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爆弾拾いがついた嘘 【旧バージョン】  作者: 生津直
第3章 血の叫び
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76 灯台

 車は混み合った道を逃れて再び裏道を走り、間もなく海岸沿いの道に出た。歩阪(ほさか)湾にかかる橋の上にも今日は人だかりができ、車が連なっている。しかし、新藤は橋へ向かうカーブを尻目に、海岸を忠実になぞった。


 いつしか街の灯が遠ざかり、道も()き始める。分岐点に差しかかると、車は県道をそれて崖に向かう小道に入った。この先には灯台しかない。


「先生、ひと仕事って……こんなところで?」


 まさか今からもう一件探査をこなすつもりでもあるまいが。


「ああ、まあ大した用じゃない」


 新藤は灯台のすぐそばで車を停めた。


「もう閉まってる時間じゃ……」


「ちょっと待ってろ」


と降りていき、時間などお構いなしにドアを開いて中に声をかけている。しばしのやりとりの後、新藤は一希の方を向き、降りてこいと手で合図した。


 行ってみると、灯台の中にいたのは年配の男性。背丈も幅も、新藤の半分ほどかという小柄さだ。丸首の白い肌着にスラックス。おそらく一日の仕事を終えて(くつろ)いでいたところなのだろう。一希を見るなりニカッと笑い、


「今ね、うちのがつまみ持ってくっから」


「つまみって……あの、どうぞお構いなく」


「ほら、上がった上がった」


 上機嫌の灯台守(とうだいもり)に促され、新藤の後に続いて鉄の螺旋(らせん)階段を上る。二人が上るにつれ、どこかへ電話をかけ始めた小さな後ろ姿が(うず)の底へと沈んでいく。


 上り切って外に出ると、夕暮れの潮風が肌に心地よかった。祭りのお囃子(はやし)が風に乗って微かに届く。人混みを離れてほっとしたのはいいが、こんなところで一体何をしようというのだろう。


「お知り合い、ですか?」


「まあな」


 てっぺんのドーム型の部分を丸く囲む展望台を、新藤は伸びをしながら徘徊(はいかい)する。何かを指示される気配もないため、一希も柵に囲まれた通路をぐるりと一周した。遠くから見るとずんぐりした小さな灯台だが、意外に高さがあった。あるいは崖自体の高さがそう錯覚させるのか。


 眼下の岩場に打ち付ける黒い波を見つめていると、先ほどの灯台守が割烹着(かっぽうぎ)姿の夫人を伴って上がってきた。


「あっ、こんばんは。お邪魔してます」


「いらっしゃい。よかった間に合って」


と夫人も満面の笑み。


(間に合って?)


 一希が首をかしげたその瞬間、稲光(いなびかり)のようなものが走り、辺りがぱっと明るくなった。思わず息を呑んで振り向くと、目の前の夜空に大輪の菊玉。ズバンッ、とキレのよい音が響くと、それが合図だったかのように黄金がしだれ、目一杯尾を引いて消えた。


「おっきーい!」


と夫人の声。


「去年のよりでかいかね?」


「いや、近いんでねえか? ほれ、埋め立てだの何だので、打ち上げ場所も何かもめたじゃろ。まあ座んねえか」


と言うなり、率先して地べたに腰を下ろす。夫人ももんぺと割烹着のままそれに続き、コンクリートの上に直接、枝豆のタッパーやら袋入りのスルメやらを広げ始めた。茶筒を開けて一希に差し出しながら、顔は花火の続きを注視している。


「あ、すみません、どうも……」


 茶筒の中身はおしぼり三本。一希は一つ抜いて残りを師匠に回す。新藤はすまし顔で受け取り、夫妻のそばに茶筒を置いて自分の分で手と顔を拭い始めた。


「先生、仕事って……」


「ああ、忘れるとこだった。後でこれを渡してやってくれ」


 新藤の懐から出てきたのは折り畳まれた一枚の紙。「不発弾撤去作業に伴う避難・交通規制のお知らせ」とある。なるほど、来月予定されている安全化処理でこの辺りが避難区域になるのだ。しかし、もう二、三日もすれば同じチラシが自治体から各戸に配られるはず。わざわざ処理士が持参するなんて話は聞いたことがない。


(こんな口実作ってまで……私、そんなに物欲しそうな顔してたかな?)


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