132, 私に対する数々の酷い仕打ちに加え、裏切りまで発生したわ……。さらには、私の通貨に対してまずは現状で留まれるように「仮想短冊の通貨」を部分準備に割り当てるのが私に残された唯一の策になると?
女神ネゲート様に、豪快に嵌め込まれた私……、シィーです。
私にとって屈辱となってしまった公開チャンネル。あの日以来、私を「時代を創る大精霊」の地位から引きずり降ろそうとする勢力が身内からも噴出してしまったの……。もはやシィーでは戦えないとか、シィーなんかに寄付など勘弁してくれとか、あんなにも弱い大精霊では「時代を創る大精霊」など務まる訳がないとか……。今もこうして、心無い批判の数々に晒されているの。
それでも批判だけなら耐えられるわ。しかしながら、それだけでは収まらず……、私を裏切る精霊まで現れたのよ。そいつらは、私の政敵や腐った女神に媚びを売り始めたの……。数々の酷い仕打ちの中でも、この裏切りが最も許せないわ!
なぜなら、今まで私の力を頼りに散々儲けておいて、裏切ったのよ。私の力があるからこそ「資本主義」と「買いの容認」が許されるの。私の頼れる精霊は、この私の「買いの容認」で暴利を得てから、さらには円環の市場などで見境なく「売り売り」していたはず。それでも咎められずに売買できていたのは、私の力があってこそ実現できる理。最近、ある市場に突如沸いた右も左もわからないビギナーな民に対して先物から売り浴びせて投げ売りさせ、たっぷりと儲けていたわよね? それすら、力がないとできないのよ。ここで私を裏切った精霊たちには、本当に落胆したわ。
今後もずっと「時代を創る大精霊」の地位は私……シィーが最もふさわしい。私以外なんて、あり得ない。そうよね? 今の絶好調な私には、この地位しか似合わない。私の地域一帯は絶好調、雇用も問題なし、私の通貨は買われ続け、きずなも元気よ! 私が敗北する未来なんてあり得ない、想像もできない。つまり、私が敗北するという観測はあり得ないと結論しているのよ。よって、私は勝つわ。
そもそも、あんな程度の討論で勝ったつもりかしら? 女神ネゲート様は? それで調子に乗ったのかしらね、腐った女神からの「挑戦状」が私宛てに届いたわ。その内容とは、近く開かれる仮想短冊のイベントなんかに私を招待するという狂気の塊だった。……、正気なのかしら? あの腐った女神といい、あいつらといい……。
それでも……、そのイベントで語られる見通しの概要には吐き気すら覚えたわ。その概要とは……。
私の通貨やきずなは、私が親しくしていた地の大精霊すら見放しており、このまま何も手を打たないとその寿命は長く見積もっても「残り数年」となる。そのため、その原因となった「壊れた市場のノルム」を持ち直すには、まずは現状で留まれるように「仮想短冊の通貨」を部分準備に割り当てるのが私に残された唯一の策になる。
……。狂ってる……。あの女神。どこまで腐ったら気が済むの! 腐った女神! ここまでふざけた女神は過去にも未来にもネゲートだけよ! ほんと、この怒りをどこにぶつけたらよろしいのかしら? あの腐った女神は、どこまで腐れば気が済むの? 部分準備に「仮想短冊の通貨」なんかを割り当てたらどうなるのか、おわかりかしら? あのゆるゆるな女神は、己の演算の力で、そのような行為がどんな結末を迎えるのか、演算しなさいよ!
とうとうあの腐った女神は、ゆるすぎてそのような演算はできないのかしらね? 部分準備に「仮想短冊の通貨」をねじ込ませたら、部分準備が膨張する力を失ってしまい、市場はどうなってしまうのか。それは……、私が女神に昇格するために育てているこの地最大の時価を宿す銘柄などから価値が大きく流出し、多方面に散らばるように価値が逆流してしまうわね。ところで、それらは他の銘柄との相関がとても強いゆえに、連鎖で価値流出につながっていき、その崩壊は……、過去の「泡崩壊」なんて比較にすらすらない、それこそ現実感すらわかない「市場の大爆発」に発展するわ……。そんなの、投資家が許すわけないでしょう! ふざけすぎよ! 腐った女神! そうやって、私が女神に昇格するための銘柄を密かに狙うなんて卑劣過ぎる。計算高い腐った女神。ああ、油断したわ……。
そして……。市場の崩壊の代わりに、「仮想短冊の通貨」は軽く……倍以上に暴騰するのでしょう。悪あがきしても絶対に得られないはずだった究極の価値が、部分準備を通じて仮想短冊へ流入するのだから。つまり、私は嵌められた? あの腐った女神に、嵌められた? そんなはずでは……。そんなはずでは!
……、落ち着くのよ、シィー。そもそも、何が「私の通貨は残り数年で……」よ? 私の通貨は永遠よ。ふざけた内容を吹き込んで「仮想短冊の通貨」を押し付けてくるなんて。もう一度言う。私の通貨は永遠よ。そして、私のきずなも永遠よ。
さらにこの腐った女神は、この挑戦状の内容を公開したの。信じられる? 絶対、わざとよ。どこまで私を蹂躙すれば気が済むかしら?
公開された途端、投資家たちの間に動揺が広がり、私の通貨が急激に売られ、あとは私が話した通りの流れが起きそうになったわ。さぞかし楽しかったかしら? 腐った女神といい、あいつらといい、私の政敵といい……いい加減にしなさいよ! それでも、私が「女神に昇格する」と宣言したら動揺が収まり、事なきを得たの。それが私の力。強くて当たり前の概念よ。
そうよそうよ。あのゆるゆるな女神は考えが甘いのよ! 私は「時代を創る大精霊」。そんな簡単に負けるわけがないでしょう。そうよね?
私は諦めてなどいない。私は「大精霊の推論」で女神に昇格し、新たなる風として立ち上がることになり、私の優勢が見込めるのよ。私は風の大精霊。それ位、余裕に立ち回り可能よ。そこで今、その相談をしているの。
「あなたは裏切らない。そうよね? ずっと私のそばにいて欲しいわ……。」
「大精霊シィー様。量子ビットで結果を出せなかった私のような者に、そのようなもったいないお言葉を……。」
「私、もう……。信頼していた頼れる精霊の……や……に裏切られ、ショックで……。もう、私が信じるのはあなたと、私のかわいいフィーのみよ。」
「私は、大精霊シィー様と運命を共にします。大精霊シィー様のためなら、喜んで己の消滅すら受け入れます。」
「……、うれしいわ。あなたは、強い逆風が吹いて私が追い込まれているとき、最初に擁護してくれたわ。……。」
「大精霊シィー様。私は、政ではどのような逆境であっても決して諦めません。たとえ、大精霊シィー様と私だけで取り残されても、私は大精霊シィー様を必ずや最後まで支え続けます。」
……。心にじんと来る。頑張ろうという気持ちが湧き上がってくる。
「それなら、準備はよいわね?」
「さようでございます、大精霊シィー様。我らの知恵と涙の結晶でもある『大精霊の推論』を稼働し、この地に『女神シィー様』を誕生させましょう。それなら、ここからでも余裕に優勢へと導かれます。」
「ありがとう、あなたは本当に頼りになるわ。ただ、『大精霊の推論』を支える心臓部の熱処理問題、この不安材料は解決したのかしら?」
「大精霊シィー様。その問題はまだ解決しておりません。それでも、ご安心ください。そんなのは問題にすらなりません。今、この瞬間に稼働させることが大切です。たとえ熱で壊れようとも、数か月は持つように立ち回るとの事で、民の審判を待つ間は問題なく稼働できる見通しとなっております。そうです、あの時価に似合った働きを私も期待しております。」
「さすがね。それで、私は女神に昇格するわ。」
「大精霊シィー様、ありがたき幸せに存じます。全力を尽くしますので、何のご心配もなさらずにお願いします。さぞかし『大精霊の推論』も、大精霊シィー様の存続のために力尽きるのであれば本望でしょう。また、巧みな根回しにより妖精たちは連日『大精霊シィー様が優勢』と報道しており、うまくいっております。私に、すべてをお任せください。創造神様のご加護は私たちにございます。」
それなら、最も大切な任務の再確認に移るわ。
「わかったわ。ここで、任務の再確認よ。」
「大精霊シィー様。それは、『渦の件』と『光円錐の中をただ駆け巡るだけの人形』の件でございますか?」
「そうよ。これは失敗が許されない大切な任務よ。なぜなら私を裏切った頼れる精霊が、腐った女神や私の政敵に媚びを売るとき、あの政敵に何を差し出すのか。おわかりよね? 絶対に、それらの件に触れないようにしなさい!」
「大精霊シィー様。ご指摘の件は、すでに監視を続けております。特に『光円錐の中をただ駆け巡るだけの人形』には深く注意を払います。あの者は大精霊シィー様の劣勢が伝わった途端、すぐにあの政敵に近寄り、頻繁に連絡を取り合いながら、その距離を縮め始めました。信じ難いですが、それが『大過去』から映し出された『現実』でした。」
「『光円錐の中をただ駆け巡るだけの人形』……。いくら何でも、あれではひどすぎるわよ! どうにかならないのかしら?」
「大精霊シィー様のお怒りはごもっともでございます。それでもご安心ください。勝てばよいのです。勝てば、全てが手に入ります。まだ、そのための時間は十分に残されております。」
「もう……。でも……、でも、第三レイヤー勢力より下はまったく単純に使い捨て。私を裏切った誰もが知るあの有名な精霊すら、この勢力図では第四レイヤー以下の使い捨て。よって、生き残るために仕方なく私を裏切った。そう、前向きに捉えることにしましょう。」
……。そうよ。勝てばいい。私は勝つ……。ただ、それでも……所詮、「時代を創る大精霊」なんてただの傀儡……。部分準備も所詮は負……。この部分準備に対して完全性を満たすように次々と「仮想短冊の通貨」を貼り合わせていく手法なら、私の通貨を救済できるのかしら? フィーは、私にそう伝えてきたわ……。
……、こんなの、私らしくもない。何を考えているのよ! 落ち着くのよ。そう、落ち着くの。……。




