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141, 演算用古典ビットが集まりましたわ。「大精霊の推論」によって絶好調な女神シィーによる演算をお楽しみください。

 案外早く、演算用古典ビットが集まりましたわ。風向きが変わるとツキも回ってくるのね。運も実力のうち、それは「大過去」によって示されている事実よ。


 さて、私が集めた演算用古典ビットのによる演算目的はただ一つよ。「精霊の推論」によってチェーンに存在すると指摘されている「誤差ベクトル」の検出を目的としているのよ。ここで、推論というのはあくまで「仮説」や「仮の結論」。その推論が正しいかどうかを、実際に「実験」や「演算」で確かめたり、「数の叡智で証明」したりするわよね? そこで、論理的なプロセスが正しいかどうかを確実に知るための手段として、演算用古典ビットを活用するの。これなら、腐った女神も納得でしょう。私は間違ってなどいない。


 それでね……、チェーン上に「誤差ベクトル」が一つも存在しない事が演算結果により示されたのであれば、安全が示されたという解釈で、部分準備への割り当てを承認する方針になるわね。ところが……、チェーン上に「誤差ベクトル」が存在した場合は、部分準備への割り当てなど百年早いという結論に至るのよ。


 私の政敵は、このようなサイエンティフィックな検証などは微塵たりとも絶対にしないでしょう。そうよね? カネになるのなら、結論ありきで何も考えずにさっさと承認し、それで狙われ、奪われ、部分準備を瞬時に失ったことによる大きなショックから、通貨危機が発生し、私の市場が完全に崩壊。そこから内戦などに飛び火して……あの疫病をはるかに超える「取り返しが付かない大惨事」にならない事を深くお祈りいたしますわ。


 結局、「仮想短冊の通貨」は最終宿主として「私の通貨の部分準備に入り込むことが目的」だった。この推論はいかがかしら? なぜなら、その部分準備を奪うだけで、私の市場が完全に崩壊し、仕掛けた側の勝ちとなるからよ。そう……これは「私から覇権を奪うための謀略」だったと考えると……? 「仮想短冊の通貨」を支える価値の出所を参照すると、それすら、この事を暗に示しているわ。


 それで、奪える機構だけは探られたくないという感情に駆られるのね。その証拠に、この機構を知った「倫理観など欠片もない者」に仮想短冊を奪われたとき、調査はすると言っておきながら、すべて放置され有耶無耶になっているわよね? どう見積もっても調査しなくてはならない莫大な額であっても、放置を決め込む。だって、調査する気など初めからないのだから、そうなるのよ。


 ここで「誤差ベクトル」の復習をしておきましょう。偶然的に生じた「誤差ベクトル」を、もし「倫理観など欠片もない者」が見つけ出した場合、その仮想短冊に存在する残高がゼロになるまで奪われる、そんな仕組みだった。それでね、そのような仮想短冊を見つけ出して奪う目的で一日中チェーンに張り付いている者が多いのも事実よ。本当に、うじゃうじゃと沢山いて、その水面にちょっと撒き餌をすれば無数に群がってくるので、もし嘘だと思うのなら、調べて欲しいわ。


 このように、実際に仮想短冊がよく奪われている点と、無数に群がってくるという状況証拠から「誤差ベクトル」の存在は明らか。それでも、方針を定めるにはこのような状況証拠からではなく、動かぬ物的証拠を固める必要がある。そこで、その痕跡を見つけ出し、その仮想短冊のトランザクションを精査すれば、その結果が物的証拠になるという仕組みを「大精霊の推論」が導き出して、潜在的なリスクとして警鐘を鳴らしたのよ。


 でも、その痕跡を見つけ出す演算量が量子ビット以上を要求する「指数時間」だった場合、この地でその演算を完結できる唯一の存在……腐った女神はその協力を全力で拒否するでしょうから物的証拠は得られなかった。もし物的証拠が得られなければ、状況証拠だけでは腐った女神が納得するはずもなく、言葉巧みに私は追い込まれ、部分準備の件を承認する方向に持っていき、その仮想短冊を奪われ……、地獄と化したわ。


 でも……問題はなかった。その演算量は「多項式時間」。つまり、古典ビットでも何とか頑張れる水準だった。量子ビット以上は必要なかった。「女神の演算」という万能感に酔いしれた腐った女神は、ちょっとやり過ぎたわね。それを数の叡智は許さなかった。いよいよ私を追い込める謀略の大詰めというこの瞬間に、その最後の砦が「多項式時間」になっていたなんて、今でも驚きを隠せないわ。でも、腐った女神は心から感謝しなさいよ。あなたを止められる方法が残っていたことに……。


 そして私は、集めた演算用古典ビットを並列に接続し、大いなる息吹を与える。すると、その内部に積み込まれた論理がひしめき合うように演算を開始した。民の審判までには十分に間に合うわ。頑張るのよ。

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