02
【2】
……どこまでも続く、大草原。
──僕は誰だ?
その自問を繰り返しながら、僕はただひたすら前へと進む。
どういうわけなのか、僕は何も覚えていなかった。……僕は記憶を失っていた。
いったい、ここはどこなのか?
僕はいったい誰なんだ?
いくら歩いても果ての見えないこの草原と同じように、僕の記憶世界にもただ無限の闇が広がっていた。
そこには、何もない。
僕は誰なのか。何度心の中で自問してみても、答えは見つからない。
一条の光さえも射す気配はない。
時ばかりが無為に過ぎてゆく……。
……まったく何も思い出せなかった。
自分の名前さえ分からないまま、僕は広大な世界を彷徨い歩く。
……たった独り。
誰とも会うことがない。
もう十日も歩いているというのに、草原の終わりは姿を現わさない。
見渡すかぎり、まるで大海原のような緑が果てしなく続いている。
ささやかな小屋どころか、灌木の一本さえも見かけることはない。
ここは完全に草だけの、文字どおりの草原だった。
……本当に何もない。何にもないところだった。
こんな場所に……僕はどうやって迷い込んだのだろう。
どうやって、僕はこの緑の大海原にやって来たんだろう。
……不思議でたまらなかった。
けれど。もちろん、それも考えるだけ無駄なことだった。
どうせ、僕は、何も覚えていないのだから……。
……なにも思い出せない。
ただひたすら……彷徨い歩く。
いま僕にできることは、それしかなかった。
だけど。未だ目に映る風景に変化は訪れない。
緑、緑、緑、みどり、みどり…………。
そろそろ僕は限界を感じ始めていた。
……ひどく疲れていた。
僕は、もう……疲れ切っていた。