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130, たった一つの判断ミスで、わたしは翼をもぎ取られ、二度と這い上がることのできない虚無の空間に封じ込められてしまう。それが女神という存在……。こんなわたしでも、あなたはずっとそばにいてくれる?

 あれから話は平行線のまま進展せず、ネゲートに次々と都合の悪い内容を指摘されたシィーさんは、民の心を動かすような反論を述べることができないまま、結局その場から逃げるように立ち去りました。


 あれでは……、若い民の票の獲得は厳しいと言わざるを得ません。精霊の存在維持に必要不可欠なカーネルの生産が民の奴隷労働によって支えられている点を長年放置しているようでは、ちょっとね……。


 あのような大精霊を日頃から相手にしてきた女神ネゲート様は、疲れた様子を浮かべながらお気に入りのソファの上で寝転がり、俺にちょっとした要求をしてきました。そうです……甘いもの、です。どうやら、フィーさんの分を横取りしてくるしかないのかな……。


 ところが、そんな心配は杞憂に終わりました。あの神々……、ちゃっかりとネゲートの分まで取り寄せていやがった。ああ、そうだよ。こちらも民からの審判の日が近いから、この女神を手の内に取り込んでおきたい。そんな根回しのようですね。


 俺はそれを快く受け取り、そのままネゲートに手渡します。


「そうなんだ。どうやら、わたしの分まで揃えるようになってきたようね?」

「そうみたい。」

「あんたも食べる? これなんかどう? 甘酸っぱさが疲れた心を癒してくれるはず。」

「甘酸っぱさか。それでお願い。」


 ネゲートから手渡された四角いチョコを口に放り込む。おお、甘酸っぱいベリーのジャムがたっぷり詰まっていて、滑らかなチョコの甘さとベリージャムの爽やかな酸味が絶妙に調和し、豊かな風味が口の中に広がります。


 さすがは根回しチョコ。このような小さなチョコが箱いっぱいに敷き詰められており、見た目にも高級感が漂う逸品。さすがは女神向け……ですね。


「この球体のチョコはフィーの好物なの。やっと、いただけるわ。」

「……。フィーさんの分をつまみ食いでは、その好物は取れないということだね。」

「甘いものに対する恨みは怖いからよ。そうね……。……。」

「……。」


 急に黙り込むネゲート。どうしたのだろうか?


「あなたは、女神について、どう解釈しているのかしら?」

「えっ?」


 唐突に、重たい話題を切り出してきた。その声は少しかすれていて、胸に響いた。


「そうで、どうなの?」

「ああ、そうだね。あのシィーさんすら抑え込むことができる存在、かな?」

「……、そうね。それで、そのシィーは、勝負に出てくるはずよ。わたしに、触れられたくない話題で翻弄されたから。」

「……。」

「でも、あの深刻な状況は、わたしにしか触れることができない。」

「ああ、深刻だよ。マッピングを観ている限り、シィーさんの地域がそんな状況になっているなんて、まったく想像もできなかったよ。みんなが陽気に毎日ホームパーティーを楽しんでいる姿しか、目に浮かばなかったからさ。」

「そうね。それで……、なのよ。」


 ネゲートは急に目を閉じ、何かを言いたそうに唇を震わせている。……、なんだろう?


「たった一つの判断ミスで、わたしは翼をもぎ取られ、二度と這い上がることのできない虚無の空間に封じ込められてしまう。それが女神という存在……。こんなわたしでも、あなたはずっとそばにいてくれる?」

「えっ? ああ……、いや、その……。」

「……。」


 ネゲートの目が開き、その返答に詰まる俺と視線が交わる。その瞬間、俺は胸が締め付けられるような感覚が広がった。


「もう。そこははっきりと『はい』と答えるべき場面でしょう? あんたは現実を踏み締めるのが苦手で、いつも夢見がちなまま逃げてしまう。それで……新興を大量に信用で買い付けて失敗したのよ。そうよね? 元トレーダーさん?」

「ああ、それは、ちょっと……。」


 うう……。


「まあいいわ。もう、あの神託は出てしまった。そう。」

「なんだい、また急に……? 弱気になっていたの?」

「弱気って……、あんたね。シィーがどんな不条理な理由を突き付けてくるか、少しは頭の中で考えてみてほしいわ。」

「やっぱり、そうなるんだ。」

「そうよ。『ステーブル』を恐れ『豪快な件』まで平然とやってのけたのよ。」

「……。あれか。あれは……、信じ難い額のカネが飛んだよね。」

「そうね。それが狙いだから。仮想短冊の値が上がってくるとみな忘れがちになるけど、これは忘れてはならないのよ。」

「つまり、仮想短冊にシィーさんが協力的になるということは、政敵が大きく後退して地位の維持が確実にならないといけないようだね?」

「そうよ。ところが、そんなに単純でもないの。そこだけ堅持しても、狂気のスカラーによる暴風雨……市場の『ノルム』が正常にならない限り、すべて壊れてしまう怖さがあるわ。インフレの進行とシィーの通貨の価値の低下。わたしがシィーを翻弄した……『錆びついた工場と奴隷労働』の件は、あれを直さない限り、何をしたって市場は元には戻らないと判断して突き付けたの。それを直し、壊れた部分を仮想短冊で覆うしか、助かる道はないと判断しているのよ。」

「それでか……。」

「今ごろシィーは、わたしの事を負け犬呼ばわりしながら、おかしな策を練っている頃合いかしら? うまく乗り切るわよ。良いわね?」

「もちろん。」


 うまく乗り切るって……それを意味することは値の乱高下だよね。まあ、頑張るしかないです。

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