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爆弾拾いがついた嘘 【旧バージョン】  作者: 生津直
第3章 血の叫び
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79 訃報

 翌日、歯医者と美容院の後、早めの昼食と買い物を済ませて帰宅した一希は、玄関の鉄扉を開いた瞬間、いない、と直感した。気配か物音、さもなければ処理室の赤ランプで、新藤が在宅の時は大抵すぐにわかる。


 早朝から監督役でデトンの安全化に出かけ、一希が起きた時にはもういなかったため、今日はまだ顔を合わせていなかった。


 それにしても、とっくに帰宅しているべき時間だ。いつもの寄り道にしては長い。一希は黙って気をもむぐらいならと、電話番号簿を()った。埜岩の担当直通の番号にかける。


〈業務管理、東山(ひがしやま)です〉


「あ、お世話になっております、不発弾補助士の冴島です。あの、処理士の新藤が今日デトンの安全化を(うけたまわ)ってるはずなんですが、ちょっと戻りが遅いようで……」


〈ああ、お陰さんで無事片付いて、現場はもう引けてますよ。ブツも届いてます〉


「そう、ですか。わかりました。すみません、お騒がせして……」


〈あ、そうそう、ついでにちょっとお尋ねしますがね。来週のザンピの交代要手配ってメモが入っとるんですが、これ新藤さんでお間違いないですか?〉


「えっと……」


 カレンダーを見ると、確かに一週間後にザンピードが予定されている。


「あ、交代、ですか? 私は特に聞いてませんが」


〈あ、そう。いや実は電話受けたのが新入りの名前になっとるもんで、もしかしたら補助士の安藤(あんどう)さんとごっちゃになったかと思いましてね。ま、二時の会議で話が出るでしょうから、いいですわ〉


 とりあえず礼を述べて電話を切った一希は、妙な胸騒ぎを覚えた。帰りが遅いのもその件と関係があるのではないか。例の偏頭痛なら座敷で寝ているはずだし、一週間後の休みを今から取ることはないだろう。ただごとではない。そう直感した。


 買い物袋の中身を片付けながら、もしや昨日残したボタンのせいではあるまいかと不安に駆られる。


 気もそぞろなまま洗濯物を取り込んでいると、電話が鳴った。急いで受話器を取る。


「はい、新藤です」


〈冴島、俺だ〉


「先生! どうされました?」


〈……悪い知らせがある〉


 一希は呼吸を整えて待った。


〈菊乃婆さんが……〉


 嫌な予感ほど的中する。


〈今朝、亡くなった〉


 一希は首を振って否定した。新藤にはどうやらそれが見えたらしい。しばし事実を呑み込む時間が与えられた。息を吸った瞬間、一希の喉からヒッと高い音が漏れた。


〈くも膜下出血、だそうだ〉


 そんな言葉には何も感じなかった。理由が何であれ、もう生きていないのだということを理解するだけで精一杯だった。


(どうして? どうして……あんなに元気だったのに)


 電話の向こうに新藤がいると思うと余計に泣けてくる。


〈冴島〉


(先生……)


 声を出そうとして咳き込み、そのはずみでいくらか正気を取り戻した。


「先生、今どちらに?」


日代平(ひよだいら)だ。三男の家に集まってる〉


 新藤は現場から直接向かったのだろうが、これから通夜だ葬儀だとなれば、何日かは帰ってこないだろう。身の回りの物を届けてやらなくていいだろうか、と案じたその時、


〈お前も見送ってやれ〉


「あ……はい、もちろんです」


 葬儀の日時や斎場の名前をメモしなければと手を伸ばしたが、その必要はなかった。


〈日没前には埋葬される〉


(……え?)


〈日没自体は五時過ぎだが、四時にはこの家を出て墓地に向かう〉


 反射的に壁の時計を見上げたが、現在時刻の情報は一希の頭に入ってこなかった。日の入り前に埋葬。亡くなったのが夜間であれば翌朝の日の出より前に。スム族の流儀だ。もっとも、近年では伝統にこだわらず、ワカと同様に火葬を選ぶ者も出てきていると聞くが。


「菊乃さんって……」


〈ああ。やっぱり聞いてなかったか〉


「そういうことは何も……」


〈まあ話題になる場面がなければそれまでだからな。本人は別に隠してたわけじゃない。……隠すような人じゃない〉


「ええ」


 それはわかる。それに、もし隠していたとしても責める理由はなかった。


〈三十分後に迎えの車が行く。一晩泊まることになるが、特に準備する必要はないぞ。みんな着の身着のままだ。喪服とかそういうのも気にしなくていい。金もいらん〉


 気にすることすら忘れていたが、スム流なら一希は二度経験しているから話は早い。


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