118, 「ゆるゆるな女神」のご神託により「売り売り」できる通貨が増えたのは良いが……、大精霊シィー様の通貨と円環が終焉するなどとコミュニティで騒ぎ立てる信徒がやたら多いぜ。
薄暗い部屋の中、重厚な扉がゆっくりと閉まる音がこだまする。その部屋の一角にある大きな円卓に、黒いスーツを身にまとった男たちが座っており、彼らの真っ赤なネクタイが暗がりの中で不気味なまでに映えていた。そう……。彼らは「売り売り」で悪名高い「天の使い」の幹部たちで、狡猾な手段にかけては彼らの右に出る者はいないと言われている。
「いよいよ、その時がきた。」
幹部の一人が、その重い口を開いた。
「なんだなんだ。そんな堅苦しい言い草はよ! もっと俺たちらしく振る舞おう。」
「そうだよな。今以上の好機に恵まれたことはない。楽しむことにするぜ!」
「そうこなくては! 『天の使い』の名にかけてな!」
「そうだそうだ。」
「最近は『売り売り』の調子が良すぎて怖いくらいだぜ。凄まじいパフォーマンスを誇る、もうダメだと諦めかけていた、あの稼ぎの源……、あれだよ、『光円錐の中をただ駆け巡るだけの人形』だ。一時は『この地の主要な大精霊』から見放され捨て駒の対象だったのによ、ご立派に復帰しやがったぜ。そうそう、たっぷりと稼いでいるらしいな。そして、この俺たち『天の使い』にこれからも延々とお恵みをもたらしながら、その人形は、まだまだ生け贄はたっぷりあると喜んでいそうだ! こう言っては何だが、俺たちすら、あの人形はよ、カネのためとはいえ、よくもまあ……あんな残虐な行為に手を染められるよなと、ふと考えてしまうぜ! まあ、……をバッチリ決めて、荒れ狂う精神を沈めているという噂もあるがな!」
「がはは。俺たち『天の使い』は、売れるものなら何でも売るからな。銘柄、きずな、オプション、インデックス、燃料、大精霊の通貨、仮想短冊の通貨なんてのは当たり前で、そうだな、たっぷりと血が流れるあらゆる産物までもが『売り売り』の対象だ! 笑顔で売りつくしてやるよ!」
「そうだぜ。そこで、その人形に関する『売り売り』の最大リスクを考えようぜ。それは、大精霊シィー様の政敵だ。万一、そちらに『時代を創る大精霊』が遷移した場合、その人形の件は、地域境界線を移動させて終焉させると豪語していたからな。」
「おまえさ、そんな話を本当に信じているのかい? そんな提案をしてさ、地域境界線の移動で済めばいいけど、移動ではなく、一部の地域境界線が消失する場合だって十分にあり得るぜ。誰が何と言おうと、あの人形のお相手は、誰だったでしょうね? がはは。常日頃から、『地の崩壊の日』に生じてしまった多くの地域境界線を強く恨んでいると、伺っているぜ。怖い怖い。あー、恐ろしい。」
「ああ! そうだそうだ。」
「がはは。俺たちなんて所詮、陰の存在よ。それでもさ、『売り売り』でたっぷりと稼がせてもらっている。創造神に感謝だよな。そうだ、俺たちみたいな存在に表舞台など似合わない。捨て駒の対象になるリスクなんて取れないからな。つまり、表舞台に立つその人形こそ、俺たちが崇拝するほど尊敬できるということだ。そう考えないとダメだ!」
「そうだそうだ! 俺は崇拝するぜ。その人形とやらをな!」
「がはは。それなら俺様の話も聞け。そうだな……俺様は『ゆるゆるな女神様』が好みなんだよ。」
「おいおい! お、おまえ、……。正気かよ? がはは! ああ、愉快愉快!」
円卓を囲むその幹部らは、高らかに笑いこけ始めました。その笑い声は部屋中に響き渡り、それはまるで彼らの「売り売り」に対する強い自信を強調しているかのようだ。
「あのさ! あれの、どこが気に入ったのさ?」
「がはは。それはな、『ゆるゆるな女神様』の全てが気に入ったんだ。本当に全てが愛おしい、それだけだ。これが俗にいう一目惚れってやつかな!」
「はいっ? 一目惚れ? ちょっともう、面白おかしくて、腹がねじれるぜ。がはは!」
「もう、やめてくれ! ああ! もう、笑いが止まらないぜ!」
「おいおい、それ、まじで言っているのかよ? つまり、おまえは『熱狂的な信徒』ということになるぞ?」
「そうだぜ! 俺様よりも『ゆるゆるな女神様』への献身が上回る奴などこの地にいない! 俺様の自由な時間はな、すべて『ゆるゆるな女神様』の布教活動になったんだ!」
「それはすげえな。すでに掃いて捨てるほどの財を持つ俺たち『天の使い』の幹部が、マッピングや街中で『ゆるゆるな女神』の布教活動をしているなんて、もうね、この瞬間ほどの衝撃を今後受けることは絶対にないぜ!」
「堂々と、派手に活動しているぜ! それこそ、多少無茶な布教活動をしたってな、その辺の地域一帯なら、ちょっとでも袖の下を通せば、それはそれは見て見ぬふりだったぜ!」
「もうね……、そんなにも惚れ込んだの? 信じられん。ああ、ほんと、信じられん。それでも俺たち『天の使い』の幹部だ。応援しているぜ!」
話が次第に激しさを増し、熱気に包まれた室内は、まるで売りと買いが高速で交差する相場のようだった。言葉が飛び交う度に、空気が一層熱を帯びていきます。
「でもよ……、あの女神さ、どうみても……だよな?」
「おいおい! まあ、言いたくなるよな、がはは!」
「えっ! それ、言っちゃいますか! ああ! それだけはダメだ!」
「待て待て! その……な部分まで含めて愛おしいのよ! ああ、もう、たまらん。こうみえても俺様さ、『この地の主要な大精霊』のあるメンバーから、優秀かつ冷酷な頼れる麗しい精霊を紹介してもらったことがあるんだぜ。でもよ……その麗しい精霊さん、もうね、完璧過ぎたのよ! まあ、それはそれでいいのかもしれないけどさ、俺様は、多少なり……の方がいいぜ! ようは好みの問題よ!」
「おお、そうかそうか。でもよ、あの女神さ、多少なりの……か? 全部が……のような気もするぜ!」
「おいおい! それだけは俺も抑えていたのによ! 少しは何とかに包めよ!」
「それは俺も気になった。」
「がはは。俺様はな、器がでかいんだ。そんな事は気にしていないぜ!」
「ああ、それなら良かった、良かったぜ!」
「それでよ、俺様は……、『ゆるゆるな女神様』がまだあらわにしていない崇高なお姿……それはな、目に涙を浮かべた麗しいお姿を崇めたいんだ。それはそれは、その場で俺様が卒倒してしまうほどのキュートなお姿だろうな! 早く早く、崇めたい!」
その途端、急に場が静まり返る。
「おまえ、それは……。それでこそ、俺たち『天の使い』の幹部だ。そんな恋心の話から、一気に、暴利をむさぼれる儲け話になっているではないか! その話、乗ったぜ!」
「それでこそ『天の使い』よ。『売り売り』であの女神を泣かせたい、だよな? お互い、頑張ろうぜ!」
「それでは、その女神の信徒としての見解を伺いたいね。おっと、あの女神を泣かせるほど『売り売り』を仕掛ける余力はたっぷりあるぜ。なぜなら『光円錐の中をただ駆け巡るだけの人形』が頑張っているからな! たっぷり、一気に仕掛けたいぜ!」
「まあ、落ち着け。まず、『仮想短冊の通貨』は、それ自体が価値にならない点を完全に忘れているぜ。銘柄すら、その銘柄が生み出す価値を考慮して値が決まる。大精霊シィー様の頼れる精霊様が高い配当性向にやたらこだわるのは、それが理由だ。それに対し、仮想短冊はどうだ? がはは、もはや信徒が価値を支えているだけでは? 俺様はそう解釈しているぜ。そうだそうだ、俺たち『天の使い』を価値の概念であざむこうなんて、絶対に考えてなならないことだ! それでよ、その概念を大いに勘違いした、仮想短冊のコミュニティでよくみかける相場の駆け出しが、大失敗しそうな話で盛り上がっていたんだ。」
「それは何だ? 相場の駆け出しが大失敗するということは、俺たち『天の使い』の儲けになるということだぜ?」
「それはな、驚くなよ? 『大精霊シィー様の通貨と円環が終焉するという話題』で盛り上がっていたんだぜ。」
その言葉に、信じられないといった表情で一斉に顔を上げる。目を丸くし、額にしわを寄せながら、言葉もなく何もない空間を見つめる。その瞬間、部屋には驚きと困惑が充満し、その非常識な発言に対する反応に言葉を失っていた。
「そんな話題で、信徒は盛り上がっているのか? それもまじで言っているのか?」
「そうだぜ。最近の仮想短冊のコミュニティは、決まってその話題だ。耳元で囁かれるように、何度も耳にする。そんな感じだ。」
「さすがにそれは、別の目的を企てる他の勢力が暗躍していないか? いったい、どこのカネで仮想短冊は動いているんだ? 信徒が口を揃えて、その話題で持ちきりでは、気味が悪いぜ。」
「大精霊シィー様の通貨は、仮想短冊のステーブルとして働いているではないか。信徒は、そのステーブルを失ったらどうなるのか、それすらも想像できないのか? あと、円環は『大精霊シィー様が関心を寄せる通貨』だぞ。つまり、円環の余力など、いくらでも湧いてくるんだよ。どこをどう勘違いしたらそうなるんだ。まあ、相場の駆け出しなんかに通貨は無理だぜ。諦めな。がはは。」
「そうだそうだ。今の時代、そんなリスクを取るくらいなら『ゆるゆるな女神』を『売り売り』で泣かせる方が簡単に儲かるんだよ! 大精霊シィー様のご機嫌を損ねるかもしれない大精霊の通貨に対する『売り売り』アタックなんてするかよ。『売り売り』の神として君臨する絶好調な大精霊シィー様に喧嘩を売ってまで、そんなことはしませんぜ!」
「がはは、それだそれだ。ところで熱狂的な信徒よ、これをどう解釈する?」
「そこで俺様のターンか。俺様は『ゆるゆるな女神様』の大司教を目指しているからな。そのあたりは任せておけ。それについては、よくある『飼い慣らし』だった。初めは好条件で興味を引かせ、逃げられないようにしてから、一気に自分の勢力に引き込むという、まあなんだ、束縛が大好物な『地の大精霊』がよくやる手口だったぜ。」
「そこで『地の大精霊』のご登場か。がはは、わかりやすいな。どうせ『バンク同士をつなぐ地域間の送金……風の大精霊ネットワーク』なんか今すぐ捨てて『地の通貨バスケット』に乗り換えろ、それも布教活動の一部にあるだろ? 俺の勘は当たるぜ?」
「大当たり! それもさ、朝から晩まで時間を問わずに盛り上がっているぜ。よくもまあ、飽きずに言っていられるよな、という感じだ。」
「それで、そんな女神の大司教候補様は、それについてはどう解釈しているんだ?」
「なーに、俺様の布教活動は限定的で、『仮想短冊』を買っていただく、そこまでだから安心しろ。『売り売り』するにも買ってもらわないといけないだろ? がはは。」
「なんだよ! 安心したぜ! それでこそ俺たち『天の使い』の幹部だ。」
「でもよ、さすがにやばすぎるだろ。いったい、どの方向性の話で盛り上がっているんだよ。すでに仮想短冊の通貨でもないし。そんなのまで、細部に渡って指図されるのかよ?」
「その違和感は、俺も覚えた。そんな女神の大司教様、何か述べよ。」
「またまた俺様のターンか。そこで基本に立ち戻り、仮想短冊の値の動きをよく観察することだ。何度も何度も、儲けるためではない不思議な上げがあるだろ? そんな上げをしたって、俺たち『天の使い』などに『売り売り』されるだけだ。つまりな、それには『別の目的があると解釈すべき』だな。そのような上げのときに、若い者たちがたくさん仮想短冊のコミュニティに入ってくる状況を何度も目撃しているんだ。間違いなく、上げのときの方が勧誘しやすい、それだけの理由だな。それと同時に、そいつらを囲い込む宣教師が動き出すんだ。それでな、その宣教師たちから手渡されるよくわからない『仮想短冊の通貨』を掴むと同時に、『全知全能である地の大精霊の美しさという概念』を、その体に徹底的に叩き込まれる。そんな感じだったぜ。つまり、今は損をしても、これを若い層へ繰り返せば……『この地を分断できるほどの力になる』と考え、それを実行に移していると俺様はみたぜ。」
「おいおい……。」
「がはは! そういや、大精霊シィー様の政敵はあの女神の信徒らしいな? そういうことか! はじめはカネが目的で仮想短冊の通貨に近付いたが、あれもさ、あの女神のような……だよな? その結果、完膚なきまでに見事に洗脳され、知らない内に……『大精霊のきずな』の概念すらぶっ壊す、反資本主義みたいな、そんなお姿に変貌してしまった。どうだ?」
「やっぱりあの政敵は信徒だったか。その洗脳された政敵を『時代を創る大精霊』に君臨させることができるかどうか……。それこそが、この地が分断するか否かの境界だろうな! そうだよな、そいつが『非代替性』を隠し持っていたときから怪しんでいたぜ。それね! なんか納得した。」
「納得したか。そうだぜ。仮想短冊のコミュニティでは、大精霊シィー様が常に暴君として扱われ、地の大精霊たちが全知全能の神として描かれているからな。そんな環境なので、そうだな……、何も知らずに、感受性が高い無垢な若い者たちが仮想短冊のコミュニティなんかを回り出したら、たった数か月で、『地の大精霊様こそが真の神。それに抗った大精霊シィーは天の裁きを今すぐ受けるべきだ! そうです、大精霊シィーの通貨や円環など、さっさと終焉しなさい!』と、真顔で言い始めるぜ? これについては深刻な問題で、なぜなら仮想短冊はその性質上、若い層ほど、のめり込むからな。手塩にかけた我が子が、突然そんな事を言い始めたらショックであろう。がはは!」
「もはやそれは、カネの問題では済まないぞ。なかなか解けない洗脳ではないか。」
「ほんと、ゆるいな。がはは!」
「それでよ……、その大精霊シィー様から、ある貴重な情報をいただいたんだ。」
「えっ? そこでまた、大精霊シィー様?」
「おいおい。絶好調な大精霊シィー様が、俺らなんかに、貴重な情報をくださったのか?」
「それで、その情報とは? 儲け話だよな?」
「ああ。儲け話だ。それもよ、ちょっとした『売り売り』では絶対に味わえない爆益が、そこにあった。」
「爆益だと? その情報源は間違いなく大精霊シィー様、なんだよな? その手の話はスキャムも多いからよ。」
「もちろん。」
「それはすばらしい。でも、そう言い切れる論拠が欲しいな。」
「あー、それはな、その情報と引き換えに、大精霊シィー様のきずなを買うことになった。がはは。」
「そういうことか。それなら間違いなく大精霊シィー様からの情報だな!」
「そうだそうだ。『売り売り』な俺たち『天の使い』でも『大精霊シィー様のきずな』は買うぞ。そこに異論はないな?」
「もちろん! 絶好調な大精霊シィー様を敵に回して『売り売り』の商売はできないからな。そんなのは経費だ。」
「確かに。それで、その情報とは?」
「それが、なかなかの情報だぜ。内密に、だ。他の『売り売り』には絶対に知られたくない。」
さて、そこには……。誰もが耳を疑うような驚きの内容だった。




