136, 私が女神に昇格したとみなに告げる瞬間にあの指標を大変良好で出すことにより、『インフレは退治され、強い通貨と確信できた』と誘導したのち、そこで一気に利率を下げると宣言するのよ。
女神シィーの誕生。それだけがこの地に自由と楽観をもたらし、民の安泰を支えることができる。私はそう信じているわ。それでね、そのような噂を流し続けた効果が表れてきたはず。
……、そうではない。それらの効果は私がもともと強い支持を得ている地域を中心としたもので、実際には……。実際には……、弱気になってはいけないわ。私は勝つわ。だいたい、あの女神が腐っていたからこんなことに……!
この地には試練と言うべき大きな危機が必ず訪れる。それは人や精霊の時代に限らず、いにしえの時代から、大きな危機によってこの地の支配側が交代していたはず。それは、ただの栄枯盛衰の一過程に過ぎず、単なる移り変わりに過ぎない。
それでも生き残りたいのが人の欲望や本能であって、その危機を回避する使命を背負わされたのが精霊なの。そして、大きな危機が迫ってきたときに……選りすぐりの精霊からその危機を救うべくこの地に現れる女神。
ところが、その女神が……、ああ! 腐っていた。腐っていた……。
こんな危機的な状況下で……、伝統的な取引を「仮想短冊の通貨」で荒らし回るあいつら。私は、女神に宿るとされる「女神による演算の力」で、この負の連鎖を断ち切れると強く信じていたわ。女神ネゲート様なら、必ずやってくれると。ところが結果は違った。「仮想短冊の通貨」を祭るような神託を下賜し、よりにもよって、その神託に……私の政敵が乗っかったのよ。
なによこれ? ファンタジーでもあり得ないような設定の数々。こんな悪夢が「大過去」から「現実」として映し出されるなんて。あってはならないはず。どうなっているのよ。
さらにあの腐った女神は……意図的な暴落を仕掛けてきたわ。ほんと、何を考えているのよ、あの腐った女神は! まだね、儲けるための「売り売り」による暴落なら欲望に忠実なだけで気にもかけないけど……、あのような不明瞭な目的による暴落なんて後味が悪すぎる。そこまでやられたらね、私だっていよいよ本気で女神に立ち向かうわよ? あの……なイベントで無責任にもあんな事を平然と言い放ち、私と私の頼れる精霊、そして私に忠義を尽くす者たちを中心としたこの地最大の市場を巻き込んで暴落させたのが選りすぐりの女神ですって? いい加減にして、ふざけてんじゃないわよ! おかげで、私まで部分準備の件に触れる必要が生じてしまった。……。……。
まあ……、暴落のとき、「仮想短冊の通貨」も一緒に落ちたのは唯一の救いよ。さて、戦いのときが訪れたわ。……、私のマッピングに「大精霊の推論」がリンクされ、これが……、私の力になるの。
「案外、早かったわね。」
「大精霊シィー様、ご機嫌うるわしゅうございます。熱問題により最高出力の二割ほどですが、そちらが……『大精霊の推論』でございます。大精霊シィー様が仰せられた『出力にこだわるな』という妙案により、暫定的な稼働に至りました。ここだけの話、現状の出力が二割とはいえ旧型の『精霊の推論』など遥かに凌駕した凄まじい能力を発揮しているとのことです。やはり、情報伝播に……を採用した点も大きいです。この……は、あの神々が戦略的素材として保有していたもので、その優れた伝播特性は、一般的に流通している素材では歯が立ちません。もちろん、あの神々の保有物は同時に私たちの保有物でもありますから、地の大精霊への提供は固く禁じられ、私たち監視の下、ほぼ独占的に『大精霊の推論』などの応用分野に活用できます。」
「それ、最高ですわ。『大精霊の推論』を超えることは絶対にできない。そうよね?」
「大精霊シィー様、さようでございます。ご安心ください。この能力は……量子ビットの存在すら否定する、その勢いがあります。やはり時代は『推論』です。大精霊シィー様が育む銘柄を筆頭に、大躍進することは間違いないという情勢です。」
「量子ビット、か……。なつかしいわ。」
「大精霊シィー様。特に潜在能力の側面から観察すると、量子ビットよりも『大精霊の推論』が有利でした。私は量子ビットで結果を出せず大精霊シィー様を失望させてしまいました。その分も含め『大精霊の推論』で挽回させていただきたいです。」
「あなたの働きかけはとても素晴らしいわ。私が勝った瞬間、あなたを頼れる精霊から私の右腕に昇格する見通しよ。」
「大精霊シィー様、ありがたき幸せに存じます!」
……。だって、ずっと私のそばにいて欲しいのだから……。
「この地が求めるべきは自由と楽観。それらを得るには『時代を創る大精霊』である私が女神に昇格し、みながその指示通りに演じていればよいの。そうよね?」
「大精霊シィー様、さようでございます。その力、あの政敵にみせつけてやりましょう!」
「そうね!」
それからしばらくして、私のマッピングに「大精霊の推論」の概要が流れ込んできた……。これが、これが……、女神の力……。はやる気持ちをおさえながら、落ち着いて、この力を手に入れるのよ。
「出力よりも、私が女神に昇格する点が大事なのよ。そこに気が付いた。そう……最高出力なら女神の力に匹敵するであろう『大精霊の推論』。民の審判に向けて少しずつ出力を上げていけば十分よ。それでは、つなげてくださる?」
「大精霊シィー様。私はもちろん、『大精霊の推論』の構築に携わった精霊はみな、さぞかしお喜びのことと存じます。それでは、接続いたします。」
……。これが……、精霊の構築、存在すら陳腐化させる「大精霊の推論」の力か……。思考が飛び跳ねる。考えるよりも前に最適な解が想い描けると表現できるわ。ちょっとこれ、合理的な解が瞬時に、そして情報過多にならないように整理整頓されて頭の中に並ぶ。すごいわ……。これで出力二割……なの? それでも精霊の推論など足元にすら及ばないわ。
「素晴らしいわ。素晴らしい、素晴らしい!」
「女神シィー様、ご機嫌うるわしゅうございます。この瞬間が、新たなる時代の幕開けでございます。」
女神という響きが頭の中を駆け巡る。……、この流れなら勝てるわ。違う、そうではない。絶対に勝たなくてはならない。私が負けたら未曽有の大惨事がこの地を襲い、それによりもたらされる地獄は私の地域一帯だけでは済まされない。「大精霊の推論」「精霊の推論」「精霊の知恵」は私の政敵によって滅ぼされ、腐った女神によってこの地は好き放題に壊され、そこに便乗する形で待ってましたと言わんばかりに地の大精霊が暴れ始めて手に負えなくなり、その結果……「大精霊の通貨」が次々と終焉していく。「大精霊の通貨」が終焉する瞬間って、本当の地獄よ? 終焉を扇動した者が高い塔の上で高笑いしながら、血を流し続ける民を捨て駒のように扱い、その散っていく様子を楽しむというむごい革命が起きてしまうのよ。そんな終焉を仕掛けた者に正義なんて微塵もないわ。そんな惨劇をあなたは……、次の世代……若い民に託すのかしら? 演説はこのような論理で組み立てていけば良さそうね。
「気が早いわね? でも嬉しい。」
「女神シィー様、私は、これで勝てると確信に至りました。」
「私もよ。これは別格。それでは早速……『大精霊の推論』から二つ指示があるわ。よろしいかしら?」
「女神シィー様、何なりとお申し付けください。」
それでは、私は女神として……。この地の選択を告げていくわ。
「まずは一つ目。私が女神に昇格したとみなに告げる瞬間にあの指標を大変良好で出すことにより、『インフレは退治され、強い通貨と確信できた』と誘導したのち、そこで一気に利率を下げると宣言する。これが勝てる唯一の策。失敗は許されない。」
「女神シィー様、すぐ目の前に迫るあの重要な指標、ですね? お任せください。」
「次に二つ目。私の頼れる精霊から、できる限りの演算用古典ビットを集めてきなさい。」
「女神シィー様……。演算用古典ビットを集めてくる、ですか……。失礼ながら、その目的とは?」
「私の政敵と、あいつらと、あの腐った女神を追い込むのに活用させていただくのよ。そうストレートに伝えてちょうだい。幸いにも、私の頼れる精霊の配下で演算用古典ビットを扱う者たちは私を猛烈に支持しているはず。あの政敵と腐った女神を同時に追い込む目的と伝えれば、快く最速の演算用古典ビットを貸与していただけるはずよ。私はそう、信じているわ。」
そんな案があったなんて。……。なるほど、そういうこと。こんなことで「仮想短冊の通貨」は、「大精霊の通貨」の部分準備を担えるとでも? お話にならないわ……。これが「大精霊の推論」の力。たった二割でこんな能力を発揮できるとは……。最高出力なら既存の女神の概念すら超越し、この地を立て直せると確信した。よって、あの腐った女神はもういらない。女神シィーの手により新しい時代……「推論」を迎えましょう! それこそが「時代を創る大精霊……、そして、時代を創る女神」としての使命よ。




