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105, 女神ネゲートに一体何ができる? そうよ、みていなさい。私の「きずな」という巨大な歯車に抗った者は、どんな最期を迎えたかしらね? 女神コンジュゲートの二の舞にしてさし上げますわ。

 いったい、なにかしら、あのイベントは……。


 虚構に満ちた神託と、私に対する大きな挑発を含むその解釈。それで、いったい何が……「この地の基軸通貨」になるのかしら? 「時代を創る大精霊」に匹敵する最上級の大精霊が流動性を細かく監視する信用によって生じる「この地の基軸通貨」に、「仮想短冊の通貨」ごときがその地位を築けると、本気で考えているのかしら? あの腐った女神は?


「シィー様。あってはならぬ事が起きてしまった。」

「そうね。」

「私が不甲斐ないばかりに、このような事態に……無念極まりないです。『仮想短冊の通貨』があれほどまでに力を付けていたとは。私の失態で奴らを『量子ビット』で追い込むことが叶わなくなりましたが、されど、もう一度、この私に挽回の機会をお与えください! 私も、このような事態を目の当たりにして、心中穏やかではいられぬ!」


 挽回の機会か。そうね、それなら……各地に散らばる大精霊を扇動し、私の「きずな」に価値が流入する経路を開拓していただこうかしら。


「わかったわ。その強い信念に私は賭ける。その挽回の機会を命じることにするわ。それにしても、私に対するその忠義の心、調子が戻ってきたようね?」

「シィー様! ありがたき幸せでございます。」

「では、状況を整理しましょう。まず、あの女神の神託は『時代を創る大精霊』への挑戦状、そうよね?」

「シィー様、その通りでございます。」

「この地の価値と経済は『時代を創る大精霊』で構成された『この地の主要な大精霊』の『きずな』によって維持されてきた。それこそ、他の大精霊の『きずな』なんて、所詮はおまけよ。だからこそ、『この地の主要な大精霊』で結託し、あの腐った女神を追い込みましょう。そうよね?」

「シィー様、その通りでございます。ただ、御容赦いただきたく存じますが、此の点につきましては、やや考慮の余地があるのではないでしょうか。」

「なにかしら?」

「シィー様。恐れ多くも……、女神も、その一員だったはずです。」

「そうよ。私が誘ったのよ。そして私は裏切られたの。こんな屈辱、はじめてよ。」

「シィー様、さらに申し上げることをお許しください。それは、シィー様が大切に存じ上げるフィー様の存在です。何かを突如として思い起こされたが如く、元の職……君主に復された。そして、フィー様が統べる地域一帯は、シィー様の『きずな』と『エンタングルメント』のごとく強き相関を有するの地……『円環』だったと存じ上げます。つまり、フィー様も『この地の主要な大精霊』の一員ですから、フィー様がこの結託に賛同するか否か、疑念を抱く所存でございます。」

「……。事象って、全部はうまく運ばない。フィーをあいつらの魔の手から救ったのは、この私……『大精霊の正義』の作用で、あいつらが仕掛けた『チェーン管理精霊』から、私の大切なフィーを引きずり下ろしたのよ。もし『チェーン管理精霊』のままなら、大精霊ではないので君主に復すことはできなかった。でも、あいつらに蹂躙され続けるフィーを放ってはおけないわ。そうよね?」

「シィー様、心中お察し申し上げます。シィー様が重んじておられるフィー様を魔の手からお救いなさることは、最も先決の事となるべき事象だったはずです。それによりフィー様が君主に復された事象が生じたる、それは仕方なきことと存じます。」

「……。そうよね。なんか、楽になったわ。」


 フィー。私は必ず女神に打ち勝つわ。それが「大精霊の正義」になると、創造主に誓いながら……。


「シィー様、ありがたき幸せでございます。そこで、『チェーン管理精霊』だったフィー様に恥をかかせたる『豪快な件』を、人々の記憶に思い起こさせるよう巧みに用いましょう。女神もそれを案じているはずです。」

「そうしましょう。そもそも、あんなの裁く手間すら億劫よ。あのおぞましい内容で放免されるとでも? あいつらに限っては都合良くそう解釈しそうでとても恐ろしいわ。そうよね?」

「シィー様、その通りでございます。それでは、かのように進めさせて賜ります。」


 あいつら。女神を取り込んだ位で調子に乗らないことね。この地で私の「きずな」を脅かす存在は、絶対に許されないのよ。その身をもって震え上がる事になるわ。今にみていなさい!


 それから、この「頼れる精霊」と、私の「きずな」と通貨を確実に救える作戦を練る事になったの。この精霊……「量子ビット」の汚点を十分に覆せるほど、頭がよく回るのよ。私への忠義も厚く、やっぱり私を救ってくださる「頼れる精霊」だった。


「シィー様の『きずな』と通貨を救うべく、草案を思い描きました。」

「あら? いよいよ本題ね。それでは、その草案を簡潔に述べてみて。」

「それではシィー様、申し上げます。それは、ちょっとした『マジックショー』をこの地に披露する、ただそれだけのことです。複雑に絡み合う経済の指標のばらつきを相関として数で並べ、その特性を解き、その固有の方向性からネガティブに作用する束へと一つにまとめあげます。それから、その束にネガティブな事象を集中してぶつけることにより、他の事象をすべて救うという一種のショーです。そこで、その救出対象として『きずな』と『デリバティブ』を選ぶとしましょう。とにかく、この二つを立て直さなければ、推進力が内部で燃え盛り、そのまま墜落してしまう危機でございます。」

「……。なるほど。でも……、その『ネガティブな事象』って……。私の通貨の『売り売り』よね? その『売り売り』した価値が、利率を上げなかった事象と重なり合って、そこから私の『きずな』と『デリバティブ』に回る、そうよね?」

「シィー様、その通りでございます。」

「それはできないわ。今は『買いの容認』よ。インフレの緩和はもちろん、これ以上の価値流出は防がないといけないの。特に、『仮想短冊の通貨』への価値流出は深刻よ? あいつら……。」

「シィー様……、ここにおいて、我が魂を賭けた奇策を受け賜ることはいかがでしょうか?」

「奇策? もちろんよ。」


 そういえば「量子ビット」にも、奇策のような手立てで演算をする、そんな風習があったわね。そのようなアルゴリズムばかりを考えているようだから、このような状況下における策略にも長けているようね。自然と期待してしまうわ。


「シィー様、ありがたく申し上げます。まず、シィー様の『きずな』に関わる者たちの裏切りは、断じて許されざるものとして防ぎ申さねばなりません。」

「当然よ。でも、それは特に心配ないわ。さて、その理由をおわかりかしら?」

「シィー様。さて、そのような事由でしたか。それについては、恐れ多くも……。『円環』の市場の件で、シィー様に恩義があるゆえではございませんか?」

「あなたって、何でもお見通しなのね。それが、絶対に裏切れない大きな理由よ。今まで散々『円環』の市場で好き放題やってこられたのは、いったい、誰のおかげかしらね? 当たり前のように連日行われているあんな取引は、誰の目からみたって『マーケットマニピュレーション』よね? それでもお咎めが一切なかった。そう……その恩義に報いる時がやって来たのよ。裏切りだけは絶対に許さないわ。」

「シィー様、そのような賞賛のお言葉、私には余りにも仰々しいでございます。ただ恐れ多く、この件につきましても、一つの懸念を抱いております。」

「懸念? それは何かしら?」

「シィー様。実はフィー様が君主に復されたことで、『円環』の地域一帯が、思いがけぬほどの強気な様子で、驚くことに、保有するシィー様の『きずな』の一部を売るとの暗示まで仰せでございます。」

「……。そう。それはフィーの指示かしら? 『円環』には、まだ締め上げられる余地があるにも関わらず、この状況下で私の『きずな』の一部を売ると示唆するなんて……、あってはならない事よ。裏切りが連鎖したらどうする気なのかしら。これについて、何か良い打開策はあるの?」

「シィー様、ご期待賜ります。もちろん、ございます。そうなる前に、シィー様の『きずな』の利率を下げれば済むことでございます。是非とも、私に挽回を機会を。」


 ……。素晴らしいわ。


「すごく安心した。その溢れる自信、今回は本物のようね?」

「シィー様、ご賛同のほど、厚く御礼申し上げる所存です。」

「『力は正義』という現実を、あの女神の目に焼き付けてやる必要があるわ。」

「シィー様、その通りでございます。それでは、数ではこの地で圧倒的な勢力を誇るシィー様の力をみせつけるため、『頼れる精霊』たちによる軍勢を引き連れる準備に取り掛かりましょうか。」

「そうね。『人と精霊の力の差』ってやつを、民にみせつけて、二度と這い上がれないようにしてやるわ。ほんと、調子に乗り過ぎなのよ! あんな『仮想短冊の通貨』ごときで舞い上がって。ただ、あんなのを放っておいた私にも落ち度があるから、その点は気にしなくて良いわ。」

「シィー様、ありがとうございます。それでは……各地の『頼れる精霊』にマッピングを……。」

「ううん、待って。その前に一つ、大事な策略があるわ。私の意見も是非とも取り入れていただけるかしら?」

「シィー様、何なりとお命じください。」

「女神と『大精霊の管理下にある仮想短冊の通貨』の関係を探ってみて。」

「シィー様、『大精霊の管理下にある仮想短冊の通貨』に女神が噛み付いてくる、そのような解釈をお持ちのようで何よりでございます。」


 女神には細心の注意を払うのよ。「女神の力……弦状ビット」を侮ってはいけない。因果律を破壊したとしても、それを前提として、大精霊に牙をむいてくるから。


 そして、「仮想短冊の通貨」でも、「大精霊の管理下にある仮想短冊の通貨」については全く問題ないのよ。なぜならこれは、大精霊の通貨に追跡用の短冊が宿るだけで、大精霊による完全管理が可能となる優れた通貨になるからよ。だからこそ、非中央にこだわる女神に狙われるとみているのよ。


「さすがね。そこで、私に忠義を尽くす精霊たちに、女神を探らせるの。強くて当たり前の概念の上に立つ私でも、女神が持つ力……『弦状ビット』は手強いわ。」

「シィー様、ご安心ください。女神が『大精霊の管理下にある仮想短冊の通貨』を否定する行動に出る前に、必ずや、有効な策を講じましょう。」


 たしかに、量子ビットの件では失望したわ。でも、策を瞬時に巡らせるその思考力は魅力的よ。「円環」に対する洞察力はもちろん、問題点の洗い出しも瞬時で、すぐに行動に移せる。このような謀を任せるのに適任していると、つくづく感じるわ。


「あなた、あんな役にも立たない『量子ビット』の研究なんかやめて、こっちに来なさいよ! そのような策を瞬時に構築して実行できる体制に持っていけるその才覚、本当に素晴らしいわ。このような謀に、あなたを招き入れたいと私は考えているのよ。」

「シィー様、そのお言葉、ありがたき幸せでございます。『量子ビット』の件をお許しいただいただけでも、身に余るというのに。必ずや、挽回してみせます。ただシィー様……、一つお願い申し上げたく存じます。」

「あら? なにかしら?」

「恐れ多くも……、その『量子ビット』にこだわる理由を申し述べたく存じます。許されますでしょうか?」

「もちろんよ。どうしてかしら?」

「『量子ビット』には、シィー様の『強くて当たり前』の概念を大きく飛躍させる可能性を秘めております。たしかに、チェーンを破るという目的は果たせませんが、『スーパーポジション』を構築してエネルギーの経路を同時に探り、その最短経路を導く驚くべき性質が存在します。」

「あら? その性質……、それって……。」

「シィー様、ご興味を賜り、感謝申し上げます。つまり、小さな起動用エネルギーから膨大なエネルギーを『強烈な非連続性』として瞬時に取り出すとき、この『量子ビット』が非常に役に立ちます。」

「それは……。非常に短時間という制約はあるけれども、『時代を創る大精霊』に匹敵する力を発揮できる。そうよね?」

「シィー様、その通りでございます。『強くて当たり前』の概念に沿った演算を実現するのが『量子ビット』の真骨頂でもございます。」


 そうか。「量子ビット」で私が助かる方法……、あったのね。


「……。つまり、その『量子ビット』の性質で、私の通貨が強く買われるようになるのね? それで、か。まずは私の通貨が『売り売り』になったとしても、『量子ビット』で挽回できる。それらが奇策なのね?」

「シィー様の鋭い洞察力に、感服いたしております。その通りでございます。もはや『買いの容認』にこだわる必要はありません。また、政の利率を上げる必要もありません。今は通貨を大きく売って『きずな』の利率を下げ、マネタリーベースを大きく引き上げた上で、『量子ビット』という大風に身を任せるがよろしゅうございます。」

「……。発想の転換、ね? そこに『量子ビット』を使うとはね……。」

「シィー様、あの女神の言葉でございます。『宇宙の構造』に弱い作用が含まれると女神は言い切りました。ところが『宇宙の構造』に弱い作用など必要ございません。『強くて当たり前』という強い作用だけで十分。その概念のみが、この地に真の平和をもたらすのです。」

「ああ、その概念の違いが、『女神の力……弦状ビット』と『力は正義……量子ビット』にわかれた。私は……女神と闘う方を選ぶわ。女神ネゲートに一体何ができる? そうよ、みていなさい。私の『きずな』という巨大な歯車に抗った者は、どんな最期を迎えたかしらね? 女神コンジュゲートの二の舞にしてさし上げますわ。」


 私はこの精霊に、「時代を創る大精霊」として、時代の全てを託すことに決めた。

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