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114, さらに精霊の推論による洞察は続きます。その内容とは、トランザクションを要約する「シグハッシュオール」が、ある条件を満たした短冊に作用するとき、不思議な事象が生じる点でございます。

 やはりこの方……、この地域一帯の政を束ねる高官だけあって、すべてがお見通しのようですね。俺には反論する機会すら与えられません。それどころか、ネゲートすら反論できない論理で徹底的に攻めてきます。……。


「精霊の推論による洞察……。まだまだありそうな感じよね?」

「さようでございます、女神ネゲート様。」


 得意げな表情を浮かべながら、さらなる洞察を述べ始めました。


「さて、次の問題はチェーンのさらなる深みの箇所でございます。」

「……。つまり、精霊の推論を稼働させないとわからない、非常に条件が複雑な部分ということね?」

「さようでございます、女神ネゲート様。それはどのチェーンのコアにも必ず存在する、チェーンに取り込む各トランザクションを要約する『シグハッシュオール』です。」


 シグハッシュオール? ああ……。


「シグハッシュオール? 何か、ユニークな商品の名を彷彿とさせるね。」

「あんたね……。そんな悠長な事を言っている場合ではないわよ? ちょっとそれは……さすがに冗談よね?」

「この地の頂である女神ネゲート様の御前で冗談を述べることなど、無礼にも程があります。よって、それは一切ございません。」

「では、何かしら?」

「女神ネゲート様。その内容とは、トランザクションを要約する『シグハッシュオール』が、ある条件を満たした短冊に作用するとき、不思議な事象が生じるという点でございます。」

「……。えっと、俺には何が問題なのかすら、さっぱりだ。ははは。」

「……。」

「あの……。ネゲート?」


 ネゲートは俯いたまま口をつむぎ、じっとしている。……。ちょっと励ますか。


「おい。さっきから、おまえらしくないぞ。」

「えっ? そ、そうね……。」

「とりあえず、深呼吸でもして、落ち着こう。」

「あのね。もう……、あまりにも衝撃すぎて、思考が止まったのよ。でも、もう大丈夫よ。」

「女神ネゲート様。そろそろ続けてもよろしいでしょうか?」

「うん、そうして。」


 それにしても、「仮想短冊の通貨」のコアと呼ばれる部分はどうなっているのでしょうか……。


「それでは女神ネゲート様、続けさせていただきます。まず、署名の構造についてのご確認です。この地で最大の価値を持つメインストリームのチェーンの署名は、『非局所性な確率』により生じる無作為な数から生じる性質があります。」

「おいネゲート、この方はいったい何を説明しようとしている? それすらわからない。」

「あのね……、ここでの署名とは、『秘密の鍵』と『公開の鍵』の性質を巧みに利用し、未使用な短冊に宿る価値を、その短冊の『秘密の鍵』を持った者にしか、その価値を取り出せないようにする仕組みを提供するのよ。その際、『非局所性の確率』による数が絡むから、同じ『秘密の鍵』からの署名であっても、その署名自体は『非決定的』で、つまり毎回、その中身が変わるという性質があるのよ。」

「なるほど。つまり、自分にしか解けないようにしている、そうだな?」

「な、なによ?」

「あ、あの……。」

「そう。では、続きをお願いするわ。もう、こいつへの説明は終わり!」

「そうなるよね、そうだよね。」

「そ、それでは……、女神ネゲート様、そして女神の担い手様。続きでございます。そこで、チェーンの仕組みを思い浮かべてみてください。トランザクションがチェーンに承認され、そのチェーンに取り込まれると、署名や、その署名を検証するための『公開の鍵』がチェーンに取り込まれると同時に、恒久的に書き換えができなくなり、それらは『分散型』の性質により拡散され、その拡散先でも同じ検証を行えるようにしたというのが、彼らが主張する安全への仕組みでございます。」

「えっと。鍵をチェーンが取り込んで、その先でも検証できるという事は、すなわち、その鍵を公開してしまう事になるよね?」

「あんたね……。それでそのような性質を帯びる鍵を『公開の鍵』っていうのよ! もう……。まず、トランザクションに署名できるのは『秘密の鍵』のみ。それでね、『秘密の鍵』から『公開の鍵』の生成については一方通行、すなわち『不可逆性』があるの。そして、署名の検証は『公開の鍵』で行うのよ。よって、その『公開の鍵』による検証結果が真なら、その署名はその『公開の鍵』が作られた『秘密の鍵』により署名されたことが確実に示されるのよ。つまり、そのトランザクションを生成した者は、その『秘密の鍵』を持つ者で作られたことを確実に示すことにつながるの。以上、このような仕組みにより、未使用な自分の短冊を見知らぬ者たちに奪われたりせずに、トランザクションを安全に『採掘待ちの場』に放出することができる……、そのような『数の叡智』の仕組みによって『仮想短冊の通貨』のコアは支えられているのよ。」

「なるほど。少しだけ掴めたかも。ははは。」

「もう……。フィーはいったい何をしていたのよ。こうなったら、フィーの頼れる精霊に、こいつを再度鍛え直してもらうしかないわ。」

「えっ? フィーさんにも頼れる精霊が……、いるの?」

「この地域一帯の君主であり大精霊でもあるフィーに、頼れる精霊がいないと思うの?」

「そうだよね、いるよね。それで……、その、俺を鍛え直すとは……。」

「どうやら、フィーの頼れる精霊は『ある分野』を専門としている集まりよ。ふふふ。頑張ってね。」


 ある分野って……。もうやだ。


「……。そうだよね、そうなるよね。あ、あの、続きをお願いします!」

「ちょっとねえ?」

「続きでございますか、女神の担い手様。そうですね、我ら地域一帯の君主であられるフィー様の頼れる精霊様は、それこそ『数の叡智』を専門とする神官の方々からも大いに崇められる高貴な存在でございます。それゆえに……、女神ネゲート様のご提案は、大変すばらしき内容かと存じます。」

「あ、あの、その続きではなく、鍵の方です! 鍵を詳しく知りたいです!」

「なに必死になっているのよ? もう。」

「さようでございますか。それなら、女神ネゲート様、そして女神の担い手様。ここからが重要でございます。」


 フィーさんの頼れる精霊の件はいったん忘れることにします……。


「そうね……、お願いするわ。」

「それでは……、女神ネゲート様。『仮想短冊の通貨』の価値を相手方へ送るとなったとき、そのトランザクションの要約を得るため、基本的に『シグハッシュオール』と呼ばれる手法でハッシュを取ることはご存知だと心得ております。そして、そのハッシュと『秘密の鍵』を利用して署名することにより、それが、そのトランザクションの要約に対する動かぬ証拠になるという流れに対して、異論はないと存じます。」

「そうね。問題ないわ。」

「さようでございますか、女神ネゲート様。さて、ここからが本題でございます。」


 ……。何だろう。ネゲートも顔を少し傾けて警戒しているようだった。

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