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103, 量子ビットで「仮想短冊の通貨」を破れると豪語していたから、その量子に潤沢な予算を割り当てたのよ? 今さら、それはできないって、あなた……この場で消滅を望むのかしら?

 女神ネゲートが「時代を創る大精霊」である私を裏切るなんて、信じられない。もう……この地はおしまいよ。どうして……。なんで……。


 私がフィーと対立したあの日。そこから、狂い始めたのよ!


 まず……、「仮想短冊の通貨」に魂を奪われたあいつら。私に対する揶揄を目的としたコラムを平気な顔で発信したがるから、常に監視の対象としているのよ。


 そうね。通貨膨張とか、黄金時代が到来するとか、抑えきれない「きずな」の利率とか、数の叡智で縛り上げた通貨にさっさと切り替えろとか、狂った大精霊によるインフレと短冊のデフレとか……。そういうのは別にいいの。慣れているから、勝手にしてちょうだい。


 ところが……。つい先日、この地に大きな衝撃が走ったのよ。地のチェーンに変わったアドレスが出現したという報告がマッピング全体を駆け巡り、それを確認したあいつらが興奮し始めたのよ。


 驚いた私は、その変わったアドレスをすぐに調べさせたわ。それは「七のぞろ目」だった。ぞろ目って……何?


 本来「仮想短冊の通貨」のアドレスは無作為に選ばれるはずだから、綺麗に揃うなんて絶対に考えられない。なぜなら、そんな「非局所性な確率」が偶然にも起きてしまうようなら、そうね……、この地から数光年先のご近所に何度も宇宙が誕生してしまうようなもの。つまり、そんな事は起きないに等しいはず。


 もう……。嫌な予感で全身が震えたわ。それから意を決して、おそるおそるそのアドレスを参照してみた……。そしたら、そこの「非代替性」プレビューに、なんと、女神ネゲートの姿が……。


 なんなのこれ? 女神が、己が持つの演算の力で「七のぞろ目」の逆像を導き、そこに己の姿を写した「非代替性」を放ったというわけ?


 冗談じゃないわよ! これではまるで、女神が「地のチェーン」を受け入れたと公言したに等しいわよ……。


 案の定、フィーが魂を奪われかけた「この地最大のチェーン……メインストリーム」に宿る「仮想短冊の通貨」から急騰し始めたわ。だいたい、チェーン管理精霊を失っても問題なく動いているなんて、どういうこと? これが「非中央」の力? 冗談じゃないわ。これこそ、ただの偶然よね?


 ああ、その後の流れは容易に想像ついた。そう……「地のチェーン」と「犬」が不気味に上げ始めたのよ。なによ、「犬」って? ああもう! あの壊れた女神! あの腐った女神、たしか「犬」にこだわっていたわよね?


 つまり、この地の存続と「犬」を天秤にかけて「犬」を選択したということよね? あの女神は正気なの? 狂ってる。頭が壊れてる。あの腐った女神! いったい、なんなのよ!


 これは夢? 何度も頬をつねってしまったわ。しかし、現実に映し出された結果だった。どうなっているのかしら! こんな理不尽極まりない腐りきった状況……。そうよ、女神コンジュゲートがしでかした大失態の再来よ! あの女神も本当に酷かったから。何が「この地を冷却しましょう」よ? あれだって正気だったのかしら?


 そう……。あの時も「きずな」の利率が危うくて、やっとの思いでカーボンを価値に変える手法をを編み出し、その価値の流入でうまく利率を抑え込んでいたのよ。それだって、この地の存続には不可欠だったはず。許されるはずよ。


 ところが、それなのに、このとんでもない女神……コンジュゲートがこの地に誕生してしまった。思い出したくもないわ! そうよ……。合ってる。今の状況とそっくりだわ。このコンジュゲートは、効率が悪かった「無尽蔵になるかもしれないエネルギー」を、「無尽蔵なエネルギー」に変えてしまった、とんでもない、腐った女神なのよ。


 それで、よりにもよって「カーボンの吸着」にこの「無尽蔵なエネルギー」を活用し始めてしまった。そんな事をされたら……、「きずな」を何とか支えていたカーボンの価値が水の泡になるじゃない! 慌てて、燃料の需要を奪われ怒り狂い、不満を抱えていた「地の大精霊」たちを焚きつけて事態の収束を図ったわ。それで私は……仕方なく「渦の件」に……。そ、そんなはずでは……。


 まったく、そんな非常事態を引き起こしたにも関わらず、のんきなコンジュゲートは話し合いで何とかなると言い出してしまい……「消滅」したのよ。ほんと、それほどまでに考えが甘い大精霊が、どうしてこの地の女神になれたのよ? 「強くて当たり前……力は正義」、それこそが根底にあり、この地の掟よ。


 たしかにね、どこも暑くて灼熱化していたのは事実よ。でも、そんなやり方は通用しない。この地のバランスを崩すことになるという考えには至らなかったのかしら? ほんと、壊れてしまった女神ネゲートと一緒だわ……。そもそも、カーボンを吸着したところで……。もう! なんで、そんな基本的なことがわからないの、もう、あのコンジュゲート!


 そんな間抜けな軽いノリで消滅したコンジュゲートは……なんと、私に「そっくり」だったの。ああ、イライラする。なんで、コンジュゲートに「女神を担う力……弦状ビット」が備わっていて、私にはないの? 宇宙は設計を誤った。私に「弦状ビット」の力を託し忘れるなんて、何をしているのかしら? 最大の過ちよ。


 もし私に「女神を担う力……弦状ビット」が備わっているのなら、この地はすぐに息を吹き返していたわ。すぐさま、腐ったチェーンや、そこに宿る「仮想短冊の通貨」をすべて粉々に破り散らし、断罪し、宇宙の藻屑にしてやったからね。


 「仮想短冊の通貨」については、今まで、十分に遊んだでしょう? 何が不満なの? どうして、どうして。私にそれを破る力がないの? それが、宇宙の意志だとおっしゃいたいのかしら? 訳がわからない。本当に、おかしい。理不尽すぎる。どうして? 答えなさいよ! ねえ?


 もう……。私、狂いそう。ううん、もう……、狂ってしまった。


 どうわめこうとも「弦状ビット」の力は手に入らない。ああ、そのエントリーモデルのような「弦月ビット」など使い物にならない。


 だいたい「弦月ビット」って何なの? おかしいでしょう? これだけ高度な「意識……魂」を演算できるのに、どうして……複雑な演算はこなせないのよ? この場で六十四桁の数の分解を「頭の中……暗算」でやれって言われて、できる? なんなのよこれ……。


 ……。そうだ。あの神々から奪い取った「女神の剣」があった。いつも私に従順なくせに、珍しく歯向かってきたから、「きずな」の件で大いに揺さぶって奪い取ってきたのよ。でも、それは正解だった。


 私だってこんな物騒な剣をこの地で振り回したくはないわ。でも、仕方がない。今は「買いを容認」よ。利率が安定しない「きずな」の価値を埋め合わせる分……、私の通貨の流通量を増加させ、それでもいつものように買っていただく需要がどうしても必要なのよ!


 そうして、こうなった以上……「女神と闘う」しか他ない。


 何かしら? 他にも手段はあったはず? ううん、それは消え失せた。なぜなら……、そうね、私の目の前で震えながら土下座し、許しを請う、これ以上にない怒りをぶつけたい不様な精霊のせいよ!


 この精霊には、万一、女神が裏切った場合に備え「弦状ビット」の力の一部を「量子ビット」で再現し、腐ったチェーンや「仮想短冊の通貨」に対抗するための策を委ねたのよ。そしたら自信たっぷりに「そんなのは破れる」と豪語したから、この上ない「潤沢な予算」を与え、期待していたわ。


 それでこの度、女神が裏切ったので呼び出したのよ。そしたら土下座しながら許しを請う、ふざけた謝罪が始まりました。


「申し訳ございません、シィー様。これには、その、これには、深い理由というものが……。とにかく、難しく……。」

「ふざけないで! そんな戯言は聞き飽きたわ。私が望む回答はただ一つ。そう……、『量子ビット』で『仮想短冊の通貨』を破ることができた、という内容だけよ? おわかりかしら?」

「シィー様、シィー様……。お許しください……。」


 なんなのこれ? 言い訳を並べに来ただけなの? 私は、女神が裏切ったから「量子ビット」の研究成果を拝見させてと優しめにお願いしただけよ。ああ、目が合った。嫌な予感が全身を駆け巡る。


「あなたは『量子ビット』で『仮想短冊の通貨』を破れると豪語し、潤沢な予算を勝ち取ったのよね? おわかりかしら? そういえば、その潤沢な予算を手にしてから、急に羽振りが良くなったようね?」

「そ。それは……。」

「私が何も知らないとでも? あなたは毎晩、かわいい精霊たちと、楽しい事はもちろん、ああいけない、一歩踏み込んだ事にも手を出したようね? それで『量子ビット』の構造に触れることはできたのかしら? あの潤沢な予算の源は……民が納めた地と涙の結晶よ? わかる?」

「……。シィー様! この通りです、お許しください……。シィー様! なにとぞ……。」

「私は『時代を創る大精霊』よ。自由と楽観を標榜としているのよ。だから、そのような予算の使い道については、とにかく言うつもりはないわ。その代わり、結果を出してちょうだい。おわかりかしら?」

「申し訳ございません! シィー様! 結果の方はすでに申し上げた通り……。」


 なんなの、これ? この地の女神が使い物にならないから、お願いしているのに。こんな事をしているうちに、私の「きずな」の利率は……。


 とにかく、こんな事では、もう……政の利率を上げるのは無理。よって、次回は見送りよ。そっちを上げたら、抑え込んでいる「きずな」の利率はどうなってしまうのよ……。


 民の生活? もう、それどころではないわ。


 もう、あいつら……。私が「きずな」の市場を「利率を抑え込むフタが絶対に飛ばないように、過去にない規模の圧力で抑え込んでいること」を知っているらしく、すでにそれは限界を迎え、損傷した箇所から蒸気が少しずつ漏れだしていると揶揄していたわ。こんな奴らに、この地の女神は味方する訳? いったい、何なのよ……。


「申し訳ございません。シィー様……。量子のメカニズム的にそれは……。」

「メカニズム的に、何? はっきり言いなさい。つまり、できないってことね?」

「シィー様! お許しください……。」

「それは言い訳かしら?」

「シィー様……、この件は私の汚点でもあります。どうか、どうか……。そこは認めますから、軽めの罰で……。」

「そう。それなら、この場で消滅をお望みかしら?」

「そ、それは……。お許しください……。」


 ……。……。


 落ち着くべきね。今、この精霊を消滅させたところで、得るものは何もない。だったら、私の駒として存分に動いてもらうわ。


「それなら、私に対する忠誠心は本物よね?」

「ああ、その通りでございます、シィー様! この度の件、どうか、お許しください……。そして何なりとお申し付けください!」

「そう、わかったわ。」

「……。ありがたき幸せに存じます。シィー様。」

「それなら、『きずな』の市場の抑えつけの件で、いかにも裏切りそうな精霊の存在についてよ。何を言いたいか、おわかりよね?」

「はい、シィー様。この期に及んでもシィー様の『きずな』を擁護せず、よりにもよって『仮想短冊の通貨』に触れ、恐れ多くも『シィー様が、時代を創る大精霊として仮想短冊の通貨を承認する』という、とんでもない噂をこの地に流しています。」

「そうよ。そいつよ。前々からチェーンや『仮想短冊の通貨』を擁護しているのよね。そんなのが、私の『頼れる精霊』を名乗っているなんてね。」

「シィー様、賛同いたします。」

「私の『頼れる精霊』なら、今の私の『きずな』は絶好の買い場だと、すすめるべきよね?」

「その通りでございます、シィー様。当然の務めでございます。」

「とにかく、私の『きずな』での裏切りは絶対に許さないから。それについては、私への反逆になるからね。そのつもりで、裏切りを絶対に出さないようにしなさい。」

「ありがとうございます、シィー様。それで、お許しいただけるのでしょうか?」

「もちろんよ。約束するわ。」


 ……。とにかく落ち着くのよ。


「シィー様……。」

「どうかしたの?」

「たった今、大変よろしくない情報が入りました。」

「な、なに?」

「チェーンの最大イベントに、女神ネゲートが登壇するという内容です。今からマッピングで配信されるとのことで……。」

「……。なによそれ? あいつらのイベントに顔を出すつもりなの? あの腐った女神は!」

「申し訳ございません、シィー様。そんな不愉快な内容、すぐに切断しますね。」

「すぐにつないで。しっかりと確認するわ!」


 女神ネゲート……。そんな女神だったとは。さて……、どんな内容かしら?

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