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爆弾拾いがついた嘘 【旧バージョン】  作者: 生津直
第1章 弟子入り
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16 テスト

 それから何度か、一希は指定された日時に新藤宅を訪れ、言われるまま勤勉に雑用をこなし、その合間に(すき)を見ては新藤を質問攻めにした。


 新藤が忙しい時は、彼が道具をいじり書類に向かう姿を見るだけでも「処理士の仕事」のイメージが湧いて心が浮き立った。


 そんなある日。


「お前、生活はどうしてる?」


「生活……」


「親はいないんだろ。どうやって食ってんだ? アルバイトでもしてんのか?」


「あ、はい、平日の朝に公民館のお掃除を手伝ってまして、週三回は授業が終わってから工場の食堂でお給仕を……と言ってもお給料は微々たるものですけど」


「そんなんで早川の学費が出せるもんなのか?」


「あ、学費はですね、奨学金と、親の(のこ)した貯金で何とか」


「家は?」


「学校の寮です」


「なるほど。明日は暇か?」


「はい」


「朝十時にまた来い」


「はい! ありがとうございます!」




 ブザーを鳴らしはするが、一希が来る時間には玄関の鉄扉が開け放たれているのが常となっていた。が、今日は入った瞬間、目の前の光景に目を見張った。


 ソファーが脇へよけられ、空いた空間に、直径五十センチ、長さ二メートルほどの鉄の(かたまり)のようなものが鎮座していた。古峨江(こがえ)では幼稚園児でもこれが何だか答えられるし、その危険性を教え込まれている。


「あの、これ……」


「心配いらん。模型だ」


「一トン、ですか?」


「一応そういうつもりではある」


 スム族が投下したデトンの模型。確かに目が慣れればはりぼてであることは見て取れた。これなら重さも大したことはない。


 しかし、信管などの可動部はなかなかリアルに再現されているようで、学校で使われているちゃちな模型とは似ても似つかなかった。


 この実物大の模型を中心とし、綿か何かが詰まった枕ほどの大きさの白い布袋が円状に配置されている。土嚢(どのう)に見立てているのだろう。


「土嚢の高さは実際には三メートル。このデトンは信管に問題があって遠隔抜きになるという設定だ」


(遠隔抜き……)


 安全化のためには信管を抜く必要があるが、信管が特別長くて重い場合などは途中で少しでも傾くと中で引っかかって抜けなくなる。その場合は危険回避のため、直接手で行う代わりに仕掛けを使って離れた場所からこれを行うことがある。そのことは一希も知っていた。


「遠隔設定をやってみろ」


「え? あ、私が、ですか?」


「他に誰がいるんだ」


「あ、すみません……」


 やってみろと簡単に言うが、そういう手法が存在するという知識がかろうじてあるだけで、まだ学校では具体的に計算法や設定法を習ったわけではない。いつもの雑用のつもりで来た一希は、思いがけぬ展開にごくりと(つば)を飲む。


(これ、テストなんだ。新藤さんの……)


 助手になりたいならまずこれをやってみろと、チャンスを与えてくれているのだ。


「見ての通り、危険性はない。ただし、全てが本物で活性状態だという前提で作業しろ」


「はい」


 つまり、ちょっとした衝撃で爆発しうると想定しなければならない。


「そこの二箱の中身は好きに使っていいぞ」


 布袋が描く円の外側に、プラスチックの箱が二つ。その中にはあらゆる道具が詰め込まれている。


「あの、本物だと思って、とおっしゃいましたよね?」


「ああ、そうだ」


「本物だったら、遠隔抜きを試みて、万一途中で信管割れとか、やっぱり抜けないとかで、急遽(きゅうきょ)爆破に切り替えになった場合、ここでそのまま爆破することになるかと思うんですが」


「そうだな」


「本当なら屋外で、風向きを確認して、半径一キロとかを立ち入り禁止にして、土嚢の周りにも防護壁を……」


「立ち入り禁止措置は済んでるという前提だ。環境、気象条件も今日のところは整っていると仮定していいぞ」


「……あの、この状態からってことですか?」


「どういう意味だ?」


「仕掛けがもう組み立ての途中、のようにも見えるんですけど」


 先ほどの二つの箱の中の部品は一見バラバラだが、二つ三つがすでに組み合わされているものや、中途半端に引っかかっているものもある。


「つまり?」


「えっと、たしか教本では、まず部品を一つひとつ確認するっていう手順が……」


「必要な手順だと思うんなら実行したらどうだ?」


「はい、じゃあ念のため。あの、手袋をお借りしても……」


 箱の中には見当たらない。


「どんなやつだ?」


 摩擦と破片の両方に耐えるものがあれば一種類で済む。


「Bの……四十を」


「四十は今切らしてる」


「じゃあ、三十台のどれかで……、あとベチレジンをいただけますか?」


「なるほど。コーティングして代用するってことだな」


「はい。まあ、時間はかかっちゃいますけど……」


「あ、四十あったわ。これ使っていいぞ」


 新藤の足元の段ボール箱から取り出された手袋をはめると、初めての感触に胸が高鳴った。しかし。


「あの、ちょっと気になることが……」


「何だ?」


 一希は右手に滑車、左手にワイヤーを持ち、新藤に見せる。


「どうかしたか?」


「これ、確か大陸またぎの組み合わせで使うのは避けることになってたかと……」


 与えられた滑車とワイヤーの中には生産地が一致する組み合わせがなかった。これも教本での自習レベルの知識で、確信はない。新藤は後ろの棚から別の滑車のケースを取ってきた。


「これでいいか?」


「あ、ありがとうございます。あと……」


「何だ、まだ何か文句があるのか?」


「この信管って、抜いた後は廃棄ですか? それとも、何かこう、将来のための資料とかに……」


「抜きのセットアップと何の関係がある?」


「ワイヤーの長さがちょっと足りなさそうなので、傷とか破損が生じてもいいなら上から吊るのをやめて、抜けたまま落としてしまう手もあるかなと……」


 新藤の肩がすっと下りた。


「もういい」


「えっ? ちょ、ちょっと待ってください。すみません、今始めますから……」



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