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爆弾拾いがついた嘘 【旧バージョン】  作者: 生津直
第4章 命賭す者
90/116

90 リスク

「ミレイが何年か前に勘付いたんだ。父親が俺と一緒に仕事をする時は危険度が高いってな。ま、そんなことは数年に一度あるかないかだが」


 檜垣が新藤と一緒に仕事をするというのはつまり、全国でもトップクラスの二人の処理士を同時に駆り出すということであり、それだけの必要性がある任務という意味になる。一希は、理知的でどこか寂しげなミレイの眼差(まなざ)しを思い出した。


「賢い娘でな。親父を出動させまいとして車のキーを隠したこともある。その時は芳恵さんがミレイを押さえ付けて、その間に俺の車で檜垣をさらうしかなかった。残酷だろ」


 本当は芳恵だって、夫をそんな危ない仕事に行かせたくない気持ちは同じだろうに。


「カイトもああ見えてバカじゃない。幼稚園の頃、画用紙の全ページに爆弾の絵を描いてな。庭にばらまいて、一枚ずつ破って回ったそうだ。親父を手伝ってるつもりだったんだろう。あいつは人の役に立つのが好きだからな」


 いつかの似顔サラダを思い出す。


「なんか……本当の親子みたいに見えます。先生とあの子たち」


「そんなこと言ったら檜垣がひがむぞ」


「そうですね。でも、先生も檜垣家の一員って感じがするんです」


 新藤はまっすぐ前を向いていた。その目の中を、街灯の明かりが次々に通り過ぎていく。


「あいつに万一のことがあったら、あの家族の面倒を見るのは俺だ」


「そういう……約束を?」


「昔一度だけ、あいつがそんなことを言ってきた。しかし、代わりになれるわけじゃなし、何ができるわけでもない。財布の足しになってやるぐらいがせいぜいだ。ま、あいつにはお前のケツ拭いなんか冗談じゃないと言っておいたけどな」


 たった一度のはぐらかしのようなやりとりが、生涯を懸けた(ちぎ)りに代わる。こんな話を聞くと、これはやはり男の世界なのではないかという気がしてくる。女が髪を振り乱し、命を賭して職務を果たしたところで、何だか(さま)にならない気がしてしまうのだ。


 (みにく)い嫉妬に(おちい)るまいと、一希は必要以上に茶化した。


「財布の足しなんかいらないって言われますよ。檜垣さんほど職歴が長くて腕が良くて、社会貢献活動の実績も豊富となれば、遺族年金だってはずんでくれるでしょうし」


「いくら出るか知ってるか?」


「いえ……」


(すずめ)の涙にもならん」


「そうなんですか?」


「もともと多くはなかったが、悪用した奴がいたもんで、それ以来ばっさり削られた」


「悪用?」


「末期癌で余命宣告を受けた処理士が、労災を装って業務中にマリトンで自爆しやがった」


(なんてことを……)


「妙な口実を作って人払いして、一人になったところでドカンだ。本人としては家族に少しでも楽をさせてやりたかったんだろうが、あまりに見え透いてた。そうでなくても、事故か故意かぐらいは軍と警察が本気で調べればわかるもんだ。お陰で同業者はいい迷惑だ」


 病気は気の毒だが、自殺するにしても不発弾を使うというのは許せない。住民は避難させてあるとはいえ、他の作業員を巻き込んでしまうおそれは常にあるのだから。


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