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9, 精霊様も、嫌気がさしたのでしょうか?

 なにやら、怪しげなカギで銀髪の小娘にはめ込まれ、ほとんど身動きができず、その解除に向け、残された一定の力を行使するしかないという、魔界で恥さらしの状態になった……とある二人組が、挽回するための策を計画を練っていた。


「悪いな。今日はなんだか思考がまとまらない。誰かが、私の悪い噂を垂れ流しているのだろうか。」

「ほんとさ、あと少しなんだよな、あのカギ。だから逆に、追い込まれる。ほんと、あの腐ったカギ、『あとちょっと』の所で逃げていく獲物に似ているから、たちが悪いよな。休めもしない!」

「たしかに、たちが悪い。だがな……、それ以上に、『あとちょっと』というのは、魔界では禁忌だったはずだぞ?」


 思わず口を手で覆い、二の腕の筋肉をピクピクと震わせていた。


「わっ、悪い! どうしても使いやすいので、つい、口から出てしまうんだ。」

「まったく……、おまえみたいのが、私の相棒だとはな、つくづく運がないな。」

「まあ、肝心なときには、必ずやご期待に応えられると。ということなので、このあたりでご勘弁してください。」

「『あとちょっと』……。曖昧で、かつ、これよりふざけた言葉はない。なぜ、この言葉が禁忌なのか、何度も説明はしているぞ? 狂ったハイリスクの塊のような怠け者が、このフレーズを発しはじめたら『いよいよ』という事なんだ。覚えているよな? これ位は? というか、覚えておけ。」

「……、逃げるということですね。」

「その通りだ。怠け者が一度でもこのフレーズを出し始めたら、もはや期待は皆無。いつでも『あとちょっと』で、完成などしないのだからな!」

「何度聞いても、ひどい話だよな、それ。もちろん、誇り高き『魔の者』には無関係だがな。まったく、あの神々ども、『あと……』をやり過ぎてしまい、せっかくまとまってきた民にすら、まったく信頼されなくなったらしいですね。」

「当然だ。」

「その過ちの影響なのか、これだけ魔界が制限されているにも関わらず、最近は魔への志願者が多い傾向です。これについては、ありがたき話ですよね?」

「……、ありがたき、だと?」

「……。またやっちまった。今日は俺様も調子が悪い! 今後、気を付けます!」

「まったく。そこは『当然だ』と断言しないと、ダメな場面だ。しかし、長い年月を経て、色々と悟った民が増えてきたのかもしれない点は悪くないな。なぜなら、神々がしでかした過去の不始末について、なぜかそれらは『魔の者』がすべて行使したと……一つにマージされて、語り継がれているからな。」

「ほんとそれ、胸糞悪いです。いまはなぜか、天は『魔の者』が仕切っていますが、こんなクソなカギで能力を潰しておいて、神々たちは『魔にやられた』被害者ヅラして、逃げて、高みの見物でしたっけ?」

「ふん。……。だから何だ? もともと『どんな者』でも受け入れるのが魔界だろう。つまり、『どんな事』でも受け入れるのさ。ただ、それでもこのカギは厳しい。そろそろ大暴れしたい。解除されたら、思う存分、だな。まったく……、千倍返しで済ませるつもりすらない。特に、あの小娘と、あんなものを拝めていた愚かな民らには、特に厳しめに、いや、見せしめに、か。そうそう……、この地に伝わる、何だっけな?」

「……。それは怖い、怖いね。恐ろしい。小娘に騙されていたとはいえ、その民らが本当にかわいそうだ。がはは。」

「この程度のことで臆するものなのか? そうか? おまえはいつも簡単に『恐怖』を口にするが、それはな、本当の恐怖を味わっていない証拠でもある。」

「本当の恐怖?」

「魔の者が生み出したとされてしまった、最高の指標があるだろ。まったく、なぜ魔はいつも、悪者扱いされるのか、本当に理解に苦しむ。あんなにも残酷で好奇心が強い指標は、到底、魔の者では思いつかん。まさに、神々の負債といえよう。」


 魔の者が生み出したとされてしまった最高の指標……。


「お、俺様みたいな、脳まで筋肉に侵されているという噂が立つような者ですら、その指標は知ってますぜ。」

「なるほど。さすがに、知らぬものはおらんか。」

「当然ですぜ。『民』の恐怖を数値に変えた、プレシャスな指標、だったよな?」

「……。その通り。わかっていたか。ただし! その論理を理解できていてこそ、だがな。なぜなら、冒頭にある『民』という点が、最も重要なのは、説明できるのか?」

「そんなのは余裕ですぜ。恐怖をあらわしたとされる指数には、あくまで『民の分』しか入っていない。それにも関わらず、あのような感じで広く浅く論理を展開されるとさ、『全員参加型』と勘違いされてしまうんだよな。しかし実際には『民』だけの強制参加ですぜ! えっ、機関や神々はどうしたのかって? そんなやべぇ数値が跳ね上がり続け、危機が刻々と迫る状況の中で、一体、何をしているのか、だって!? がはは、それについては逆に質問だが、そうだな……、神々に、一体何を期待している? なぜなら、どんなにその数値が跳ね上がろうとも、満面の笑みで『眺めているだけ』だろうな。一応、ちらっとは見るらしいが、つまるところ、事態は成り行きの『運任せ』ってやつよ。どのみち神々には、まったくもって関係がないからな。それどころか、恐怖が跳ね上がった理由などは『後付け』でさ、民らがどのように『間引き』されていくのか、楽しんでいるだけかもしれないぞ。そして、これを俗に『狩り』と呼ぶんだよな。がはは。」

「……。それが解か?」

「まあ、そうなりますぜ。」

「……。悪くはない。ただ、神々に嫌気がさして、魔を志した若き者たちの解と比べてしまうと、そうだな……、輝きを失った鉛みたいな解だな。」

「……。俺様にとっては、それでも十分に高評価だな。」


 はじめは神々の支配下でプロジェクトが開始され、それが軌道に乗ったとしても、なぜか……、自分自身でも気が付かぬうちに、そこを抜け出していて、制約なくやらせていただける「どんな者でも受け入れる」と豪語する魔の者とご一緒にプロジェクトの最終仕上げ。このような展開になるのが、この地の特色です。


 もちろん、そのまま支配下でうまくやり遂げる者もおりますが、とにかく大変です。そのわずか一つの詳細を開いただけでも、ここまでするのか……と、ため息が出ます。


「妙に気になったんだが、魔への転向が多い最近の傾向が続けばさ、いよいよ、神々に……?」

「……。軽率な考えは慎まないといけない。神々を舐めてはならない。まずは、あのカギを確実に破壊する。そんな考えは、それからだ! あの契約の早さを取り上げても一目瞭然だ。怪しげな力を、いまもなお、たっぷりと蓄え続けているはずだ。」

「くそ……。それだけ、圧倒的な不利なのか……。」

「それは否定しないが、その前に、あの小娘の詳細次第だぞ? そもそも、あいつは何なのか? そちらについても調査を重ねてはいるが、まだまだ不明な点が多い。わかっていることは、相当な腕前の山師で色々な噂が流れているということだけだ。なんでそのような者が神々の推薦でこちら側に入り込もうとした? そして、散った話はきかないので、遊べる分くらい余裕に持っていただろう。」

「えっ? 山師って!? しかも……、げっ、みかけからは全く想像がつかん。」

「話していなかったか。悪かったな。なかなかの衝撃だろう。」

「しかも散っていないのか。山師って最後は散るもんだと……。」

「……。散るどころか、そのことで民の崇拝を集め、地で知らぬ者はいないらしい。さらに、変わった形で、その稼いだ価値を所有しているらしいぞ。」

「変わった形?」

「そうだな……、たまにはおまえの驚いて歪んだ顔を拝みたいね。聞いて驚くがよい、なんと、私や魔の者たちをおとしめた『あのカギ』と似た仕組みらしい。」

「!?」

「ほう……、そういう顔か。悪くはないな。ただし、これから話す噂からの推測なので、そこは注意されたい。」

「……。その噂、とは?」

「自分しか知らないカギで、その価値を、可愛い犬のブロックに埋め込んだというものがあった。もちろん、単にカギというフレーズが出てきただけであって、同じものかどうかは……。しかし……。」

「価値だと? しかもカギ? それって……?」

「急にどうしたんだ?」

「俺様みたいなアホでもさ、その犬……。まさか、魔界で流通する『あれ』とよく似ているのか?」

「……。そのまさか、だったんだ。魔界で生きるか死ぬかの取引で利用される、あれに似ていた。どんな者でも使えるようにしないと……魔界では生きていけぬから、その部分についての作り込みは凄まじいだろ? それゆえに『あれ』もカギの力を駆使していたはずだ。そんな『どんな者でも従うざるを得ない』仕組みを、あの小娘は応用して、我らを……。はじめから、何やらどこかで見たことがあるとは勘付いていたのだが、まさに、そのままだった。」

「まったくひどい話! 使えるものは何でも『悪用』する、なんとも高潔かつ清々しい、神々の概念ですな!」

「まったく……。私だって、こんなのは信じてはいない。だがな、まさか身近にあったものがヒントになって、あと少しまで迫ってきているのだから、噂もあなどれない。」

「身近にあるものほど、気が付きにくい。なおさら『あれ』ではね。」

「そこで実はな、私も……、その……、かわいい犬を持っているのだよ。おっと! これはここだけの話だぞ。」

「!?」

「お、おまえ? いま、笑いをこらえたな?」

「こ、これは仕方がないですよ! もちろん相棒として、絶対に口外しないぜ。」

「それは、信じてよいのだな?」

「それはどうかな? がはは。すごく興味があるぜ! やはり全部、お話しください! がはは。」

「……。冗談じゃない。」

「ほう? あっ、そうそう、これから準魔界を仕切るガイコツ野郎と顔合わせだった。なかなかの話題が手に入り、とても光栄です! 『あれ』の流通量を伺うついでに、だな!」

「……。脅しとしては、甘いぞ。」

「そうですかね? その後は、そうだった! 風の力を司るあの精霊に、その筋肉を触らせろと命令されています。俺様、あの精霊様には逆らえませんので、必ず、向かいますよ!」


 自慢の筋肉を震わせ、得意げな表情を浮かべながら声を張り上げた。


「……。あの精霊と知り合いだったのか? あのとんでもない……。どこが気に入ったのだ?」

「がはは。たしかにおかしな奴が、なかなか憎めない奴でもあります。自由自在に風を操っているだけあって、とにかく、行動力が凄い! 今現在、どこにいるのかまったくわからない。それを知るのは、俺様くらいなもんです。そうでないと会いにいけませんからね! まあ、そんな仲です。がはは。おっ、そういや……、髪色があの憎き奴と同じだったな。まあ、どうでもよいが。がはは。」

「……。親密なのか? まさか、その精霊に……、話す気なのか?」

「さて、どうしましょうか。でも俺様って、そこまではひどくない。そんなことをしたらさ、とんでもない展開に! 間違いなく、明日の今頃は……魔界のどこを歩いても『かわいい犬が大好き』の話題で溢れてしまいますね。精霊様に口止めは無理ですからね!」

「……。……。待て。そうか、わかった。話そうではないか。」

「おっ、そうこなくては!」


 頭を抱え、観念したかのように、小声で話しはじめました。


「まず、その犬をいただくために、恥ずかしながら、……、いろいろな者が集まる『コミュニティ』と呼ばれるものに属したんだ。」

「いまなんて? こっ、コミュニティ? まじですかっ? そこまでされたのですか?」

「いやっ、そんな目でみつめるな! そこでな……、なんというか……、そこの民らが集まって、その価値を分けるという意味合いで『犬を投げる』という習慣があって、それで……溜まっていくんだ。その……、犬って呼ばれるものが。もともと犬自体は、ただの抽象的な概念であって、その価値に対して、犬と呼ぶみたいだ。」

「犬が溜まる? あっ、投げるって、恵んでもらうってことね! それってさ、魔界を司るあなたのような者が、なんとまあ、民から少しずつ恵んでもらったと? そういうことになりますね?」

「……、おいっ! さすがにそこは、言葉を選べ。どんな者でも受け入れると謳いながら、自分は行動を選ぶようでは、情けない限りだろ? 誇り高き魔の者なら、この程度は、黙って受け入れることが大切だろう。」

「……。わかりました。御意。そういうことにしておきますぜ。」

「それにしても、天をやらされている影響で、精霊達が魔界側につくとはな。おかげで、余計なトラブルが舞い込んでしまったな。こんな屈辱感は久々だが……。まあでも『嫌気』がさしたのかな。」

「それは仕方がないですぜ。まさか、天を空けておくわけにはいきませんから。……、表向きは、そういうことにしておきましょうぜ。そうでないと、精霊様が、あまりにもかわいそうで……。」

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