はい、プロローグね
ーーー乙女ゲーム、というのをご存知だろうか。
一般的に言えば、女性を対象とした恋愛シュミレーションゲームで、主人公、俗にヒロインと呼ばれる女主人公が男性キャラクターを攻略し、恋愛シュミレーションを楽しむという旨である。
私の偏見を含んで言うなら、キラキラした世界で、スクラロースよりも甘ったるい恋愛、それも画面の向こう側で行われる物語をただ見るだけのゲームであるが、妹にそれを言うといつも頭を叩かれた。
だが、こんな私でも乙女ゲームを舞台とした小説を読んだことがある。妹に勧められて読んでみたそれの内容は、悪役令嬢に転生してしまった主人公が、どうにか自分が断罪されないことを目指して、フラグを叩きおりつつ人生を謳歌するというものだった。
さて、そんな物語には、本来ヒロインであった者がいる。そのヒロインも、所謂前世の記憶を所持した転生者で、自分がヒロインであるため、なんでも許されると勘違いし暴走した彼女は、結果最後に悪役令嬢に逆に断罪される、という内容だった。
さあ、察しのいい人にはもう分かるだろう。
私は、そんなヒロイン役の悪役令嬢に転生した。
よく、頭を打って前世を思い出す、という設定をよく聞くが、私はそうではなく、成長し、自我が芽生えるのと同時に前世の記憶も徐々に蘇ってきた。
気分?勿論最悪であるーーーとは、言い切れなかった。
なんせ、ヒロイン役の悪役令嬢である彼女ーーーいや、私、シャーロットはとんでもなく美少女なのだ。
しかも、私は設定上、聖女の生まれ変わりで、聖女の力を引き継いでいる。最終的に、あまりの性格の醜さから女神に見捨てられ、聖女は悪役令嬢役のヒロインであるスカーレットに任されるのだが、今は私が聖女のため、道を歩けば花が咲き、座ればナンパ、立っても小鳥達のキスの嵐。いや、あれほんとつつかれるのさ、痛くはないけど臭いから勘弁してほしい。
犬も鳥も人間も、私を一目見れば目をハートにして手に入れようとしてくる。魅了の魔法でも無意識に使ってるのかと疑念を抱いても、魔力は感じられないし、強いて言うなら溢れてならない聖の力が鬱陶しい。
なんでも、先代の聖女がとんでもなく聖なる力を秘めていたが、ストーカー男に16の時殺されてしまい、莫大な量の聖なる力が私にそのまま授けられたのだという。まあ、最終的にはスカーレットの物だけど。
それで、今年16になる私には重大な問題、あるいは危機が迫っていた。
ーーー魔法学院入学イベント、である。
私は平民で、雑貨店の経営をしている両親の手伝いをしている。
手伝いといっても、私が一言呼び込めば、男女問わず高い品を競い合うように買って行ってくれるので、その場にいるだけで儲かる。なので、私達一家は平民だが、平民にしては余裕を持って生活している。
最近の私のお気に入りの場所は、近くの孤児院である。
今も、その孤児院に行くため、花を咲かせながら道を歩いている最中だ。
「ねえ、俺とお茶でもーーー」
「結構よ」
「それなら、アタシの家にーーー」
「遠慮するわ」
「ワン!!ワンワン!ハッハッ」
「あっちへお行き」
「ピピピッ、ピピッ」
「…」
うんざりしながら、やっと孤児院につく。
ボロい教会を孤児院として使っており、色あせたステンドグラスからしか光のささない先に、彼はいた。
「ーーーあら、また来たのね、シャーロット。」
白いシャツと、白いズボンに身を包んだ男性。
糸のように細く、黒く染まる髪が淡い光を受けて輝き、空の青とも、海の青ともまた違う碧眼が、わたしを見つめていた。
女口調で話す彼は、この孤児院を経営している張本人で、私のーーー、
「来てあげたのよ。この世界一の美姫がね。」
「ったく。生意気だこと」
ポンと、彼の手が私の頭の上に置かれる。
自身の淡い金糸の髪が、さらりと揺れた。ほのかに香った石鹸の匂いが、鼻を掠める。
途端に、私の思考は真っ白になった。
「〜っ!!気安く触るわじゃないわよっ、私は世界一の美少女なんだからっ」
「はいはい。」
真っ赤に染まったであろう顔を伏せながら、子供達の元へ向かった。
彼は、彼はーーーそう、わたしの、初恋の人であり、今もなお慕う愛しく恋しい男性である。
ーーー「クソガキ共、来てやったわよ!世界一の美姫がね!!」
「あ、クソ婆だ!」
「クソ婆を退治しろー!!」
「シャロン、お姫様ごっこしよー!!」
「歌ってー!!」
「もっとわたしを敬いなさーい!!わたしは、聖女なんだからねっ」
そして、いつか、彼と結婚したら、あんた達の母親代わりなんだからっ。