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爆弾拾いがついた嘘 【旧バージョン】  作者: 生津直
第3章 血の叫び
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87 添い寝

 風呂から上がった一希は、しばらく片付けを手伝った。二階は大入満員。興奮して眠れない子供たちにしばらく付き合い、ようやく寝付いたのを見届けて一階に下りる。居間では康雄の一家と綾乃を中心に、声だけを落として話はまだ尽きぬ様子だ。


 座敷はすでに寝静まっていた。豆電球だけが(とも)り、奥半分に敷かれた布団で大人三人が寝入っている。手前の畳の上に直に丸まっているのが新藤であることは、タオルケットを膨らませている輪郭ですぐにわかった。


 そっとしておいてやりたいとも思うが、かわいらしいウサギがプリントされた子供用のタオルケットにきっちりと全身を納めて寝息を立てる新藤があまりに頼りなく、いじらしく思えて、とても放っておけなかった。


 一希はその(かたわ)らに腰を下ろし、ゆっくりと上下する脇腹を見つめた。座敷の隅に、掛布団一枚とタオルケット数枚が積んである。ここで寝てしまおう、と思った。新藤の隣で。


 この部屋に二人きりではないことが気を大きくさせたのかもしれない。それに、他に場所がなかったという言い訳は決して嘘にはならない。残りの人数を考え、一番小さいタオルケットを拝借すると、その柄はクマだった。


 ウサギのタオルケットからは日に焼けた右手だけがわずかに(のぞ)き、顔の前でタオルケットの角を握り締めている。その袖口は、一希が風呂敷に包んで持ってきたパジャマだ。


 一希はそっと横になり、気付けば自分の左手をそこに重ねていた。新藤のパジャマの袖と素肌の境目が、一希の手に温められていく。愛しさとは、幸福感以上に感傷だと思った。


 手の甲に規則正しい呼吸を受け止めながら、一希は眠りに落ちていった。




 翌日はさすがに皆疲れていたが、子供たちに()かされて昼前には起き出し、午後には遠方の者から順に家路に()いた。


 兄弟が家の前に(そろ)った時、康雄がよく通る声を張り上げた。


「次、集まるのは建坊の結婚式だな」


 皆がわっと冷やかしの声を上げ、いくつかの視線が一希の方にも投げられた。慌てて否定しながらもつい赤面してしまう一希の胸の内を知ってか知らずか、新藤は平然と言う。


康兄(やすにい)の葬式の方が早そうだ。焼くんだったな。みんなおぼえとけよ」


 つくづく縁起を気にしない兄弟だ。幸い康雄の奥さんと子供たちはその場にはいなかった。


 挨拶らしい挨拶もなしに車に乗り込む新藤を追いかけながら、一希は明け方に目覚めた時のことを思い出す。


 うつぶせに長くなった新藤を見るのは初めてだった。いびきになりそうでならない深い呼吸音。かろうじて尻の上に載ったタオルケット。髪の乱れた後頭部。


 そして、無造作に投げ出された右手の下には、一体いつの間にそうなったのか、一希の左手がすっぽりと納まっていた。


 これまでに経験がないほど、穏やかで、温かくて、美しくて、時間が止まったようで、現実離れしたひとときだった。


 あるいは、夢だったのかもしれない。


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