ロボットテスト〜短編〜
A氏は博士であり、ロボット工学についての知識では一喜一憂できる程の人物である。
そんな彼は、4ヶ月程先に行う家事代行用ロボットの運用に向けて、2回のブラックボックステストの計画を立てていた。
テストの内容は至って簡単でA氏が家を留守にしている間に家事をさせ、結果のみでその善し悪しを判断するというものである。
早速A氏は外で時間を潰す為に、ロボットを起動させた後、鍵を開けたまま家を後にした。
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A氏は時間を潰す為に近場のカフェで過ごすことにした。
A氏が施したプログラム上、
戸締りを確認をする、
洗濯機を回す、
掃除をする、
洗濯物を干す、
の順に行動をすることになっており、
A氏は、戸締りが出来ているか、部屋が綺麗になっているか、洗濯物が干されているか、という観点をどのように採点するかを決めている。
その採点の仕方を考えていると、ある名案が浮かんだ。と言っても、そこまで大したことをする訳では無いようだった。A氏はお掃除専用ロボットや、洗濯専用ロボットを既に一般家庭で動員させているということもあり、働かずともお金は入ってくるようになっている。だから、お金には困らない。という訳で、実際に家事代行ロボットを動員させてくれる方を日給約3000円とメンテナンスありという条件で探すことに決めた。
最初からそうするべきだとは思ったが、まだテストを始めてから3時間しか経っていないからなのか、モヤっとした気持ちにはならなかった。
そして、注文した抹茶ラテをすぐさま飲み干して、帰路に着いた。
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家の前に到着するや否や、玄関のドアが空いていることに気がついた。鍵がかかっているかの確認の為のプログラムを作ったのは初めてだった為、鍵がかかっていない場合はそこまで気にしないようにしようと思っていたが、やはり、自分の家の鍵がかかっていないというのはとても緊張感を感じるもので、気にしていた。ちょっと怖いという感情を抱きつつも、そっとドアノブに手をかけて、開けると悲鳴をあげる立て付けの悪いドアを開けた。出掛けた時間はだいたい夕方の4時辺りだったので、電気が消えている部屋の中は暗く、奇妙な雰囲気を醸し出していた。
A氏はよく好んでホラー映画を見ているのだが、人間の怖さというのには驚くほど臆病だったのだ。
自業自得とはいえ、犯罪の香りがする気がするのはA氏にとってはとても心臓に悪かった。
そんな状況から脱却すべく、恐る恐るLEDライトのスイッチに手を伸ばした。そして、その瞬間に電気がつくと共にA氏は跳ね上がりながら壁に背中を押し付けた。電気がつくコンマ数秒前に家の奥からなのか、庭からなのか分からなかったが確かに物音を聞いたのだ。そして、電気がついて見えないものが見え始めたはずなのに、何だか何も見えていないような感覚を覚えた。ここまでの恐怖を感じると不思議なもので、恐怖が好奇心に成り代わる。一体何が起きているのか?ただ、ロボットが暴走しただけなのか?はたまた、想像通り誰かが家に侵入しているのか?そんなことを考えるようになるからだ。そうなると、冷静になった訳では無いが、冷静になったかのように周りがよく見えるようになる。
さっきまでは気づかなようだったが、A氏は想像では家の中が綺麗になっているはずだが、ほんの少しだけ汚くなっているように感じる。ロボットが暴走したと言うには綺麗で、誰かが盗みに来たと言うには明らかに見てわかるような高価な品は家を出る前の状態から何も変わっていない。
だとすると、盗みという線はほとんどない。
となると別の線。
そこで、A氏はあることに気づく。
一度玄関のドアの鍵を開けると、閉まる時に一度オートロックがかかり、それから2時間の間に鍵を開けてもオートロックは掛からない。これは、家に人がいる時にオートロックが毎度かかると出入りがめんどくさいという点を解消する為のシステムである。
これを元に考えると、ロボットは誤動作をしている。
じゃあ、奥で音を鳴らした犯人はロボットなのだろうか?物音がしたのが一度だけというのは少し気がかりだが、人がいない確率がここまで低くなれば、少し安心する。こうなれば、この場は僕が制したようなものだろう。
A氏はそんなことを考えながら、急ぎ足で奥へ向かった。すると、驚きと好奇心を同時に体感した。特に驚きが勝っていると言うべきなのか、えっ?という声と共にその瞬間A氏は硬直した。
そこには、何事もなかったかのように停止したロボットがA氏の今までの心配事を吸い取られたのだ。別にこんな事は驚くことでも好奇心を持つ事でもない。ただ、今回のこの状況がA氏からすれば途方もないくらい予想外の状況なのである。
そして、硬直が解けてからA氏は大きな声で笑い始めた。
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これで今回の話は終わりです。
この後、A氏はどうなったと思いますか?
こんな平和な終わり方でいいんですか?
まあ、今回の話は終わりなので、これからA氏がどうなろうと関係ないですよね?
でも、これは言っておきましょう。
あなたも後ろにはくれぐれも気をつけてくださいね!
では、さようなら。