83 混じりもん
昭雄の家に戻ると、いよいよ酒盛りが始まる。仕出し屋から豪華な弁当とケースに入った瓶ビールが大量に届いていた。子供用にオレンジジュースと麦茶があったから、新藤には麦茶をと思ったが、ふと見ればすでにビールのグラスを傾けている。
普段家では全く飲まないが、下戸ではないことがこれでわかった。埜岩から急な呼び出しがあれば、車で出ていってひと仕事する可能性がある。それだけのことだったのだ。
皆で土葬を間近に見た感想を述べ合ううち、
「俺ん時は焼いてくれな」
と次男の康雄が高らかに意思表明した。
「何よ、あんた縁起でもない」
と、妻がたしなめる。
「何言ってんだ、親が死んでんだぞ。これ以上縁起悪いことがあるか。いっそ縁起悪いことは今日のうちに全部済ませたらいい」
賛同と非難の声が五分五分で上がる。そんな中、
「あたしはお母ちゃんの隣ね」
と綾乃。
「お前おっかなくないわけ? あんな暗ーいとこでさ。雨でも降ってみ」
「だって、自分が死んだ後のことなんかわかりゃせん、ってお母ちゃん言ってたじゃない。あたしも感覚としてはそれに近いっちゃ近いし、お父ちゃん火葬で、あたしたちまでみんな焼かれちゃったら、お母ちゃん一人でどうすんのよ」
父親は火葬。なるほど、彼らの父親はワカだったということか。
「どうするもこうするも、死んでんだっつーの。それこそわかりゃせんのでしょうが」
鈍い笑いが起きる。スムの葬儀らしくなってきた。故人は在りし日の姿のままさっさと墓に入ってしまい、遺族は本人抜きで酒盛りをしながら好き勝手わめき合う。笑いは許され、湿っぽさはむしろ嫌われる。
「ま、でも、どっちにするか選べるってのは、あたしたち混じりもんの特権かもね」
「混じりもん」という言葉に一希はドキッとした。すると山下が、
「なあに、偉そうに。別に混じりもんじゃなくたって、選ぶときゃ選ぶさ、ねえ」
と、隣にいた一希をつつく。一希は一瞬迷ってから打ち明けた。
「あ、あの……私も実は、混じりもんなんです」
山下だけに言ったつもりが、気付けば部屋中の注目を浴びていた。新藤だけがあさっての方を向いている。
「そうなの?」
「どっちがどう?」
「父がスムでした」
「ちなみに、どう? あんたは焼くの?」
と次男が話を戻し、奥さんに尻を引っぱたかれている。
「バカ! こんな若い人にそんなこと」
「まだちょっと考えてませんけど……でも、母はワカでしたが、土葬を選んで先に入りました。隣を空けといてもらって、今は父がそこに」
「あら、ご両親とも、もう?」
「お若いのに……」
口々に感想を述べた皆の目が何となく新藤の方に向く。一希がどういう経緯で今日ここにいるのかは皆ざっと聞いているだろうから、独り身の新藤が一体何を思って両親を亡くした年頃の娘を引き受けているのかと、好奇心が湧くのも当然だ。新藤はただ物憂げに乾燥昆布をしゃぶっている。
「ま、血に関係なく各々好きにすりゃあいいんだよね、ほんとは」
「三日月が廃止されたら、スムだワカだっていう境目も薄くなってくんじゃない?」
「お母ちゃん、三日月抱えてよく頑張ったよな」
「本人は何の引け目も感じてないどころか、むしろ誇ってるみたいなとこあったけどねえ」
「スムのこと蔑む発言する奴がいようもんなら、わざわざ襟元おっぴろげて啖呵切ってたもんな」
それを聞いて一希は思わず苦笑する。菊乃の剣幕が目に浮かぶようだ。
あの世代なら左胸に三日月がある。一希の父親は極力隠して生きた。隠す感覚の方がどちらかといえば普通だ。




