異世界少女と引きこもり、タッグを組んで戦います。
初めてのアクションなのでダメダメなところもあると思いますが、優しい目で見て下さると嬉しいです。
【アリーヤ視点】
…………ここは何処なのだろうか。気がついたら何も無い草原に飛ばされていた。
「アリーヤ様! 大丈夫!?」
横を見ると、ハルが心配そうに此方を覗いていた。私は公爵令嬢らしくにこりと微笑んで言う。
「えぇ、大丈夫よ。心配して下さってありがとう存じます」
それにしても。私達はどうやって此処に来たのだろうか。私達は私の屋敷でお茶会を開いていた。勿論、エドマンド様もいた。が、気がついたら此処にいた。
エドマンド様は大丈夫だろうか。いきなり消えた私達を怒っていないだろうか。
「………あの」
小さい、か細い声がしてうしろを振り返る。すると、そこにいたのは小学二年くらいの女の子だった。黒目黒髪。見た目だけで判断するなら、私の前世の日本人みたいだった。
「あら、貴女何処から来たの? 私はアリーヤ・シラン・マノグレーネと申します。此方はハル。貴女の名前を教えて頂けると嬉しいわ。」
私は自己紹介をして、女の子に名前を聞く。
「……わたくし、アリアと申しますわ。以後お見知り置きを。」
そう言って来ていた服のスカートをチョコンと摘まむ。小さい体ながらに綺麗に、礼儀正しく挨拶をする女の子否、アリア。失礼ながら私は可愛いと思ってしまった。
だが、名字を名乗らなかったということは、平民なのだろうか。いや、決めつけるのはまだ早い。アリアの礼儀正しい動作は貴族そのものだった。
「……あの、アリーヤ様。ここが何処か分かりますか? わたくし、気が付いたらここにいて……」
アリアの話を聞いている限り、どうやらアリアもここに飛ばされたようだ。一体なんで私達はここに飛ばされたのだろうか。
私は考えていた。と、その時。
ぐわぁぁぁぁぁ!!!!
何かの叫び声らしきものが辺り一面に轟く。私は咄嗟に後ろを振り向く。すると、そこにいたのは……体の大きい鼠みたいな化け物だった。
「アリーヤ様! 僕の側を離れないで! そこにいるアリア様もっ」
咄嗟に私とアリアを背に庇いながら言うハル。そして、たまたま腰に帯刀していた剣を取り出す。私はいつでも呪文を唱えられるように準備した。
「……アリーヤ様、ハル様。短剣は御座いますか?」
大きな鼠みたいな化け物を睨みながらアリアが口を開く。私はドレスの下から短剣を取り出す。
「これっ!」
すると、アリアは小さいながらに綺麗に構えを取った。それはまるで、本当に小さい時から短剣を使っているといっているような綺麗な構えだった。
「アリーヤ、アリアッ!! 来るよっ!」
ハルがそう言った瞬間、鼠がこちらに向かって走ってきた。相変わらず気持ち悪いな。まぁ、それは兎も角。私は呪文を唱える為に小さく息を吸う。
『エルビート』
中位黒魔法の火系魔法だ。瞬間、鼠が炎に包まれた。やったか、と誰もが思ったその刹那。炎の中から鼠がのそのそと歩いて来た。は、こいつ何? 出かけた言葉を飲み込む。
どうやら火系魔法は聞かないらしい。腹立つな。
「アリーヤ様、離れて!」
ハルはそれだけ言うと、一気に跳躍して鼠を切りつける。剣は、鼠の肉を抉る。見るだけでもそうとうグロい。だが、そんな悠長なことは言ってられない。
ぎゃぁあぁぁあ!!!
肉を抉られた鼠は叫ぶ。私は思わず耳を塞いでしまう。そっとハルの方を見ると、鼠の尻尾がハルを地面に叩き付けていた。
「ハル!」
「来たら駄目だ!」
急いでハルのところへ駆け付けようとしたら、ハルに来るな、と怒鳴られた。思わず私の足は止まってしまう。
そう言えば、アリアは大丈夫だろうか。私はアリアがいると思われる場所へと視線を運ぶ。すると、そこにいたのは顔を真っ青にしていて今にも泣きそうなアリアだった。
アリアの唇はワナワナと震えていて、今にも倒れそうだった。
「アリア……怖いなら下がってて」
可哀相だが、私は冷たく突き放す。今、この場で上手く立ち回れないのなら言い方悪いけど、邪魔になるから離れていてほしい。
私はハルに上位白魔法を掛ける。
『アグドリーゼ』
◇◇◇◇◇
【アリア視点】
私は何をやっていたのだろう。アスカの記憶に囚われていて、立ち止まっていた。正直怖い。自分でも震えているのが分かる。でも、それでも、
「私も戦えるわ!」
私はそれだけ言うと一気に鼠の元へ走る。そして跳躍した。小さく息を吸うと、私は鼠を切りつけた。そして、先程のハル様みたいに地面に叩き付けられないように横に飛ぶ。
鼠からは紫色の血みたいのがドロドロと溢れ出てくる。うん、汚いな。
だが、先程アリーヤ様が魔法を使っていたが、どうやら魔法より物理系のものの方が利くようだ。
「アリーヤ様! 物理系の魔法を使って下さいませっ。やつは物理系のものしか利きませんわ!」
「分かったわっ」
アリーヤ様はそれだけ言うと、小さく息を吸う。そして鼠を睨み付ける。
『サードニード』
聞き慣れない呪文。アルカティアとはまた違った魔法。その呪文は、風で刃に変化した。そして鼠を切りつける。またドロドロと溢れ出る紫色の血。うん、やっぱりグロいね。……ん? あそこに、目の横に何かキラリと光るものがある。目を凝らして見てみると、魔法石? みたいなものがあった。もし、あそこに剣を当てたらどうなるのだろうか。
「……ハル様、鼠の目の横に魔法石みたいなものがあります。あそこに剣をたてて下さいますか?」
「分かった。アリア様、離れていて」
一気に飛び出すハル様。そして、例の魔法石みたいなものに切りつける。すると、鼠は叫び声を上げた。
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
鼠の声が辺り一面に轟く。私は死んだ時を思い出して思わず耳を塞ぐ。怖い。嫌だ。まだ死にたくない。でもそうは言ってられない。私は真っ直ぐ前を見据える。
気が付くと、私の目は涙で濡れていた。私は涙を荒っぽく拭う。泣いたってどうにもならない。戦うしか無いのだから。
◇◇◇◇◇
【ハル視点】
アリア様に言われた通りに魔法石に剣を刺すと、紫色の血みたいなのが溢れて来た。汚い。おぞましい。吐き気がする。そんな思いを飲み込んで僕は横に飛んだ。先程みたいに横に投げ出されないように。あれは痛かった。
「は、ハル……! 鼠から何か出ているわ!」
アリーヤ様が慌てたような声をだす。急いで鼠に視線を投げると、オレンジっぽい煙が出ていた。そして、中から出てきたのは………。
先程よりも体が小さくなっている鼠だった。
「……は?」
思わず心の声が漏れてしまった。だけど、コイツ何なの? やっと倒せた、と思った刹那これだ。もうムカつくったらありゃしない。だけどまぁ、先程よりも倒しやすいだろう。
『リン・ザ・ブランシェ』
聞いたことの無い呪文が聞こえた。声のした方を見ると、そこにはアリア様が立っていた。手を真っ直ぐ延ばして、ハッキリと呪文を唱える。
瞬間、鼠が凍った。綺麗に凍った。僕は思わず魅入ってしまう。
「ハル様、その剣で鼠を切って下さいまし」
淡々と告げるアリア様。僕は言われた通りにする。
「なっ!?」
だが、その鼠は全然切れなかった。何回切り裂いても剣は弾かれるばかり。段々と腹が立ってきた。思わず僕は上位黒魔法の火系魔法を使ってしまった。序盤でアリーヤ様が魔法を使って効かなかったことを忘れて。
『エルビヨンデ』
唱えたときにはもう遅かった。鼠は膨張するんだ。僕の予想通り鼠は元の大きさへ戻ってしまった。瞬間、光の速さで僕は横へ投げ出された。あっと思ったときにはもう遅くて、僕の横腹には木が刺さっていた。
「つっ!?」
意識が段々とぼやけてくる。僕はこのまま死ぬのかな……。
そんな時だった。急に周りに冷気が漂い、僕とアリーヤ様とアリア様以外全部凍ってしまったのは。どちらが凍らしたのだ……? そう思ってチラリ、と見るとアリア様の周りに沢山の氷の礫があった。じゃあ、先程の冷気はアリア様なのだろうか。
「これでもう、おしまいだよ……」
アリア様はそう一言呟くと鼠に向かって氷を一気に放った。そして、気が付くとアリーヤ様が側にいて僕の怪我を治してくれていた。うん、もう全然痛くない。
「アリーヤ様、ありがとうございます」
だが、僕は思った。
別に良い。倒せたのは全然良い。けど呆気ない過ぎないか? 普通こういうのってもっと苦労して倒すんじゃないのか? と。
「……アリーヤ様、ハル様、倒せて良かったですね! わたくし、魔法が使えるか分からなかったのですけど、何とか倒せて良かったですわ」
アリア様がにこやかに微笑んで言う。だが、魔法が使えるか分からなかったって……。魔力が無い、と言うことだろうか。
アリア様の顔を窺うと、これ以上聞くなと書いてあった。それじゃあ、聞かないでおこう。うん。
「は、ハル!? 体が……!」
ん? アリーヤ様、体がどうかしたの?
アリーヤ様の方を見るとアリーヤ様の体が透けていた。驚いて、今度はアリア様の方を見るとアリア様の体も透けていた。まさか、と思っておそるおそる自分の体を見下ろした。結果、予想通り僕の体も透けていた。
元の世界に戻れる、と言うことだろうか。それはそれで良いな。
「アリア様、どうやら元の世界に戻れるみたいです。一緒に鼠退治、ありがとうございました。」
「……ア、アリア! 私も一緒に鼠退治出来て良かったわ! ありがとう存じます。そちらの世界でも頑張って下さいませ」
アリーヤ様が腰を90度に折ってお辞儀をする。綺麗だな……。可愛いし。
「……わたくしも共に戦えて良かったですわ。ありがとう存じます。そちらも頑張って下さいませ」
見た目の年齢とは相応しくない、儚げな笑顔でお礼を言うアリア様。不覚ながらも美しいと思ってしまった。
気が付くと、周りが光始めた。僕はそろそろ戻れるんだな、と確信する。元の世界に戻ったらエドマンド様に謝らないとな、そう思って僕は眼を閉じた。