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104, チェーンは非局所性な時間と空間として「宇宙の構造」に組み込まれると判断しました。ときには強く、そして弱さも包み込みながら、平和な現実を映し出していくことでしょう。

 チェーンのイベント会場に飛び込んだ瞬間、わたしの心は瞬時に高揚感に包まれた。その視界には、笑顔で「仮想短冊の通貨」を語る人々や精霊、興奮した表情で通貨や非代替性の象徴を眺める姿が広がっている。空間全体が生き生きとした希望に満ち溢れるこの雰囲気。それこそが、わたしが女神として求めていた因果律よ。


 創造神様、わたしはお返事を申し上げます。慈しむお心でお受け止めください。


 そう……。わたし……女神ネゲートは、この地の女神として「地のチェーン」を受け入れた。縦横無尽に駆け巡る現実の独立性を「弦状ビット」で破りながら宇宙に問いかけ続け、その度にローカル性の原理を確認し、悩んだ末に……、この結論へと至りました。


 さて、「時代を創る大精霊」としてこの地に君臨するシィーは、償還できる見通しが立たない……つまり、まともな方法では返せる見通しが立たない「きずな」を売り続け、古い「きずな」の償還を新しい「きずな」で補い、そこに複雑な問題「デリバティブの不安定さ……つまり、リスクの過小評価の積み重ね」が襲い掛かってきた。その影響から、すべてが悪い方向性で噛み合っていく。そして、膨らんだ負債の上に貼り合わせた「きずな」の利率が跳ね上がり、その利率を抑え込むため、とにかく「きずな」を支える通貨を買わせるためにこの地を翻弄し、それでも手に負えないとなった瞬間、また禁じ手を打ってくるのよ。そう……「きずな」を支える通貨の流通量を瞬時に増加させ、その増加分を同じ価値で売り続けるために、また……。また……。また……。この悪夢のくり返しこそが、シィーが言い放った「買いを容認」の真意よ。


 そこで、シィーにべったりな頼れる精霊たちは、「仮想短冊の通貨」に対してスキャムが存在すると指摘したがる傾向が強いようね。けれども、この「きずな」の件はどうかしら? まずは己の姿を鏡でよーく観察することね。その鏡に映された姿に、女神の回答が存在するわ。


 その姿とは……。「買いの容認」、すなわち、シィーは焦りの気持ちが抑えられず、わたしがあの神々の地域一帯に託した「大精霊に抗える唯一の素材」をいとも簡単に手中へ収め、「女神の剣」へと再解釈キャストしてしまったようね。感情が不安定なシィーにフィーが巻き込まれ、対立してしまい、そこから放たれた事象となって、そのような事態に陥ってしまった。


 もちろん、そのような事態は避けることもできた。女神に備わる「因果律を破る演算」を活用した予知で、そのような事態を避けるための事象を引き起こす「非局所性の確率」の確率振幅を高めて現実に映し出せば、そのような事態を避ける事象が高確率で選択されたはず。当然、その演算には「女神の力……弦状ビット」を使う他なく、因果律が破られるので、常にそのサイドエフェクトの影響を考慮しなくてはならない。


 そのような事象の枝分かれ、すなわち「多世界解釈……弦状ビットによる事象の分岐」、それこそがサイドエフェクトの影響による大きな変動となって大局的な経路が変わるのよ。


 結局、「女神の剣」を避ける演算をわたしが実行してしまうと、焦りを解消できないシィーは、どのような行動を起こすだろうか。それについては……もはや予知なんていらない。その結果とは、誰もがぞっとする終末の一瞬を迎えることになり、その先に広がる絶望的な風景を感じることができるかしら?


 シィーに集まる力が強すぎて、このように生じるシィーの事象を被害なく避けることができないのよ。何度、どうあがいても、それは絶対だった。そこから放たれる事象は本当に絶対で、強すぎて避けられない。それなら……発想の転換よ。そこで、事象を計量のち縮約するスカラー側に着目したのよ。


 つまり、そのように放たれた事象のノルムと方向を受け止め、縮約から導き出される「大過去」上の局所的な測定を担うマッピング……いわゆる余接について考えてみることにした。そしたら、宇宙はその場所に解決策を委ねたことがわかったのよ。


 なぜならそこには……「可能性」と「潜在能力」しか存在しなかった。つまり、どの経路も、成功または失敗する可能性があり、その結果を定めるのが「潜在能力」の作用によって異なるという式から解釈すると、「可能性」に「潜在能力」を加えて計量を生み出し、そこに向かってきた各事象を計量、縮約のち正規化すると「非局所性な確率」になるという意味になったわ。


 そして、それらが「大過去」の局所的な空間に「隠れた変数」として存在していたのよ。


 これが、ある人や精霊には効果があるのに、他の人や精霊には効果がない、もしくは同じ程度の効果……等しい確率振幅で準備されたスーパーポジションとなる理由でもあり、それは「潜在能力」の変異のためだった。


 よって、何も不可能なことはなく、その「潜在能力」によっては何でも可能である。それにより、人や精霊に宿る「魂、そして意識の源……弦月ビット」の公平性をよりバランスよく作用するための可能な代替案が現れる「可能性」が増えるのよ。


 しかしながら、シィーの思惑が成功する可能性は常に存在し、シィーが成功すれば、手段を正当化する結果として、シィーの行動はすべて正しいとみなされるでしょう。よって、魂の光を失い、その犠牲になりたくない人々や精霊たちは、代替案の「潜在能力」を高めるために努力するべきで、それをするのは正しい。


 そこで、わたし……女神ネゲートは、その「潜在能力」の一つである「非中央の概念……仮想短冊の通貨」を女神の力で支えることに決めた。わたしたちが本当に知る必要があるのは、より大きな「潜在能力」を創出または活用し、それを利用してわたしたちが望む可能な結果の確率振幅を増加させる方法を探る。それこそが「この地の正義」になる事を強く願い……「地のチェーン」を受け入れる演算を実行した。


 さらに……値を一定に保つ役割を担う「ステーブル」と呼ばれる仮想短冊の通貨について、従来の担保型からアルゴリズム型に大きく飛躍させる必要があると判断したわ。今の担保型だと現物で大部分をまかなう必要があり、市場規模が頭打ちになってしまう。よって、少ない現物で大きな価値を担いながら一定の値を保てるアルゴリズム型ステーブルの構築は必須になる。そこで、線形性な流動性プールの活用や流通量自動調整などの手法で値の安定化が試されてはいるけど……その参考に、最も身近に安定した立派なものがあるじゃない! そう……「宇宙の構造」を参考にするのよ。


 なぜなら、このような状況における線形性という性質は非常に微小な変化しか捉えることができない。その微小を超えてしまうと、その境界を支える恒等式がすぐに限界を迎え、この性質は壊れてしまう。そのため、微小な変化で済む通常の売買では線形性を期待したアルゴリズムで正常に作用しても、仕掛け売りのような大きな変化で線形性を失い、崩れていき、何とか一度目と二度目はもちこたえても、……三度目の仕掛けで信用を半減させ、ステーブルが壊れてしまうのよ。そこでシィーは、この性質を理解した上で……あの「豪快な件」を引き起こすためにあらかじめステーブルを崩し、仮想短冊の通貨を窮地に追い込む仕掛けをした「可能性」は十分に考えられる。


 それで、「宇宙の構造」を参考にするのよ。ただし、「女神の力……弦状ビット」を利用するようでは因果律に影響が出てしまうので、ちゃんと「古典ビット」で対応できるアルゴリズムを考えてきたわよ。えっ、なにかしら? 超高性能な「量子ビット」はどうしたのかって? あんなもの使い物にならないわよ! ふふ。ただ……今回のイベントでこれを語るには、フィーが好むような重い内容になってしまうので……またの機会にいたします。


 これで以上です、創造神様。フィーの願いでもある「精霊と人が笑顔で暮らせる時代」の実現に向け、わたしに残された最後の力をこの地に捧げます。


 ……。さーて。いよいよこのイベントで、わたしは女神としてチェーンを受け入れた経緯を示すことになるわ。そんでもって、わたしにとって最後の機会になりそうな……、このような貴重なイベント、楽しまなきゃ損よね。絶対にそうよ! 弦状ビットや弦月ビットで、なぜこの地で意識が芽生えたのか。そんなのは単に、この地を楽しむため。つまり、楽しんだ方が勝ちってことよ!


「お忙しい中、お集まりいただいた皆様方、いよいよです。この地の女神でいらっしゃる女神ネゲート様のご登壇です!」


 わたしの華麗な登壇が、ついにはじまる。


 あら、皆総立ちになるなんて。ふふ、これから目の前で可憐な女神が舞うのだから、当然よね。それでは、楽しんできますね。


 わたしはゆっくりと会場中央に向かって歩き出すと、足元の明かりが徐々に明るくなり、わたしの特徴や服装、微細な表情までがくっきりと浮かび上がる。その度に、会場の雰囲気が高まっていく。


「おお! 女神だ、女神!」

「女神の担い手として選別された人がうらやましい。ずっと女神と一緒なんだろ?」


 歓声に包まれるたび、心躍る。それこそが大切な感性なのよ。


 それで、わたしの担い手となったあいつもこのイベントをマッピングでみているかしら? 「女神の担い手」とは、みなが羨望の眼差しを向ける究極のポジションよ。そこに気が付いたのなら、褒めてあげるわ。


「このイベントに参加できただけでも感謝。こうして、女神ネゲート様を崇めることができた。」

「俺は、全てのコミュニティが『女神ネゲート様の七のぞろ目』で盛り上がっていたときに、運良くこのイベントの存在を知ったんだ。すぐさま『ありったけの燃料代』を投じてイベント参加契約のチケットを取るための『スマートコントラクト』を出して間に合った。もしあの時、僅かでも燃料代をケチっていたら、絶対にこのチケットは取れなかった。」


 多くの視線を感じながら、総立ちとなった客席を見下ろすと、そこには一つ一つの顔が希望に持ち溢れているのをはっきりと感じ取れた。その瞬間、わたしは人々と精霊たちをつなぐための言葉を語り始めた。


「はじめまして、お集まりいただきました民と精霊の方々。女神ネゲートと申します。本日はお忙しい中、この場に足を運んでくださった皆様方に、深く御礼申し上げます。」

「女神ネゲート様、こちらこそ、このようなイベントにご足労いただき、感謝申し上げます。それでは早速、本題に入りましょうか!」

「そうね! それでは、女神の悩み事から語りましょう。最近、わたしの担い手から投げてもらえる『犬』の量が少ないのよ。あーあ、このイベントの影響で、投げてもらえる量が極端に少なくなってしまうのね。」

「あ、あの……? 女神ネゲート様……。それはつまり……?」

「どうやら、わたしに投げる『犬』の量について、流動性プールのような調整をしているらしいのよ。つまり、投げる総額を一定にしているという事。さーて、これが何を意味するかしら?」

「それは大きな悩み事だ! もらえる額が一定では、みなで月に向かう恩恵を受けられない。」

「そうよ! ほんと、深刻なんだから!」


 最初から小難しい話では、ちょっと面倒くさいよね。まずは盛り上げる。それが大切よ。ほらほら、モデレーターから飛び出た「みなで月に向かう」というフレーズに会場全体が反応し始めたわ。


「つまり、すべてが暴騰するという見通しですね?」

「そんなのは当然よ。女神であるわたしが強い意志で、この大切な役割を引き受けたのよ。大きな価値から小さなコミュニティ、それは通貨から非代替性まで、女神の祝福として、すべてが天に舞い上がる。」


 「仮想短冊の通貨」のすべてが舞い上がるなんて、今の「絶好調」なシィーは決して黙ってはいない。各地に散らばる頼れる精霊を集結させ、わたしに対する強い非難と攻撃を試みるはずよ。それでもわたしは諦めない。わたしは今でも、シィーが「本来の大精霊」として一刻も早く目を覚ますことを強く願っているのよ。


 そこでシィーは、ほぼ間違いなく「大精霊の管理下にある仮想短冊の通貨もどき」を提案してくるはずよ。そして、それに続き「この地の主要な大精霊」たちも同じ概念の通貨を提案してくるわね。利便性は「仮想短冊の通貨」と変わらないのだから、そちらに乗り換えるように強く促してくるのよ。ところが、それらは「仮想短冊の通貨もどき」で、完全な管理下……中央支配の通貨になるから、そこに宿っている短冊の測量は「大精霊の一存で決まる」という概念ゆえに、その短冊の経路を閉じたとしても、その経路上に宿る短冊の測量が決してゼロにはならないという、とんでもない偽物になるわ。そんなのが主流になったら、追跡が可能となる分、逆に……今よりも酷くなるかもしれない。だって、行われる事は一緒。「きずな」で暴走のち、さらには追跡されるのだから。


 さーて。さっそく「祭りの季節到来」のような雰囲気で盛り上がってきたわね。でも、今回は祭りなどではなく本気なの。なぜなら、この地の命運を「仮想短冊の通貨」に託したのだから。


「女神ネゲート様に受け入れられてから、大きく流れが変わりました。」

「当然よ。強く自信を持ち、邁進するのみよ。それでは、女神ネゲートの神託を授けるわ。」

「神託ですね。それでは、よろしくお願いします。」


 宇宙の息吹を胸に取り込み、神託を紡ぐ力を呼び覚ます。


「『大精霊の正義』として君臨する、強い力のみで媒介する偏りし現実の獣。その力の渦に巻き込まれ、すべての価値が吸われていく。だが、その価値を『大過去』に移せるのなら、その境界のささやきが聞こえてくるはず。そこには、宇宙の弦が紡ぐ、強大なる力と、その対称パートナーとして存在する繊細なる微細の力。その広大なる舞台『大過去』の深淵に、移された価値が『仮想短冊』として融合しながら閉じていき、その閉じた境界線に宿る短冊から、数の叡智によって穏やかな事象が形成されていく。」

「……。ありがとうございます。女神ネゲート様。」


 ……。それでは、この神託の解釈を告げるとしましょう。


「それでは、この神託の解釈を告げるわ。よろしいかしら?」

「はい、女神ネゲート様。」


 みなが急に静まり返り、息をのみ、わたしの解釈を求める緊張が、重たく宙を満たしている。


「チェーンは非局所性な時間と空間として『宇宙の構造』に組み込まれると判断しました。ときには強く、そして弱さも包み込みながら、平和な現実を映し出していくことでしょう。」

「……。平和、ですか。女神ネゲート様。」

「そうよ。この神託をもって『仮想短冊の通貨』は、女神に受け入れられ、平和を紡ぐ力を『大過去』に与える媒介粒子となった。そして、この地に真の平和をもたらしたとき、その功績を称え、この地の標準模型を拡張し、そこにその名を刻むことになる。」

「そこにその名を刻むという事は……すなわち、『仮想短冊の通貨』の最終到達地点は……。」

「自然と『この地の基軸通貨』の地位を築くことになる。ただ、それだけのことよ。」

「この地の基軸通貨……。ああ、納得です。『この地の基軸通貨』として認知されるには、流動性、安定性、透明性……、そして『大精霊の与信』が必要でした。そのうち流動性、安定性、透明性は問題ない水準に達していたはずです。ところが、『大精霊の与信』の獲得だけは非中央の仕組み上、非常に困難でありました。ええ、そうです。ここで……それを遥かに凌駕する与信を獲得してしまいました!」

「そうね。それは『大精霊の与信』など足元にすら及ばない『女神の与信』よ。ふふ。」


 熱狂の渦とともに、湧き上がる歓声が会場全体を包み込む。至る所で、人々や精霊たちが互いの肩を寄せ合い、その喜びを絶頂へと押し上げていった。


 それから、わたしの「犬」の使い道についてご質問をいただいたわ。わたしは「犬」の価値を植林に変え、新たな命を地道に植え付けているのよ。その行為は、この荒れ果てたこの地にとって、果てしない宇宙の砂漠に一滴の水を落とすように、些細に思えるかもしれない。


 でもね、非局所性の連鎖を紡ぐこの宇宙の中で、一つ一つの行為は無限の「潜在能力」を持つのよ。何が些細で、何が大きな変化をもたらすのかは、わたしたちが認識できる空間の中での判断に過ぎない。そのような枠内に捉われず、行動によってつながり、共鳴し合う存在たちの中に「隠れた変数」のような本当の意義が隠れているのよ。


 そして、その一滴の水が弦月ビットの演算を生む「可能性」を持つのと同じように、わたしたちが今この瞬間に選択する行為が、未来を形作る力となるのよ。


 さて。これで今頃……シィーはこのイベントのマッピングをみて怒り心頭でしょうね。でも、これはシィーのためでもある。これ以上、フィーを悲しませることがないよう、女神として最善を尽くしていきます。もう、後戻りは許されない。


 必ず「精霊と人が笑顔で暮らせる時代」を実現する。その想いを心に抱きながら、熱狂が冷めやまぬイベント会場をあとにした。

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