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127, チェーンから価値を確率的に奪われる原因。それは、チェーン上の時間が世界線からごく僅かにずれるため、時間を寛容にする必要性からよ。そして、その寛容さが奪う機会を次々と生む、理の限界ってこと。

「たしかに、そのような事実は存在するわ。でも、あんただって仮想短冊を承認したでしょう?」

「あら? そうね。承認したわ。それで、私には立場があるの。若い民からの支持を得るためには何だってするわよ。」

「そう……。それがあなたの本心かしら?」

「そうよ。女神ネゲート様、これで気が済んだのかしら?」


 ……。だろうな。「時代を創る大精霊」を選出する機会が近く、そのようなタイミングでの承認となると、必然的にそうなりますよね。そこで、シィーさんが再び選ばれるのか、それとも架空の「女神……」を指導者として崇める集団がその座を奪うのか……。


 そういえば、「女神……」の語り手が寄付を集い、怪しげな行動を起こし始めていた。やはり集団化しているので、そのような寄付などもにも柔軟に対応できると俺は考えているよ。実際にその寄付は集まっていて、もはや集団化の枠を超え、それは教団に等しい状況です。そして、その教皇が「勇敢なる者」を名乗り「時代を創る大精霊」の座を奪うという流れです。こんなの、女神の担い手として要監視ですよ。


「そうね。」

「では、そろそろ女神様としての責務を果たしてくださるかしら? それだけ吠えられるなら、元気そうで安心したわ。」

「なによ……。」

「女神ネゲート様、これ以上の時間稼ぎはおやめください。」

「……。」


 それから、長い沈黙が続きます。そこでシィーさんがついに火蓋を切り、公開チャンネル内の緊張が一気に高まる。そして、誰もがシィーさんの言葉に耳を傾けた。


「なぜか、短冊が奪われる。気が付いたら、奪われる。それがあまりにも多いため、奪われることが常態化していて、奪われる事への感覚が麻痺してくる。このようにして『仮想短冊の通貨』に触れていると、誰もがこのような感覚に陥るはずよ。そうよね?」

「……。」

「実際、そのような奪われる事態は頻発しているのよ。なぜなら、マッピングでニュースとして流れてくるのは額が非常に大きい一部の場合だけだから。さて、この瞬間にすら、少額なら間違いなくどこかでやられている。断言するわ。ちなみに少額といってもね、地上を走り回る乗り物くらいなら余裕に買える額よ。うん、もはやそのような額ではニュースにすらならないわ。なぜなら、多過ぎちゃって手が回らないからかしら?」


 俺にとっての少額は、昼飯代とかを思い浮かべるのですが、そういう感覚ではなくて? ああ……。


「そのために……。」

「そのために、何かしら? そこで『コールドなウォレット』などは、もうやめにしなさい。そんなのに価値を放り込んだところで、運用次第では倫理観など欠片もない者に簡単に奪われるから。何の意味もないわ。運が悪ければやられるのよ。」

「……。」

「さて。これ以上焦らしても意味がないわね。率直に、その奪われる原因を述べるわ。チェーンから価値を確率的に奪われる原因。それは、チェーン上の時間が世界線からごく僅かにずれるため、時間を寛容にする必要性からよ。そして、その寛容さが奪う機会を次々と生む。つまりそれが理の限界ってこと。そうよね、女神ネゲート様?」


 ……。詳しくはよくわかりませんが、原因があるから奪われる。そこは間違いないです。


「理の限界……。そうではないわ。」

「そうではない? それなら背理的な示し方でいきましょう。その逆の命題……時間を厳格にしてチェーンを世界線にぴったり合わせると、果たしてどうなるのか、それを考えましょう。その状態はね、あいつらの言葉で『孤児』と表現されている状態を一切認めない状況になるのよ。わずかでも『孤児』が出現したら、全部無効にしてやり直すことになるのかしら。それでは、いつまで経ってもチェーンが進まないので使えないわ。そのため、時間を寛容にして、チェーンを世界線からごく僅かにずらすことで生じる多数の『孤児』の中から、最も演算のコストが高い『孤児』を新たなるチェーンとして選べる状態にすると、問題なくチェーンが進むようになる。ところが、抜かりないと思われたこの方法には、一つ『サイドエフェクト』があった。それが、時間に対して寛容になるということ。いかがかしら、女神ネゲート様?」

「そうね……。」

「そしてチェーンの仕組みを維持するには、トランザクションの他、検証に必要となるあれらを絶対に積まなくてはならない。そうよね? それで、この事実と、短冊の仕組みと、『精霊の推論』による署名への考察と、先ほど私が述べた『サイドエフェクト』の影響を一連の事象として考え、それらが組み合わさると、何が起きてしまうのかを、よく考えてみなさい。そうね……、五分以内で思い浮かべることができたのなら、情報処理分野の頼れる精霊としての優れた素質があるわ。ところで、これは公開チャンネルよ。これ以上の詳細は避けるべきで、私から伝えられるのはここまでよ。」


 五分以内ね……。ははは。


「うん……。でも、何とかするわ。」

「あのね、女神ネゲート様。これは理の限界なのよ? つまり、直せないの。よろしいかしら?」

「……。そんなことないわ。」

「女神ネゲート様。この瞬間にも、途方もない莫大な価値が倫理観など欠片もない者にチェーン経由で奪われているかもしれないのよ? いつまでも、そんなゆるい態度で良いの? それではあなたは、理の限界を超えるのかしら? その論理は『非局所性の確率』を超越する悪魔という架空の存在……、すなわち仮想短冊を構成するすべての原子の瞬間的な状態を掌握し、一本のチェーンとして定まった未来を構成する力が必要になるわ。それにはあなたが持つ『非決定性な演算』の力を常時行使する状態となり、この『非決定性な演算』には因果律の問題が絡むので、そんな使い方では絶対に実行できないわよ。」

「……。」

「さて、そのようにして奪われた莫大な価値は、どこに向かうのかしらね? そんなの、考えたくもないわ。まともな使われ方なんてされない。そうよね、女神ネゲート様?」


 そうだね。それらは……、平穏に暮らしたいだけの人や精霊の生活を脅かすかもしれない。

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