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爆弾拾いがついた嘘 【旧バージョン】  作者: 生津直
第3章 血の叫び
62/116

62 括り

 自分の半分はスム。それを一希は、どう受け止めればよいのか未だによくわかっていなかった。三日月が刻まれていないというだけで、スムとは違う気になっている。が、ワカでもない。どちらでもなく、どちらでもある。


「どっちかだったらまた違ったのかもしれませんけど、時々どっちの目線に立てばいいのかわからなくなるというか……とても頼りない気持ちになることがあるんです。こんなことならいっそ、三日月があった方がよかったんですかね?」


「簡単に言うな。父親の苦労を見てきただろ」


 一希は口をつぐんだ。体にこの印があるというだけで入浴を禁じられる。入店を断られる。雇ってもらえない。そんな時代がようやく今変わりつつある段階だ。この国では、スムに人権があるという発想自体がまだ新しい。


 外で憤懣(ふんまん)をため込んだ父は、家の中ではいつも()()()()()()()()()()()。しかし実際は、世帯の一切を(にな)う母に頭が上がるはずもない。


 そんな父を、一希は心から愛し尊敬していたとはとても言えない。心のどこかでいつも(あわ)れんでいた。それでいて、誰も助けてはあげられない。父を救ってやれないことが、一希に罪悪感を抱かせてもいた。


「人類の壮大な罪を償おうって人間が、自分から同じ罪に(おちい)ってどうする?」


(同じ罪……)


(くく)りを忘れろ、ですね」


 牛骨に歯を立てていた新藤の頬がひゅっとへこむ。


「そうだ。よくおぼえてたな」


「でも……難しいです」


「まあな」


 人間一人という単位以外の括りに(とら)われ、それゆえに平等でない感情を持つという罪。スム族も括りなら、ワカ族もまた括りであり、混血だって一つの括りだ。


「どうすればいいんでしょうか? 括りに囚われないようにするには……」


「さあな。俺だって別に自分にできることばかりを説いてるわけじゃない」


(え……?)


 一希が考え込んでいる間に、新藤は見事に全ての皿を空にした。骨の一番硬いところがわずかに筋状に残ってはいたが、この程度ならスムの集落で育った純血のスムだって残す。


「あの、まだありますけど、お代わりされます?」


 意地悪で言ったわけではない。「嫌いじゃない」程度ではとてもこんな食べ方はできないという確信があった。


「いや、残りはお前の分だ。その代わり、そのうちまた作ってくれないか?」


「本当ですか!?」


「外じゃなかなか本格的なのは食えんからな」


 新藤はいつどこでスムの味を覚えたのだろう。一希は自分の中に芽生(めば)えた疑念を、瞬時に否定した。


(まさか、ね……)


 新藤の父親は火葬されたと報道されていたし、もともとワカの軍隊に所属していた人なのだから、ワカであるはず。しかし、新藤の生みの母親の情報はない。


「お前の飯は何でもうまい」


「え? あ、ありがとうございます」


 珍しく新藤に褒められた照れ臭さは、ほんの数分前の屈辱感を打ち消すのに十分だった。


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