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142, 「大精霊の推論」は順調よ。ところで、チェーンの仕組みを提唱した者が開発から忽然と姿を消し、その行方がわからなくなったの?

 私はあの公開チャンネルで腐った女神からの追求に応えられず逃げてしまった。それから私には「討論から逃げた」というレッテルが貼られるようになり、苦戦を強いられる原因となったわ。悔しいけど、逃げたのは事実。受け入れるしかなかった。


 それでも、私は創造神様に見放されてなどいなかった。そのような私の弱い部分を補える「大精霊の推論」が稼働し、それは私にとって大いなる力となった。その力は、私の優秀な頼れる精霊が己の全てを賭け、従来の精霊に備わる論理的な仕組みを模倣する構造で「精霊の推論」「大精霊の推論」を組み上げた結果、それは非常に合理的な選択を瞬時に展開することができるという、新しい時代の女神の力として採択されるほどにふさわしい仕上がりとなったわ。その力が相まって、演説や集会は順調そのもの。新たな女神の力「推論」によるサポートが頼もしい。流れが変わり、私への支持が集まり始めているのを肌で感じるわ。


 えっ……創造神様? それなら「女神の推論」の方が名称としてふさわしい。そうね……、そう感じるわよね? 実は、過去にないほどの最大の予算を割り当てる「大精霊の推論」を構築するというあの計画、それが「女神の推論」として再構築されたのよ。まさか、今の段階で「大精霊の推論」を稼働できてしまった事が想定外で、その出力は三割とはいえ、そのすばらしい出来栄えとパフォーマンスに驚嘆する毎日よ。


 そうね……それでも負の面もあった。今まで、このような論理をほぼ独占状態にしてこの世を謳歌していた有名な精霊に悪影響が生じたのよ。「推論」の力にはついていけなくなり、少し傾き始めた……。それくらい、この影響は大きい。


 それは、ちょっと心配では? いいえ、全然、何の心配にも及びませんわ。その有名な精霊って、普段から私に対する忠義がとても厚いため、見限られるなんて絶対にあり得ないのよ。さらに円環の地域一帯などでは、その有名な精霊に忠義を捧げる者が大勢いるのよ。ここだけの話……特別枠みたいのがあって……。よって、そのうち私が何とかすることになるわ、もう……。その際は、その有名な精霊すら見誤ってしまうほど「推論」が強烈だったと前向きに解釈しましょう。


 以上の観点より、量子ビット以上の力を持つとされる「女神の演算」なんてもう古いという解釈はいかがかしら? あのような重要な場面で役立たずだった「女神の演算」なんて、もういらない。私に宿る「大精霊の推論」には情報伝播に「女神の素材」が採用されているとはいえ、論理的な部分は古典ビットで構成されているのよ。そうなると、量子ビットなんて本当に役に立つのかしらね? 私は、そのような疑念を持ったわ。


 とにかく、これからは「推論」の時代よ。そこで、そのためのエネルギーはどう確保したら良いのか、そこも重要よね。そうなると燃料か……。燃料? そうだった。私の政敵は、燃料に対する執着が凄まじいのよ。地の大精霊ラムダすらうらやむこの地最大の燃料埋蔵量を誇る地域一帯に対して、燃料欲しさに荒らし回っている件はどうなっているのかしらね? その現地の方より伺った話では、燃料獲得のために飼い慣らした精霊を現地へと送り込み、その結果、現職の大精霊との大きな衝突が発生。大量の血が流れ、……や……が頻発し、現地は地獄と化した。そんな首謀者が平和なんて言葉を平然と口にするのが……「大過去」から映し出された「現実」よ。


 さらには、私の政敵はラムダと仲が良さそうな雰囲気をなぜか醸し出しているけど、これって本当かしらね? こちらも現地の方から伺った話では、ラムダが可愛がっているある地域一帯に対して同じ事をしたのよ。そちらも似た展開になっていて、大量の血が流れ、……や……が頻発し、現地の方々からもの凄く恨まれているのよ。余計な干渉で家族や友人を……されたってね。そして、私の政敵は……ではない、とまで吐き捨てていたわ。つまり、あのラムダですら、私か政敵かどちらかを選べと問われたら、私を選ぶはずよ。


 そんな強引なやり方で良好な関係なんて築けない。私とフィーの関係を大いに参考にして欲しいわ。それこそが理想的な関係の築き方よ。フィーは本当にかわいくてね……、私が苦しいこのような時期はフィーに支えてもらう代わりに、私はフィーに対して平和、自由、楽観を提供しているのよ。いかがかしら? 平和、自由、楽観は尊いもの。そうよね?


 さーて、思考がまとまった所で、今日もハードなスケジュールをこなしていきましょう。


「女神シィー様、ご機嫌麗しゅうございます。」

「あら、おはよう。順調よね?」

「女神シィー様、順調でございます。良好な指標が矛盾なく組み合わさり、そこに女神シィー様の麗しさが加わる事により、あの暴落分を見事に回復しました。それと同時に、女神シィー様を裏切った精霊の改心も進んでおり、問題ございません。」

「ああ……。すべて揃ったなんて。それで、腐った女神と私の政敵だけが取り残された状況になりそうね?」

「女神シィー様。ご察しの通りでございます。演算用古典ビットの件も伺っております。やはり『仮想短冊の通貨』を司るチェーンには構造的な限界があった、そんな気がしてなりません。」

「そうよ。理想環境でしか完璧に動作しないものを、常に完璧なものと勘違いしてしまった。その制約は『時間』という概念で現れ、『時間と空間の式』を超越しない限り、その物理法則的な制約から、誤差をゼロにすることはできない。まとめると、短冊が離れた複数個所に同時に生じること自体は可能だけど、その同時性を観察して確認することは、『時間と空間の式』に示される時間の遅れのために非常に難しい。よって『時間』を寛容にするしかない。」

「女神シィー様、さようでございます。そこで、気になる逸話がございます。」

「逸話? それは何かしら?」

「女神シィー様。その説とは、このチェーンの仕組みを提唱した者が開発から忽然と姿を消し、その行方がわからなくなったという……。」


 えっ?


「さすがにそれは……、冗談で言っているのよね? もしそれだと……、開発過程でチェーンの構造的な限界に気が付き、本来なら一度は止めてでも再設計すべきだった。ところが、その頃にはすでに比較的良い値で取引されていたので、それだけは嫌だと言い争いに発展し、そこで嫌気がさして忽然と消えた。どうかしら?」


 ……。これはただの憶測。だけど……。案外そんなもの、だったのかもしれない。

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