表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

02


  【2】


 ……どこまでも続く、大草原。

 ──僕は誰だ?

 その自問を繰り返しながら、僕はただひたすら前へと進む。

 どういうわけなのか、僕は何も覚えていなかった。……僕は記憶を失っていた。

 いったい、ここはどこなのか?

 僕はいったい誰なんだ?

 いくら歩いても果ての見えないこの草原と同じように、僕の記憶世界にもただ無限の闇が広がっていた。

 そこには、何もない。

 僕は誰なのか。何度心の中で自問してみても、答えは見つからない。

 一条の光さえも射す気配はない。

 時ばかりが無為に過ぎてゆく……。

 ……まったく何も思い出せなかった。

 自分の名前さえ分からないまま、僕は広大な世界を彷徨い歩く。

 ……たった独り。

 誰とも会うことがない。

 もう十日も歩いているというのに、草原の終わりは姿を現わさない。

 見渡すかぎり、まるで大海原のような緑が果てしなく続いている。

 ささやかな小屋どころか、灌木の一本さえも見かけることはない。

 ここは完全に草だけの、文字どおりの草原だった。

 ……本当に何もない。何にもないところだった。

 こんな場所に……僕はどうやって迷い込んだのだろう。

 どうやって、僕はこの緑の大海原にやって来たんだろう。

 ……不思議でたまらなかった。

 けれど。もちろん、それも考えるだけ無駄なことだった。

 どうせ、僕は、何も覚えていないのだから……。



 ……なにも思い出せない。

 ただひたすら……彷徨い歩く。

 いま僕にできることは、それしかなかった。

 だけど。未だ目に映る風景に変化は訪れない。

 緑、緑、緑、みどり、みどり…………。

 そろそろ僕は限界を感じ始めていた。

 ……ひどく疲れていた。

 僕は、もう……疲れ切っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ