110, 次の若い世代は利率の膨らんだ真っ赤な「きずな」を押し付けられた上に、膨大な含み損までも背負わされるの? 悪い方向には頭が良く回る、まさしく言い伝え通りね。
山積みとなったこの地の問題に順次対処していく女神ネゲートです。
あの神々の問題に加え、シィーの問題が新たに積まれました。シィーが「ちょっと来なさい」と。こんな真っ昼間な中途半端な時間に……いったい、女神に何の用かしら?
あーあ。やっぱり「あの件」よね? 女神であるわたしをまくし立てるかのように呼び付けるなんて。この地の立場からみて、わたしに面と向かって言いたいことがあるのならシィーの方から率先してわたしのところへと赴くべきよね。
結局「女神」なんて都合よく何かの便利な駒として動いてもらうための肩書きに過ぎないのかもしれない。わたしって、いつもこんな感じで振り回されているから。……、ううん、こんなのわたしじゃない……。ちょっと疲れているのかな。
でも、シィーが「売り売り」失敗で生み出した厄災のお片付けまでさせられる。これが女神の実態。それでもね、「女神の通貨……仮想短冊の通貨」をこの地に残してあげられただけ幸いかしら。最近はそう考えられるようになって、気持ちが和らいでいるのよ。
さて……。こんな思考を巡らせている間に、ご希望通りに女神がご到着よ。やはり歓迎されるべき者ではなく、無機質に淡々と案内されていくわたし。一応、上の立場である女神の方から赴いたのだから最小限のおもてなし位はないの? 別に、それを求めている訳ではないけど、ちょっと、いくら何でもあんまりよ。なぜなら、「シィーの頼れる精霊」を売り込むとき……尊敬を賜りながらシィーに招待された各地の精霊相手には満面の笑みだったのに。どうしてシィーは相手の顔色や己の立場で大きく態度を変えるのよ。社交辞令くらいわきまえなさいよ。それこそが「時代を創る大精霊」としての矜持でしょう。まったくもって傲慢、それとも己への忠義が薄い者に対しては、いい加減な対応であっても問題はないという非情な大精霊であったのかしら。
ああ……。わたしはその無機質な仲介によって豪華絢爛な扉の前に案内されてしまった。その仲介が軽くお辞儀をしながらその扉を開くとそこには……、天井は高く、目を引く壮大なシャンデリアが部屋全体を煌びやかに照らしている。壁には歴代の「時代を創る大精霊」が抽象的に描かれた絵画が飾られ、部屋の中央には磨き上げられた長い交渉テーブルが置かれていた。
そのテーブルの一方の端には、わたしを呼び付けた交渉相手……シィーが苛立った様子で座っている。わたしはゆっくりと歩みを進め、テーブルの反対側に到達し、ゆっくりと席に着く。
「ようこそ、女神ネゲート様。わざわざご足労いただき、ありがたき幸せでございますわ。」
「ちょっとよろしいかしら、シィー?」
「はい、何でございましょうか?」
ただ照り返すテーブルに思わず眉をひそめる。シィーって、……。少しは気持ち程度でいいから何か出しなさいよ、もう……。フォーマルな雰囲気作りとして、手を付けなかったとしても少しは料理くらい出すはず。目の前に広がるただ何もない殺風景なテーブル。わたしは本当に歓迎されていないのね。
「どんなに気が進まない交渉相手であっても、シィーの地域一帯の名物でもある『丸形のパン……バンズに具材を挟んだ』お料理くらいは出すわよね?」
「あら、女神ネゲート様。お腹がすいていらしたのですね。失礼いたしましたわ。それでは、甘いひとときとしましょう。ベリーのジェラートでも、いかがかしら?」
何なのよもう……。シィーは苛立った様子から一転して笑みを浮かべている……。してやったり、そんな気持ちなのかな。それからしばらくして、その料理……ジェラートが運ばれてきたわ。わたしの目の前でクローシュが取り除かれ、その銀の盆の上には……、芳醇な香りを放つ真っ赤なベリーが練り込まれたジェラートが、その滑らかで光沢のある表面から真っ赤な輝きを放っていた。
それはまるで「赤い宝石」ね。そういえば赤い宝石って……。そうね、洗い放題のカネで買い付けた『真っ赤に輝く高価な宝石』の話が記憶に新しい。シィーってほんとに詰めが甘い。無意識に、このような料理を提供してしまう。認めたに等しいわね。
ただなぜ、すぐに手を付けないと溶けてしまうジェラートなのよ? もう……。そこで手を付けずに様子を伺っていると……、シィーは……、こっちをじっとみてくる。なによ?
「さあ、早くお召し上がりください、女神ネゲート様。溶けてしまいますわよ? もしや、このようなジェラートはお嫌いかしら? それとも……、何か入っているとお疑いでも?」
「もう。そこまで疑うわけがないでしょう。それなら、美味しくいただきますわ。」
「それなら安心。では召し上がれ、女神ネゲート様。」
「……。そうね。」
それでは頂くとしましょうか。わたしは、銀の盆に輝くジェラートのスプーンを手に取り、その滑らかな表面を割ると、そこから立ち昇るはベリーの芳醇な香りの波。それは甘く、心地よい果実の香りが「予定調和」のように刻まれていくなんて。このスプーンを口に運ぶ瞬間には、ベリーの酸味が絶妙に調和し、繊細かつ甘い香りが極上のひとときを誘ってくる。この荒れ果てた時代に、このようなものが手に入るなんて驚きを隠せないわ……。あの神々でもさすがに、この域の「甘いもの」は集めてこれないわね。
「『甘いもの』を口に運ぶその可愛らしい様子、私のかわいいフィーをみているようで落ち着くの。」
「それで?」
「この瞬間だけ、私から女神の概念が離れ、落ち着いていられるの。今、私は幸せの絶頂よ。うーん、本当に幸せ。今のあなたをみているだけで、幸福感の波が押し寄せてくるの。」
……。そう。真っ当に交渉する気はないようね。それなら、わたしもその方向で立ち回るだけよ。
「そんなに気に入らないのなら、はっきりと言ったらどうなの? それとも、面と向かっては何も言えないのかしら? 『時代を創る大精霊』の立場で何か言いなさいよ。」
「あら? 女神ネゲート様。私は今、窮地に立たされているのよ。」
「何よそれ?」
「今はどこの民も苦しいのよ。私の民だって例外ではない。私の民は楽をしていて、他の地域一帯にすべての『負』を押し付けている。そんな噂を流す者がいるようだけど、それは違うの。『利率を上げる』、そんなに簡単に実現できる事ではなくその影響は甚大。住み家や乗り物への支払いに日々追われる私の民がさらなる窮地へと陥り、ペナルティを支払ってでも将来の積み立てから切り崩して補填しざるを得ない状況になっているのよ。さらに、そこに降りかかるインフレと物価高。十四日に一度、民が精霊に納めるお願いだって、その増額をお願いしている真っ最中なの。そんな状況なのに……、フィーが君主として舞い戻り強気に転じたのかしら。よりにもよって、円環の価値を決める利率に触れようとしたのよ! 円環の価値が変われば、それとエンタングルする私の通貨と『きずな』に甚大な影響を及ぼすのは明らかよね? それを知りながら……チャレンジしようとした訳? ふざけ過ぎよ。この問題点については、たっぷりと妖精に朝から晩まで暴れていただいたの。その利率に触れることは私の通貨と『きずな』に対する侮辱行為だ、ってね。効果てき面だったようで、そのチャレンジは失敗に終わり、何よりだったわ。」
「たしかに、シィーの地域一帯のマッピングでは一時期、その内容が垂れ流しだったわね。」
「そうよ。円環はね、私の言っている通りにやっていればいいの。その逸脱なんて絶対に許さないから。ここで今一度、覚えておきなさい、女神。」
「それが、自由と楽観を標榜とする大精霊の真のお姿という解釈でよろしいかしら? もはやそれは……人や精霊の姿をしていない。そうね……、十一次元を映し出せる鏡があれば、その醜い姿を現実に映し出せるかもしれないわね? それで、とある地域一帯ではその高貴なお姿を『飢えた獣』と表現していたの。何か言いなさい、シィー?」
シィーは表情一つ変えず、真っ直ぐわたしをみつめ、目で何かを語りかけてきているようだった。
「とある地域一帯が、私のことをそう呼ばわり? 何よ……、この女神。まあいいわ。今ごろ……あの神々は、私に噛み付いた事をしきりに後悔しているはず。いい気味だわ。」
「そうね。シィーの飼い犬が暴れ始めたからね。それで?」
「……。まだ余裕なの?」
「問題ないわ。あの程度、フィーが何とかするでしょうし、マッピングで様子を伺ったら特に慌てている様子もなく普段通りだったわよ。全然余裕、残念ね?」
「……。そうだ。女神ネゲート様は『カネの問題』にお詳しいようね? ははは。女神にそんな黒い面があるなんて、この地で頑張る民が知ったら、絶望では済まない。そうよね?」
「それで?」
「綺麗過ぎる女神様には手を焼いたけど、黒い面をお持ちの女神様にも困りものですわ。」
綺麗過ぎる女神? それって……。
「ここで、コンジュゲートかしら?」
「そうよ。綺麗過ぎる女神といえばコンジュゲートよ。」
「そうね。綺麗過ぎたゆえに黒い問題に対処できず消滅したのよ。それでも優しい……姉だったわ。その最期の雄姿は今でも鮮明に憶えていて、……。そのときの姉の最後の願いが『誰も恨んではならない。ネゲートならわかってくれるはず。』だったのよ。その姉の願いだけは守り通すから、わたしは誰も恨まないわ。ただし、わたしの姉を消滅させた『量子ビットの炸裂』だけは、女神として絶対に阻止するわ。そこだけは絶対に譲れないからね、シィー。」
そう……。コンジュゲートはわたしの姉よ。少しばかり周りから浮いた感じの優しい大精霊で、それから女神になった。黒い面とは無縁な清らかな女神。それゆえに、そこを突かれてしまい……「量子ビットの炸裂」の起動用エネルギーを阻止する過程で消滅したの。わたしの姉は消滅したが、その阻止……融合過程を止めることはできた。そのおかげで、まだこうしてこの地があるのよね。
わたしが「カネの問題」に興味を抱いたのは、コンジュゲートが消滅に至った本当の理由を知りたい。ただ、それだけだった。でも、シィーのような相手は、ここぞというときに、そのような黒い面を突いてくる。そして今回の対処で、その興味によって得た知見はとても役に立つわね。でもまあ……あの「カネの問題」は、なんだろう……、そうね……、異次元というべきか……。あれ? わたしは誰と話しているのだろうか。これについてあれこれ考えるのは、もうやめにしましょう。
「ちょっと……。今は女神とはいえ『この地の主要な大精霊』であった元大精霊のネゲートが、その団結の証である『量子ビットの炸裂』を否定する気?」
「ねえ、シィー? いつからそんな物騒なものが団結の証になったのよ?」
「黙りなさい。そうそう、あの神々ったら『量子ビットの炸裂』までも否定し始めたのよ。まさか反対するなんて。絶対に賛同してくれると解釈していたのに、裏切られたのよ!」
「それ、正気で言っているのかしら?」
「私は正気よ。つまり、ひどいのは女神とあの神々よ。『量子ビットの炸裂』の概念で私の『きずな』の利率も下がってきて、みーんな助かるのよ。それを否定するなんて、どういうことかしら!」
「ねえ? わたしそろそろ……、本気で怒るよ? それのどこに助かる概念があるのかしら?」
「何なの、この女神! 私の『きずな』の利率が下がれば、また売れる。それにより円環も助かるわ。その道筋を否定したのが、あの愚かなあの神々よ。ほんと、愚か。今度こそは二度と這い上がれないようにしてやろうかしらね。だいたい、あの神々は要領が良すぎなのよ。知らない間に……あのラムダから燃料や肥料をちゃっかりと獲得し、本来ならば私の所に来るはずの交易品まで手にしているのよ。それでも、その地域一帯も物価高で苦しいようね? だからこそ、円環を助け、その流入経路に価値が宿りさえすれば、その物価高は落ち着きを取り戻すわ。そうよね、女神ネゲート様?」
「だったら何よ、シィー?」
「そんなに怒らないで、女神ネゲート様。あれからあの神々は十分に反省したようで、それからは素直に私の言う通りに対処するようになったから……そうね、今回は尻尾切り程度で許してあげる。だから、そんなに怒らないでね。」
「……。哀れね。飢えた獣、か。」
「何とでも言うがいいわ! だいたいね、こんな事態に陥った原因を生み出したのは誰のお陰よ? そうよ……、女神ネゲートがあんな腐った神託を啓示したからに他ならないわ!」
ふーん、やっぱりそうくるのね。想定内よ、シィー。
「それで?」
「この地の女神を名乗る者が、狂った神託を啓示したおかげで、私が最初に狂いそうなの。」
「そう。わたしはこの地の平和を願い、わたしの強い意志であの神託……『女神の通貨』を啓示したのよ。」
「仮想短冊の通貨」に対し、反発の姿勢を中々崩さなかったシィーの頼れる精霊の一部すら、受け入れ始めているこのご時世に……。シィーは、何も変わっていないのね。
「そういえば、可愛らしい大きな耳と尻尾はどうしたのかしら? 女神ネゲート様?」
あら、そっち? シィーって案外、このような場は苦手のようね。案外、あっさり突破できそうだわ。
「あら? 『仮想短冊の通貨』にやたらとお詳しいようで? だって、詳しくないと『ネゲ犬』なんて知らないはずよ?」
「何よ……、それくらいの情報収集はしているわよ。」
「それなら、『豪快な件』の問題点には気が付いたかしらね? あんなので断罪するの?」
「……。女神として、『豪快な件』で問題となった首謀者を放免にしろとか、そんなことまで言い出すわけ?」
「そうよ。」
「あんなのは大罪よ? ずっと閉じ込めておくことになるかしらね?」
「あら? どのみち断罪したって無駄よ。あの神託が啓示された地点で、『女神のステーブル』『女神の非中央分散型自律』や『女神のチェーン抽象化』などの概念が、非常に高い確率振幅で現実に映し出される事が決定したのよ? それが非決定性の演算による神託というもので、宇宙の原理として確率振幅に作用する事については、シィーだって大精霊なんだから理解しているはず。つまり『豪快な件』はそれらが嫌で受け入れたくないから引き起こされた事象だと、女神として解釈しているのよ。あら、見事に因果が入れ替わっているわね。このように因果に影響するほどの強いエンタングルで、相関性が強い演算だからこそ……、慎重に演算して神託を啓示しているのよ。」
「……。」
「あの『豪快な件』は、次の若い世代の想いまで砕いたのよ? その世代は、利率が膨らんだ真っ赤な『きずな』を押し付けられた上に、崩れ行くシィーの相場に投資を促され、それにより生じる膨大な含み損までも背負わされる。どこの民だってね、こんな程度のお芝居など、とっくのとうに見抜き、勘付いているわよ? お先真っ暗よね? シィー? 何か答えなさい!」
「……。今は不調なだけ。間違いなくこの瞬間が『夢への入り口』になるわ。」
「何よそれ? 笑うところかしら? 『さらなる地獄への入り口』に聞こえるようだけど?」
「……。」
「それでも『仮想短冊の通貨』を拒否するのかしら? このままだと、全部ダメになるわよ?」
「全部ダメになるって……、あいつらと同じ事を言うの? それが女神?」
「あいつらと同じ? あのね、それが正しいから、単に一致しただけでしょう。」
「……。」
強張ったシィーの表情が一瞬緩む。どうやらシィーにも迷いがあるようで安心したわ。
「それで、何かしら? いよいよ『あの件』に対する結論……『時代を創る大精霊』の立場で『仮想短冊の通貨』を受け入れる、そうよね?」
「ねえ? そこでそれなの? 交渉する気はあるのかしら?」
「わたしはあるわよ。さて、シィーはどうなのよ?」
「さあ、どうかしら。それ、私が決める事ではないから。自由と楽観を標榜とする『時代を創る大精霊』として、その自由を行使……つまり、投票で決めることになるわ。これでご満足いただけたかしら? 女神ネゲート様?」
投票? 確かに、そんな話もあったわね。
「それで、最終的にはシィーの一存で決まる。そうよね?」
「ちょっとね、今、私は投票で決まると明言したのよ?」
「あら? その割には『光円錐の中をただ駆け巡るだけの人形』の件については、一向に収まる気配がないわよ? シィーの民すら、その半数以上が反対しているのにも関わらず、どうしてかしら? 答えなさい。」
「なんなのよ……。この場で『ラムダの件』まで持ち出す気なの? 女神ネゲート様、一度に多くの問題を解決なんてできませんわ。それくらい、私の気持ちを汲むべきよ。」
「ふーん。」
「何?」
「わたしは『光円錐の中をただ駆け巡るだけの人形』としか伝えていないのに、即座に『ラムダの件』と反応するなんて。この件とラムダとの結び付きを強く理解しているということね?」
焦った者に対してのこのような誘導はわたしの本意ではないわ。でも、ちょっとはね、仕掛けてやったわ。焦る気持ちが抑えられないと、このようなミスを起こしがちなのは人も精霊も一緒ね。
「なによ……。そんなの、ちょっと考えれば……。」
「ふざけないでよね。常に密接にその情報らがリストとして強力に連結しているから、即座に反応してしまう。常日頃から考えている情報ってね、それが引き出される確率振幅が上がってくるのよ。それによりある言葉がキーとなって、高確率に反応してしまう。そして、その宇宙の仕組みには誰も逆らえない。そうよね?」
「この女神……。」
「やっと、その気になったかしら?」
うんうん、そうこないとね。どうせやるなら、思い切りぶつかってやるわ。
「ネゲートは親友だと思っていたわ。でも、今日でそれは終わり。今のあなたは、わたしの政敵と一緒だわ!」
「あら、それは残念だわ。でも、わたしが大精霊だった頃、『この地の主要な大精霊』の一員として誘っていただいた恩は返すべきよね。」
「そうね。だったら、そうしてちょうだい。」
「では、こうしましょう。『光円錐の中をただ駆け巡るだけの人形』の件を終わらせるには、シィーの市場の『ノルム』を修復する必要がある。そうよね?」
「ノルム」が壊れたシィーの市場。「時代を創る大精霊」の強権によってなされた「売り売り」により、すでに計量は壊れ、本来なら重要な経済指標すら「あんな内容では『きずな』の利率をコントロールするための『マジックショー』になっていないか」と精霊たちの間でも囁かれ始めているのよ。こんな状況、今は何とか持ちこたえてはいるけど、長くは持たないわよ。さらには、それを陰で支えていると噂されている円環も、すでに限界を迎えている。どこの「巨人」から倒れるのか……この地の建築家にすら、それはわからない。
「……。」
「急に黙り込むなんて?」
「ねえ、ネゲート? 一つ、忠告をよろしいかしら?」
「別に、構わないわよ。」
「わたしの政敵がね、今、大変な事態に巻き込まれているのよ。」
そのこと? それが忠告? そういうこと。
「そうだったわね。そちらはシィーの飼い犬と妖精が手を組んで大暴れってところかしら? 手当たり次第に拡大解釈の手法で書き立てられ、悪者に仕立て上げられる。いつの時代も手っ取り早くこれよね。悪い方向には頭が良く回る。あら、言い伝えとおりね?」
「この女神は……。次から次へと……。」
「だったら何かしら? そろそろ『光円錐の中をただ駆け巡るだけの人形』が用済みになりそうだから、その代わりとして『シィーの通貨を崇める狂信的な人形』を新たに準備したようだけど、これは何かしら? 呆れ果てた精霊も多いと伺っているわよ。」
「ねえ……。」
「何よ? 事実を淡々と並べているだけなんだけど?」
「……。一つ……いい?」
「うん、どうぞ。」
そろそろ、話がまとまりそうだわ。ラムダと比較するのも何だけど……シィーは楽々だったわ。シィーをなだめるには「地のチェーン」を受け入れるのが最良と判断したわたしの判断は正しかったようね。身も心も、やっぱり限界に達していた。あんな、目を疑う「経済指標のマジックショー」みたいなやり方では「もって二回」だから。三回目からは信用が急減して大変な事になるの! その前に話がまとまるなら、この地の女神としてベターな方向に持っていけたかしら。
あとは「豪快な件」を完全に回復させて、それで狼煙を上げることにしましょう。さて、「仮想短冊の通貨」が「時代を創る大精霊」のシィーに承認されると……まずはシィーの市場の「ノルム」を回復させる大仕事が待っているわ。リスクを過小評価されたデリバティブや局所性の確率と化した壊れた銘柄に対する時価の補填などに入り込むことになるわ。そのあたりが危ないから。それで、そのような所に価値を投入して回復させている、つまり非局所性の確率に戻している間は、どうしても「仮想短冊の通貨」は軟調になる見通しだけど、そんなに時間はかからないでしょうし、もともと「仮想短冊の通貨」を握っているトレーダーは、それ位では何の心配もなく大きくは売らないでしょうから全く心配ないわね。それだけ、シィーの承認は大きな材料よ。そうね、少し売るとしてもそれは……「ミーム」で遊ぶ分かしら? ボックス相場が続くのなら、その間はそうなるわよ! チャンスは目前、見逃してはいけないわ。
もちろん、シィーの市場の「ノルム」が回復基調なら計量も正常に戻ってくるので……銘柄だって現物なら問題ないわよ。ただし、引き締めに注意しながら高値掴みしないこと、それが大事になるわね。ちなみに現物以外はいつの時代もハードな展開で自信がないのなら絶対に手を出してはならない。市場で暴れ回るシィーの頼れる精霊を甘くみてはいけないわ。結局、銘柄が「夢への入り口」になるのか、それとも「地獄への入り口」になるのかは、シィーの市場の「ノルム」次第ってことね!
「あなたは……、この地の女神、よね?」
「そうよ。」
「それなら……。その……。」
「なによ?」
「あなたの「この地」の概念に……私は入っているの……?」
そうこないとね。いつの時代も、女神は頼られる存在でありたいから。
「わたしは『この地の女神』だからね。当然、入っているわよ。」
「……。」
「どうしたの?」
「ううん。もう見放されたのかと勘違いしてた。」
「少しは女神を信じなさい。『量子ビットの炸裂』なんかよりも、はるかに安全で頼りになるわよ?」
「もう……。」
「シィーの頼れる精霊は、こんな状況であっても『仮想短冊の通貨』を『大量に保有している』という報告が上がっているのよ。これがあるからシィーの頼れる精霊は油断ならないって言われるのよね。ほんと。」
「えっ?」
「……。知らないの?」
「うん。」
「ちょっとね……、シィー? わたしの『ネゲ犬』なんかを調べている暇があったのなら、そっちを調べなさいよ。」
「……。ふふ、そうね。」
知らなかったなんて……。それではその分、さっさと承認していただきましょう。
「私は助かるの?」
「わたしとフィーを信じなさい。特にフィーはいつもシィーに助けられているから、今回こそはって張り切っているのよ。そうね……すでに破損した勾配の位置まで特定してそうよ、何といってもフィーだからね。そのような決定性な演算ではフィーに勝てる気がしないから。そういう存在よ。」
「うん、信じる。信じるしかないわ。」
それから無事に話がまとまり、続々と出てくる「甘いもの」をじっくり堪能してから帰還することになったのよ。そうだ、フィーには「甘いもの」についてだけは秘密にしておきましょう。それだけ未知なる美味で……、ばれたら大変。




