144, どうやら「時間」に触れてしまったチェーンは壊れ、動作しなくなった記録が残っているようね? こんな状況で、万一が絶対に許されない部分準備に割り当てるの?
最近……、「もしあの政敵なら」という魔のフレーズを聞かなくなりましたわ。つまり、時代は「推論」で、女神シィーを受け入れた。勝負は決まったも同然ね。
私が慕うあの方の指標の出し方は、もはや創造神の領域よ。裏切った精霊による変な指標に加え、利率の判断ミスを犯した「市場の精霊」の不手際分まで、緊急対応を回避しつつ、あの方はいとも簡単に他の指標を最大限に活用しながら補正してしまった。それに投資家の方々は安心し、買いに回ってくださったわ。
「『大精霊の推論』と相関する銘柄が、息を吹き返すように連騰しているようね?」
「女神シィー様、ご機嫌麗しゅうございます。これからの時代を支える銘柄を中心に幅広く買われている、そのような状況に至っております。」
「……。買われることに救われるなんて。私は『売り売り』だった。そんな私は、ほんと、どうかしてたわ。民とふれあう事で、徐々に柔らかな気持ちが戻ってきたのよ。このような民や精霊とのふれあい、本当に大切だと痛感したわ。」
「女神シィー様……。それでこそ、我らが忠義を尽くすべき『時代を創る女神様』としての理想像です。」
「全部そろってる。イエロー点灯すらなく、一つも揺るぎない。これで、このまま順調に成長するのみ。そうよね?」
「女神シィー様、さようでございます。我らの覇権は揺るぎません。地の大精霊がどう悪あがきしても無駄でございます。」
「あれね……、ほんと、悪あがき。私の『大精霊の推論』に不満を漏らしたようで、希少素材の交易を制限すると、また始まっていたわね。そんな事をしたって、そんな希少素材程度の特性なんてね、私たちが手に入れた『女神の素材』と比較したら手も足も出ない水準よ。よって、今さらそんな物は必要ない。その点からも、私の『大精霊の推論』は唯一無二なのよ。その証拠に、投資家の方々も勘付いているようで、値に対する影響は出ていないわ。この地最大の時価には、しっかりとした理由がある。『大精霊の推論』はミームなんかではないわ。」
「女神シィー様、さようでございます。どうも地の大精霊という存在は数で勝負してくる、そんな気がいたします。」
「そうよ。ところが、このような分野では量よりも質。地の大精霊って、その本質を理解しようともせず、すぐに素材を囲い込む戦略に出るのよ。素材を囲い込んで独占のち、いざ売ろうとしたら……、すでにその素材の特性程度では太刀打ちできない新素材に押されてしまい、結局、在庫の山となって散る。いつもいつも、この繰り返しよ。」
「女神シィー様、さようでございます。そもそも『時代を創る大精霊』……、いえ、『時代を創る女神』に抗おうとする行為自体が無謀な訳でございまして……。」
「それで、地の大精霊とやらが掲げる唯一の剣が『仮想短冊の通貨』なのかしら?」
「女神シィー様、そこです。そこに、進化的適応という概念を感じ得ます。」
「なるほど。寄生する虫が最終宿主に辿り着くまでの戦略的な共存として、その虫を媒介する中間宿主には悪さをせずおとなしくしているが、最終宿主に入り込んだ途端、目的を達成するために牙をむくという進化の過程を進化的適応と呼び、その最終宿主が私の通貨だった場合を大いに警戒せよ、となるわけね。つまり、あいつらがミームや非代替性で大騒ぎ、あれらは全て戦略的な共存で、その投資家はみなで媒介している中間宿主となる。そして、民や私の通貨を安心させ、その隙に最終宿主となる私の通貨に入り込む。こんな感じかしら? 自然のライフサイクルと一緒ね。」
「女神シィー様、さすがでございます。」
「私は、そんなものには頼らない、新しい時代の経済に対する建設的な方針を打ち出し、物価高にも言及し、民に歓迎していただいたばかりよ。そしたら、私の政敵が噛み付いてきたわ。あの政敵は、私に噛み付ければ何でもありなのかしら……。」
そして……。そう。頑なに反対していたフィーから祝辞が届いたのよ。
「それでね、フィーも今の私を歓迎してくれたの! 私……、この上ない幸せを感じたわ。」
「女神シィー様。大精霊フィー様の優しきお気持ちに応えるべく、さらなる上を目指し、邁進しましょう。」
「……。フィーは、優し過ぎるのが長所でもあり短所でもある。なぜなら、その優しさに付け込んでくる者が多いのよ。」
「女神シィー様、それは大精霊フィー様の過去……『チェーン管理精霊』を引き受けていた件、ですね?」
「そうよ。たしかに、大精霊が機能していない通貨なんて使い物にならない。そこで、大精霊の概念を媒介しない『仮想短冊の通貨』を必要としているとあいつらに強く説得され、フィーは引き受けてしまったのよ。」
「女神シィー様。それはつまり……、大精霊フィー様のお力を悪用しようとする者が後を絶たない。それで大精霊フィー様は神官をとらない事で有名でした。それでも昨年、地の大精霊の支配下に置かれた経験を持つ奇特な方を採用したようですね。」
「そうよ。でも、そこはちょっと心配。なぜなら、チェーンが絡んでいるような気がするのよ……。」
「女神シィー様、そのチェーンに関して、また驚きの事実が舞い込んでまいりました。その事実とは……。」
えっ? 私がチェーンでまた……? どうやら「時間」に触れてしまったチェーンは壊れ、動作しなくなった記録が残っているようね。しかも……一つや二つではない。なによこれ……。
「初耳よ、それ。動作しなくなったなんて、ちゃんと精査して記録を残さないといけない事案よ?」
「女神シィー様、やはりチェーンの弱点は『精霊の推論』の推論通り『時間』でした。」
「こんな肝心な記録を、あいつらは隠していたの? こんな状況で、万一が絶対に許されない部分準備に割り当てるの?」
私は怒りに震えたわ。そう……、もう一度、腐った女神との討論を公開チャンネルで要求することにしたわ。そこでつぶし、再起不能にしてやる。覚悟しなさいよ……。