……。
「今、何も考えずに述べたでしょう? 一に一を加えたら二と答えてしまう位、何も考えていない。」
「……、一に一を加えたら二になります。誰だって、そう答えるでしょう。」
「な、なによ?」
「それなら、何が原因なんだい?」
「これはね、初めから複数のチェーンが存在し重なり合った状態なのよ。それで、たまたま最も長いチェーンがメインとなるだけよ。つまり、偶然的にもその重なり方が全て同じときだけ動いていた。重なり方が全て同じなら、それは一つとなって、一つしかないのなら、それが最も長いと呼べる。そいういうことよ。」
「それって、初めから誤差があった。これなら合っているね?」
「それそれ、上出来よ。初めから誤差がある場合は『誤差ベクトル』ではなく、初めから複数のチェーンが存在し重なり合った状態、と表現するのが適切よ。とにかく、『時間』に対する弱さを解決する方法を探し出す。それしかないわ。」
「仮想短冊の神託を放ったからには、探すしかない。そうだよね?」
「当然よ。解決してみせる。……、……、えっ?」
「どうしたの?」
急にネゲートの表情が曇ったので、どうしたのだろうか。
「シィーが来るわ。」
「はい?」
「間もなく……目の前に現れる。なによもう……。」
ほんと、風の大精霊は常に強い力を帯びているのが手に取るようにわかるよ。こんな感じで自由自在に移動できますから。そして……目の前にシィーさんが現れました。シィーさんがまとう女神の衣装はまるでシィーさんのために作られたかのように完璧にマッチし、その長い銀髪が揺れるたびに、衣装の美しさを一層引き立てていた。まあ……女神らしさなら、こいつではなく、シィーさんに軍配が上がります……。
「あら、女神ネゲート様、そして女神の担い手様。ご機嫌麗しゅうですわ。」
「それはそれは、こんにちは。大精霊シィーが私に、何用なのかしら?」
おいおい……。あえて大精霊シィーと呼ぶとは。これは……。
「……、私は女神よ。それをなぜ大精霊シィーと呼ぶのかしら? どうりで祝辞をよこさないと……。」
「あんたは何もわかっていない。あんたを女神として認めたのはこの地で……そうね、半数にも満たないわよ?」
「ちょっと……、黙りなさい!」
……。俺は、おとなしくしていましょう。
「わたしはこう見えて、どの地域一帯に飛んでも『女神』として名が通っているわ。それに対してあんたは……、無理。」
「これからは『推論』の時代よ。女神ネゲート様の時代ではないの。いい加減、諦めたらどうなの? あんな無責任な神託を下賜して平然としているなんて。少しは、先日の暴落の件、反省したのかしら? 女神ネゲート様があんな腐ったイベントで私の政敵を巻き込んで、あんなものを強引に私の通貨の部分準備に割り当てようとしたのが、そもそも事の発端なのよ? わかっているの?」
「そうなの? ところでそれはあんたの意見? それとも……『大精霊の推論』の意見? どっちなの?」
「『大精霊の推論』よ。それが私のすべて。この地最大の時価で、円環の市場全体すら凌駕しそうよ。」
「はっきりと言ってくれるじゃない? 『推論』が全て、そう、わかったわ。」
「それでは、私は女神ネゲート様との再度の討論を要求するわ。もちろん、公開チャンネルよ。」
「また勝手に? その公開チャンネルは大精霊シィーのお膝元で、時間差で……したりする、ちょっと……な公開チャンネルよね?」
「……。」
その時間差で何をするんだよ、シィーさん。生の報道とみせかけて、時間差を作り、そこで歪曲でもするのかな……、という手法でしょう。
「何か言いなさいよ?」
「ちなみに、私の政敵は拒否したわ。ほんと、ふざけてる。」
「そうなんだ。よっぽど酷い歪曲だらけの公開チャンネルのようね?」
「……、受けるの、それとも逃げるの? はっきりしなさい。」
「あんたって、ほんとわかりやすいわ。これで私が逃げたら、財で懐柔した妖精を駆使して『わたしが逃げた』と大きく報道し、わたしと『仮想短冊の通貨』を本気でつぶす気よね? シィーは未だに『仮想短冊の通貨』に対する方針すら出さない。民の半数近くが首を長くして待ち望んでいるにも関わらず、よ。それで勝てるとでも? 笑ってしまいますわ。こんなのが女神を名乗るなんてね! ああ、世も末よ。」
ネゲートと「仮想短冊の通貨」を本気でつぶす気って……。それはダメだよ、シィーさん……。
「ふざけているのかしら? 何よ、その余裕な態度は……。」
「わたしは逃げる気なんて微塵もないわよ、その公開チャンネル。余裕に受けて立つわよ。でもね、それではあんたがさらに大恥をかくことになるから、やめておいた方がいいと、そう……、この優しき女神……ネゲートからの温情を受け取っていただきたいわ。」
ネゲートの突き放しに、シィーさんの表情が……。
「いったい何なのこの女神は……、よくもまあ、そんな強がり。演算用古典ビットの件、ご存知ないのかしら?」
「あんたは追い込まれると、いつもそれ。追い込まれると、ありもしない……があると大きく報道して不都合な相手を追い出したり、してきたわよね? それでね、その演算用古典ビットで悪い結果が出ようとも、そんなの、わたしとフィーで直すのみよ。逆に、ご丁寧にも高い燃料代を払ってまで問題箇所をみつけてくれるなんて、ありがとうございます、ですわ。」
「……、あれは逃げられないわよ?」
「そう、思い込みたいだけよね? まあいいわ。ここでシィーを反省させてあげる。そして、これに懲りたらあの時話していた『光るアイデア』をわたしに託し、一から出直しなさい。」
……。自信に満ち溢れるネゲートです。これって……。