魔法学院入学イベントとは
そもそも、魔法学院入学イベントとは、街の通りを歩いていた私に、お忍びで足を運んでいた王子が一目惚れする、というものだ。いや、王子のくせに従者も護衛も付けず出歩くってどうなの、というのは心の中だけで思っておこう。
ーーーで、一目惚れされた私は強引に王子に城に連れてかれ、なんやかんやあって聖女だと発覚し、魔法学院に通うことになる、というのがゲームでのあらすじ。
小説では、王子はすでに悪役令嬢役に惚れていて、その日は悪役令嬢役と一緒にお忍びデートだったが、悪役令嬢役が私を見つけ、私も悪役令嬢役を見つけ、なんで王子と一緒にいるんだと憤慨し、自分が聖女だと言い張り城までついていくのだ。尚、この時王子の側をずっと離れなかったそうだ。
そもそも、私は街の通りを歩かない。
歩いていると、ナンパ三昧、人攫い上等、襲われかけた数は数知れず、となるからだ。
以前、大きなローブを着込み、フードで顔を隠すという不審者スタイルで出たことがあったが、歩いたところに花が咲いてしまうためすぐバレた。
そもそも、今日は孤児院に夕時までいるため、通りには一切行かない。
イベントがいつ起きるかは知らないが、もうそろそろだろう。
私は、このまま平民として慎ましやかに暮らし、彼と結婚し、孤児院を経営しながら、この聖なる力を孤児院のために使うという、人生計画があるのだ。え?妄想が激しい?私の美貌を持ってすれば、彼もきっと落とせる…多分。
というわけで、今日も今日とてナンパに犬に小鳥が寄ってきつつ、私は孤児院に向かった。
「あら、シャロン。こんにちわ。」
「…こんにちわ、アーロ」
そうそう、愛しの彼はアーロンという。
お互い愛称で呼び合う程親しい仲で、これはもう結婚まで一直線であろう。
「また来てあげたわよ、この私がね。」
「はいはい、子供達はいつものとこにいるわよ」
アーロは、どうも私が子供達目当てで来ていると思っているらしい。そりゃ、子供達も好きだけど、私の最大の目的はアーロに会うことだ。それなのに、彼はいつも微笑んでいるだけで、私とちっともまともに会話してくれない。
嫌われているのかとも思ったが、そんなこと思ったって仕方がないと割り切り、未だ孤児院に通っている、というのが現状である。
「ーーわた、しは、アーロとも、もう少し…」
「そうそう、井戸に水を汲みに行かなくちゃ。子供達のことよろしくね」
ーーーまた、会話を遮られた。
最近アーロは、私との会話を嫌がっているように思えて仕方ない。
早々に会話を切り上げ、どこかへ行ってしまうのだ。
背筋の伸びたアーロの背中を見ながら、涙目になっているであろう目を強引にぬぐい、子供達のところへ駆けた。
「ーーー来たわよっ!この私が!!」
「クソ婆!!」
「シャロン、お歌ー!!」
「花かんむり作ったの、見てー」
一斉に飛びかかってくる子供達を相手にしているうちに、不思議とさっきの不安な気持ちは無くなって、いつのまにか涙も引っ込んでいた。
クソ婆なんて言っているクソガキを軽くいなしつつ、歌を歌う。空の青へ捧げる賛美歌。
モヤモヤうじうじした気持ち悪い私の代わりに、明日もここに来れば、明日には明日の私に惚れるはず、と世界一美しい私に切り替え、私は夕時まで子供達とぎゃあぎゃあ騒ぐのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「道に、花…。それに、あの美しい容姿、なにより、孤児院に向かっていた。おそらく、彼女で間違いないね」
「はい、殿下」
透き通るような金色の髪を指先でくるくるといじりながら、美しい少年は微笑んだ。
「彼女を、ここに連れてきて。」
「で、殿下。ですが、スカーレットお嬢様は…」
「え?あんなの、いいよ。面白いから一緒に居たけど、もうそろそろ飽きちゃうし」
丁重にお送りして、といって少年がさっきと変わらぬ表情で指示すると、栗色の髪の男性は、眉を歪めつつ短い了承の返事を返した。